先日サッカー日本代表が来年開催のロシアワールドカップ出場を決めましたが、一足先にロシアの地を踏んでまいりました。
いまだ20世紀の超大国、ソ連の面影を残す国といわれますが、平成生まれの私はソ連という国を世界史の授業以外でまともに聞いたことがなく、物心ついたときにはすでにプーチン大統領が誕生していた世代。それゆえ、アメリカと張り合っていたのに一気に分裂、崩壊してしまった東の大国ソ連とはどのような国だったのだろう?という興味をずっと持っていました。今回はロシアの旅で発見した、懐かしいのに新鮮なソ連の遺産にスポットを当ててみたいと思います。
<世界の歴史を変えた?激戦地から「英雄都市」となったヴォルゴグラード>
今回、モスクワとサンクトペテルブルクという二大定番都市の他にヴォルゴグラードを訪問しました。その名の通りロシアの母なる川といわれるヴォルゴ川沿いの街で、中央アジアやコーカサスにも近い場所柄中世から通商都市として栄えた都市。しかしこの街を最も有名にしているのは、ここがスターリングラードと呼ばれたソ連初期に起こったある出来事。それが、第二次大戦で最も激しく、悲惨な戦闘といわれた「スターリングラード攻防戦」です。
ヴォルゴグラードの主な見どころは、その戦いに関するスポット。まずは郊外のママエフの丘にそびえ立つ街のシンボル、母なる祖国像へ向かいます。
階段を上ってまず見えるのが、銃と手榴弾を持った兵士をかたどった死守の像。その先は兵士のレリーフがびっしり書かれています。
ここを抜けると、次に現れるのが戦死した息子を悼む母を描いた悲しみの像。そしてついに母なる祖国像にご対面です。
とにかく大きく、ものすごい威圧感を感じます。右手に持っている剣の先から台座までは役85メートル、1967年の建造時は世界一の巨像だったとのこと。
ママエフの丘はヴォルゴグラード市街地を見渡せ、戦闘の際は独ソ両軍がここをめぐって激しく争いました。像から感じた威圧感は、ソ連からロシアに国家が変わろうとも、何十年、何百年経とうとも戦いの悲劇を風化させないという強い意志の表れでしょうか。
像のすぐ近くに戦没者慰霊堂があり、中央には永遠の炎が燃えています。常時衛兵が守っており、花を手向ける市民や旅行者の姿があとを絶ちません。
神聖な空気に満ちた堂内ですが、1時間に一回行われる衛兵交代の儀式ではさらに空気が引き締まって感じられます。
衛兵が炎をずっと見守っている限り、ここで起きた戦いが忘れられることはないでしょう。
ヴォルゴグラード市内には、戦いに関する資料が集められたスターリングラード攻防戦パノラマ博物館があります。
すぐ隣には爆撃を受け外観だけがかろうじて残った「パヴロフの家」と「旧製粉所」があり、あわせて見学したいところ。
博物館に入ってまず見られるのは、貴重な独ソ両軍の兵器や軍用品、プロパガンダポスターなど。
戦闘を追体験するエリアでは、戦いの経過をたどったジオラマや兵士が書いた手紙が展示され、胸を打ちます。
圧巻なのが博物館上部にある、戦いの模様をリアルに描いた360度パノラマ。まるで目の前に戦場が広がったかのような立体感が戦争の壮絶さを見る者に伝えます。
この戦いでの死者はドイツ軍をはじめとする枢軸軍が約70万、ソ連軍と民間人をあわせて約110万。開戦前に約60万人いた人口が戦闘終結時点で1万人弱まで減っていたといわれ、いかに凄惨な戦いだったかが分かります。
このパノラマの通り一面焼け野原となったヴォルゴグラードの街は戦後一気に復興を遂げ、現在人口100万人を超えるロシア有数の都市になっています。
最後に、市内から約30キロの地点にあり大規模ながらまだまだ訪れる人が少ないというロソシュカ戦没者墓地へと向かいます。
こちらはソ連軍の兵士の墓地ですが、すぐ近くに敵軍であった枢軸軍兵士の墓地もあります。
ドイツ軍兵士の墓地は、立方体の石の墓標におびただしい数の戦没者名が刻まれたもの。どれだけ数の兵士がこの地で非業の死を遂げたのか、思い知ることになります。
その隣にあったのは、ロシア正教の特徴である3本の横線がある十字架と、ドイツで一般的な1本の横線の十字架。将来、ここにロシアとドイツが共同で教会を建てるとのことです。この教会はヴォルゴグラードの平和と復興の象徴になるかもしれません。
スターリングラード攻防戦で膨大な数の犠牲者を出しながらソ連が勝利した結果、独ソ戦におけるソ連の優勢が決定的になり、第二次大戦のドイツの敗北へとつながっていきます。この戦いがあったからこそソ連が存続でき、世界の勢力図が確かになったといっても過言ではなく、それゆえ独ソ戦(ソ連側の呼び名では「大祖国戦争」)で英雄的行為を見せた都市に贈られる英雄都市の一つとなっています。
そのため、先ほど書いたママエフの丘を含め「いかにもソ連!」なモニュメントや建造物が見られるのがヴォルゴグラードの特徴です。それと同時に、あまり日本人が知る機会の少ない第二次大戦のヨーロッパ戦線を直に感じることができる貴重な都市といえるでしょう。
