「あ、わたし今、ととのった」
フィンランドの田舎、レヴォントゥッリリゾートのキンキンに冷え切った湖で一人きり、大の字に浮かびながら私の心に突如凪が訪れた。
サウナで究極まで熱々に温められた体温を、湖の冷たさがすうっと奪っていき、体中を駆け巡る血流の音が耳に痛いぐらいに響く。
フィンランド滞在3日目のことだった。
その時、うっかりすると涙が出そうなくらい、私は満たされた気持ちでいっぱいだった。
こういった状態のことを、サウナー達は「ととのった」と呼ぶらしい。
ついに私は、サウナーの入り口に立ったのかもしれない。
サウナと湖があれば、それだけで最高!
一体なんのこっちゃとお思いの方も多いでしょうが、今密かにサウナブームに火がついているのをご存知だろうか。
サウナ好きの人達は「サウナー」と呼ばれ、日本サウナ・温冷浴総合研究所の調べによると週一回以上サウナ浴をするサウナーは推計358万人もいるらしい。
「サウナっておっさんばっかやろ?」そんなこと言っちゃってるあなたは、すっかり時代の波に乗り遅れちゃってる、そう断言しよう。
サウナのイベントが開催されれば満員御礼、サウナの魅力を描いた「サ道」という漫画まで出ちゃってるというのだから、その勢いは計り知れない。
そんな昨今のサウナブームを受けて、今回フィンランド政府観光局様とフィンランド航空様のご招待を受け「ROAD TO SAUNA MASTER」というカッコいい名前の視察旅行に参加させていただいた。
「サウナーマスターへの道ってww」と、生まれてこの方、湯船にじっとつかるのも苦手な私は、ムーミングッズを買うことだけを目的に、ヘルシンキまで楽々直行、ヨーロッパまで最短の空の旅、フィンランド航空に乗り込んだ。
しかし、日本出発から20時間もたたないうちに、私はサウナで暑さの限界まで粘っては冷え切った湖にケタケタ笑いながら飛び込むという奇行を延々と繰り返していた。
アメイジング、フィンランドサウナ。
サウナーと名乗るにはまだまだ未熟ではありますが、フィンランドでこれだけサウナばっかり入る旅をした人ってそうそういないんじゃないかと自負しております。
私のサウナ漬けの旅、サウナーの方にも、まだサウナに出会っていない方にも、どうぞ皆様のご旅行の参考になりますように。
ほぼ手ぶらで楽しめちゃう都会型サウナもあります
『サウナに入ればみな兄弟』
今回、サウナマスターへの道に参加したのは全員で12人。
驚くべきことに、なんと半数がサウナ大好きサウナー達であった。
日本にこんなにサウナ文化が浸透しているとはつゆ知らず、サウナビギナーのNOTサウナーな私たち半数は、出会ってすぐにサウナ話で打ち解けていくサウナーたちの後を恐る恐る付いて行くことに。
そして、フライトと車移動でやっと到着した、ハメーンリンナにある「PETAYS RESPRT」にて遂に私たちのファーストサウナの時がやってきた。
そして10分後、私たちは全員サウナ馬鹿になった。
スモークサウナ
サウナの後はこの桟橋を走って・・
飛び込めーーーー!
湖で冷えた後は露天風呂♪
正直大人になってから人前で水着を着ることなんてそうそうないので、最初こそもじもじしていたのだが、極限まで体を温めて、夕日が沈む目の前の湖に飛び込めば、そんなこと全部吹っ飛んでしまった。
いつも日本で会う時はスーツを着て、名刺を交換して、ビジネストーク話している方たちと、水着一枚できゃっきゃしていると、いつの間にやらあだ名で呼びあい、敬語は消えてなくなっていった。遂には、今日初めましての人を桟橋から突き落とす仕舞であった。
サウナに入る前まではちょっと距離があったのに、サウナに入った後はみんなリラックスモードで、話す内容もビジネスと関係なくなってくるのだから面白い。
仕事やサウナ、フィンランドへの思い、その他他愛のない話をたくさんすることができた。
日本の会社でも、仕事の合間に「サウナミーティング」でも入れたら、もっと仕事がうまく回るのにと思わずにはいられなかった。
何はともあれ、私たちはファーストサウナを無事に体験することができた。
周りのサウナーたちの巧みな話術も相まって、私たちは一瞬でサウナの虜になったのである。
『フィンランド人の心、それがサウナ』
「サウナ」という言葉がフィンランド語だというのを知っている人がどれだけいるだろう。
サウナは日本に限らず、世界中で使われている唯一のフィンランド語。
昔は、フィンランド人にとってサウナは、生まれて死ぬところであり、祈りをささげるところでもありました。(昔は出産もサウナ、最期の時もサウナだったというのだから驚き)
サウナの中ではみんな平等という考えがあるため、私たち外国人観光客にもみんな優しいのがとても印象的。
基本的にフィンランドの人たちは優しい性格だと感じたが、サウナの中で会うとそれに輪をかけて優しくしてくれる。
難しい顔をしてサウナに入ろうとしても、話が弾んじゃうんだから、しょうがない。
サウナの中ではみんな自然に良い顔になるのが、とても気に入りました。
日本の銭湯でよく見かける派閥争いや縄張り意識なんて全くないので、地元の人におびえて隅っこでびくびくということも一切ありません。
どこに行っても「サウナに入りに日本から来た」といえば、非常に暖かく迎え入れてもらえました。
日本で言えばなんだろう。やっぱり温泉好きな外国人がきてくれたら嬉しいかな。
サウナの中でみんなリラックス
サウナ後のリラックスタイムもたまらない
今回私たちはどこのサウナにも水着着用で入っていたのですが、本来は男女一緒で真っ裸で入るそう。そして驚くなかれ、フィンランドの大学には、サークル棟みたいなノリでサウナがあるそうなのですが、飲み会などは、そのサウナでみんな真っ裸で一緒にサウナに入るのです!