<ソ連マニア必見 モスクワに残るシブいノスタルジックスポット>
冷戦時代、超大国の大都会としてニューヨークと相対する存在だったモスクワ。今そのオーラは消え失せているとはいえ、まだまだソ連の遺産は健在です。モスクワ=数あるヨーロッパの中の一都市、という認識だった私も、遠い昔のことだと思っていた光景を目の当たりにして気持ちが高ぶりました。
モスクワでひときわ目立つ建築物が、スターリン・クラシック様式と呼ばれるビル群。ニューヨークの摩天楼に対抗意識を燃やしたスターリンが建設させたといわれ、最強悪役の住まいのような外観からして今のモスクワで最もソ連らしいシンボルといえるかもしれません。
またおなじみの赤の広場に隣接しているのがグム百貨店。昔も今もモスクワ市民に愛され、単なるデパートの域を超えた、都市文化を象徴するような場所。銀座のような雰囲気を感じました。
いまやブランド店も多く入っていますが、華やかさの中にもどこかレトロな雰囲気が漂います。
よりソ連時代を深く知りたい!というさらにマニアックな方におすすめなのが現代史博物館。ここではソ連が誕生したロシア革命と、ソ連の崩壊にスポットを当てた展示が行われています。
英語での説明が限られているのがいかにもロシア・・・ですが、興味のある方なら退屈しないはず。日本人にとっては、日露戦争のロシア側の資料が見られる貴重な場所でもあります。
<ロシアの地下鉄駅はただの駅じゃない!世界一美しい地下鉄を見逃すな>
知る人ぞ知るロシアにおけるソ連の遺産の真骨頂といえば、ずばり地下鉄。ロシアの地下鉄駅は地下壕を兼ねているため地下深くにあり、ホームのつくりは地下宮殿と称されるほど豪華絢爛。入口もたいてい重厚な建造物で、駅全体が他の国では見られない独特の空気が流れています。
まずはサンクトペテルブルクの地下鉄からご紹介。
モスクワの地下鉄は、首都だけあってさらに豪勢なつくり。思わず一駅ずつ下車して見学、いや「鑑賞」したくなるほどです。
そんな中で私のお気に入りは、コムソモーリスカヤ駅。この駅の見どころはなんといってもホームの端に鎮座するレーニン像。
そしてもう一つがプローシャチ・レヴォリューツィ(革命広場)駅。革命広場という名前だけあって、今にも進軍しそうな兵士たちの彫像がずらりと並んでいます。
その兵士たちが連れている(?)犬。なんとこの犬の鼻を触ると幸運が訪れるという言い伝えがあるのです。
いくら世界は広しといえども、こんな縁起がいい地下鉄駅が他にあるでしょうか。
ロシア革命からちょうど100年、そしてロシア連邦誕生から26年。いまだに超大国ソ連の面影を色濃く残す一方、どんどん進化を続けているのもまたロシアの一面です。
来年には東欧初となるサッカーワールドカップも控えています。
「いかにもソ連!」なモニュメントや建造物が目立つヴォルゴグラードもワールドカップの試合会場になっているそうで、ママエフの丘から建設中のスタジアムが見えました。
エルミタージュ美術館や由緒ある教会で知られる古都サンクトペテルブルクも、この地出身のプーチン大統領の主導のもとどんどん変貌を遂げています。
世界でも他に類を見ない、壮絶な歴史を経験してきた国ロシア。過去、現在、未来が絶妙に共存している今、一番の旬の国であると言えるかもしれません。日本にとってずっと近くて遠い国といわれてきましたが、今行かないともったいない!と強く感じた旅でした。
【スタッフおススメ度】
●サンクトペテルブルク ★★★★
エルミタージュ美術館や郊外のペテルゴーフ夏の宮殿、エカテリーナ宮殿など見どころ盛たくさん。今回3泊したがあと2日は欲しかった。
●ヴォルゴグラード ★★★★
日本で第二次大戦といえば日米間の太平洋戦争だが、同じぐらい悲惨だった独ソ戦を深く知ることができる貴重な都市。外国旅行者があまりおらず、完全に復興した現在の街はどこか素朴な雰囲気。
●モスクワ ★★★★★
冷戦時の超大国の首都という役目は終えたが、それでも赤の広場やクレムリン、街のあちこちに残るスターリン・クラシック様式の建造物には圧倒される。個人的なおすすめは「地下宮殿」とも称される豪華絢爛な地下鉄駅巡りで、特に環状線(5号線)の駅はいずれも見ごたえあり。
【おすすめツアー】
<現代史を旅する!!平和の願い・・・☆スターリングラード攻防戦の舞台へ!!☆ヴォルゴグラード&モスクワ 2都市周遊>
http://www.fivestar-club.jp/tour/?tcd=KR601
<美しきロシアの田舎・黄金の環☆世界遺産のスズダリを日本語ガイドがご案内☆サンクトペテルブルグ・モスクワ周遊>
http://www.fivestar-club.jp/tour/?tcd=KR015
(2017年10月 伊藤卓巳)
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