多感な大学生の男女にそんなこと許したら、日本だったら絶対に逮捕者続出なのですが、それがフィンランド人の普通。「サウナってみんな平等なんだから、何か着てるなんておかしくない?」という感覚なのだそうです。
真っ裸で入るサウナ、真っ裸で飛び込む湖はまた格別だそう。
サウナとフィンランド人の切っても切れない関係性は、とても素敵に私の眼には映りました。
『日本からやって来た、クレイジーサウナ野郎たち』
サウナ・キャピタル、タンペレ
タンペレはサウナ大国フィンランドの中でも公衆サウナが一番多く「サウナ・キャピタル」と呼ばれています。
そんなサウナ首都観光の日の行程表を見ると、2つのサウナを見学して、2つのサウナを体験して、計4つのサウナを訪れることになっていた。
しかし、その時点で既にサウナ馬鹿になっていた私たちは、行程を変更し、4つ全てのサウナに片っ端から入ることに。
キャッキャ盛り上がる私たちを、現地の方が信じられないという目で見ていたことが忘れられない。
一つ目は町のど真ん中にあるスタイリッシュな都会型サウナ「トゥリンサウナ」へ。
レストランも併設されており、サウナに入っているとお酒のオーダーまで聞きに来てくれる。
シャワーにはアメニティ完備、更衣室には化粧水・ドライヤー等完備、そして水着も借りることができるという、仕事帰りでも問題なしのサウナ。
サウナで温まった後は、ここには湖が無いので外気浴になるのですが、扉を開けると道路から丸見えの広場が用意されており、驚愕。しかし、道行く人も何にも気にせず通り過ぎていく、そのフランクさがたまらない。
このお気軽さが参加者の中でも一番人気のサウナでした。
サウナを出た後はレストランで美味しい食事とサウナビールなるものを体験。
さっぱり美味しいサウナビールが乾いた体にいくらでも染み渡っていきます。
二つ目は、タンペレで一番新しいサウナ「クーマ」へ。
ハイテクシステムで、入場するにもロッカーを使うにもピピっと鍵をかざすだけでOK。
こちらのサウナは川に面してはいるのですが、ボートが行きかう場所のため、飛び込みは禁止でした。
サウナ用の薪にクマがプリントされていて、併設のバーもレストランもお洒落を追及しているため、インスタ女子にもお勧めです。
三つ目は、現存する最古の公衆サウナ「ラヤポルティサウナ」へ。
まるで遺跡みたいな作りですが、1906年の開業からずっと人々に愛されてきたのが伝わってくる、とても温かみのあるサウナでした。
サウナで温まった後は、外のベンチで外気浴なのですが、まるで絵本のような素敵な空間でした。私たちは水着着用だったのですが、他の人たちは裸にタオル一枚だけで、でもみんなそんなこと気にせずに涼んでいて、見えちゃわないか一人ソワソワしていました。
そしてついに、4つ目の「ラウハニエミ公衆サウナ」へ。
2つ目のサウナから上がったあたりから、一人顔色が悪くなってきたメンバーもいたのですが、彼が最後の力を絞って4つ目のサウナに挑む姿は、私たちの目に感動の涙を浮かばせました。
ラウハニエミ公衆サウナはタンペレ市内からバスに乗って15分ほどの所にあります。男女一緒のサウナで、大小2つのサウナが用意されており、大きい方には50人ぐらい一気に入ることができ、小さい方でも20人ぐらい一気に入れる程のサイズ。
金曜日ということもあり、サウナの中はぎゅうぎゅうでした。
やっぱり人数が多いと、信じられないぐらい大量の水をかけて一気にサウナ内の温度を上げる無作法ものがいて、他の利用客はあまりの暑さに顔を覆ってもだえることになる一幕も。
同行のフィンランド航空サウナーさんは、ここでふらふらになって、三段あるサウナの段差を、それは見事に一番上から下まで転がり落ちた。
一歩違えば大惨事なハプニングでしたが、そのおかげで、周りのフィンランド人たちが話しかけてくれるきっかけになりました。
そしてゆでだこになった後は、ふらふらとみんなサウナから出てくると、そのまま目の前の湖に飛び込む。
そして、ここにはなんと飛び込み台がついているのです。キャッキャ言いながら、飛び込みまくり写真とりまくり、人数も多かったので、ちょっとしたアミューズメントパークのような雰囲気でした。
仲間がサウナ内での見事な階段落ちを披露し、ちょっとした有名人になった私たちは、その後回りの人たちに話かけられ、非常に楽しい時間を過ごしていたのですが、そこで誰かが、今日一日で4つのサウナを回ってきたと話したらしく、その後、現地コーディネーターさんの元に「あいつらは何でわざわざ日本からサウナに入りにきているんだ」「一日で4つのサウナに入るなんて、フィンランド人でもやらない」という声が届いていたそう。
フィンランド人でもやらない一日4つサウナ巡り、私たちは見事、「日本からやってきたクレイジーサウナ野郎」として名を残した。
『ムーミンに会いたくて・・夏』
ここまでサウナの話をしてきておきながらですが、私にとってフィンランドはムーミンが住んでいる国であって、ムーミンがいたからこそフィンランドという国に親近感を持っていたという、それ以上でもそれ以下でもない国でした。
それぐらい私の中でムーミンという存在は大きなもの。
ムーミンシリーズの最終巻、お話の中にはムーミン一家は全く出てこない。
からっぽになったムーミン一家の家に集まった仲間たちが、それぞれムーミン一家との思い出を語り合いながら、それぞれの道へと進み始める。
ムーミン好きとしては、鼻の奥がツーンとしてくるような話ですが、そんなお話が聞けちゃうのが、タンペレにあるムーミン美術館。
想像通り、来場者のほとんどは日本人ということですが、この美術館は私にとってはルーブルよりも何よりも素敵な美術館でした。
2017年6月にリニューアルされ、以前の美術館を知っている人は「同じ美術館とは思えないぐらい!すごい充実した!」ということなので、以前行ったことがある人でも非常に満足できる内容となっております。
館内は撮影禁止なのですが、今回は特別に許可がもらえたので、雰囲気だけ写真でお伝えします。
最終日、最後の最後までサウナで粘り続けた私たちは、時間ギリギリにヘルシンキ空港に滑り込み、別れを惜しむ間もなく、それぞれ日本各地にフライトがあるフィンランド航空へと乗り込み、東京・名古屋・大阪へと帰路についた。
思い起こせば、到着してすぐにサウナのある地方都市へ移動し、帰りもこのような状態だったため、私はヘルシンキ市内を見てさえいない。
大好きな映画「かもめ食堂」に出てきた市場もアカデミア書店も、マリメッコのアウトレットにも行かなかった。
買い物する時間もほとんどなかったし、街歩きも観光もほとんどなかったと言ってもいい。
「いやいや、何しに10時間もかけてフィンランド行ったん?」かもしれないが、胸を張って「サウナ入りに行っただけだけど、なにか?」と答えよう。
それで良い。有名どころを見なかったとしても、私はフィンランドもサウナも大好きなのだから。
オーロラが観られる国、サンタクロースが住む国、ムーミンが生まれた国、マリメッコが手軽に買える国、今までフィンランドを言い表すのにたくさんの表現が使われてきましたが、実際フィンランドでは、今も昔もずっと変わらず「サウナの国」なのだと強く感じた旅になりました。
世界で一番サウナがある、世界で一番幸せな国
これ以上の理由が必要でしょうか。
是非次のご旅行にはフィンランドを体験しに行ってみてはいかがでしょう。
ととのった~!キートス、フィンランド!
2018年8月
大野史子
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どこにでもあるので、この素晴らしい体験を一度はお試しください!
アルバ・アールト博物館★★★★★
建築が好きな人でもそうでなくても、北欧デザインを知る上でとても興味深い
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ムーミンもサウナもある素晴らしい街