遥かなるオーストラリア プリミティスムへの冒険

遥かなるオーストラリア プリミティスムへの冒険


「インドには行ける者と行けない者があり、その時期は運命的な業(カルマ)が決定づける」
三島由紀夫がそう語ったインドを訪れて1ヶ月後、出張先に命じられたのはオーストラリアだった。プライベートな旅では選択肢にも入らないディスティネーション。
これはどんなカルマの仕業なのだろうか。
○●○ケアンズ○●○


ハーバー沿いの遊歩道から溢れ出す、やわらかな陽の光。のんびりと朝のおしゃべりを楽しむペリカンの群れも、目は鋭く獲物を見定めている。
芝生では欧米人がヨガをしたり本を読んだり、とてもにぎやか。
気持ちの良い朝の潮風に誘われて、なんだか私も走り出したくなってきた。
クルーズの乗船受付終了まであと3分…!




今回訪れたモアリーフはグレートバリアリーフのど真ん中、アウターリーフと呼ばれるエリアにある。グレートバリアリーフのクルーズツアーでは、ケアンズから1~2時間ほどかけてフェリー会社が所有するポンツーン(浮島)を訪れる。ここではシュノーケリングはもちろん、グラスボートや半潜水船への乗船が無料で何度でも楽しめる。(ダイビングやシーウォーカー、ヘリコプターツアーは有料)
ほとんどのクルーズ船に日本人スタッフが乗船しているため、マリンスポーツ初心者も安心だ。
船は結構揺れたものの、モアリーフのポンツーン周辺は穏やかな波。体験ダイビングにぴったりなエリアだという。
まずはグラスボートへ乗船。海の透明度が高いため、海面からでも十分美しい世界を堪能できる。驚くほどに色彩豊かで個性的な珊瑚礁や、ひらひらと漂う魚たちはまるで舞踏会。ひっそり営まれる海の生活をのぞき見る罪悪感をちょっぴり感じてしまう。それでも、その美しさに目が離せなくなっていた。



人生初シュノーケリングにチャレンジ!
瀬戸内海のすぐそばで生まれ育ちながら、どんなに頑張っても10mしか泳げない自分も、海に入って3分でコツをつかむことができた。シュノーケリングってこんなに簡単だったのか…!驚くのも束の間、鮮やかな珊瑚の森の大冒険にすっかり夢中になっていた。
運がよければ、ナポレオンフィッシュなど珍しい魚たちと記念撮影もできるだろう。ケアンズに訪れたなら、間違いなく体験して頂きたいアクティビティーのひとつだ。
○●○ウルル○●○

アウトバックパイオニア横の展望台より

ケアンズからの国内線、左側の窓からその光景を観たとき、思わず息を飲んだ。
一瞬の出来事ではあったが忘れられない。
大地を従え、天候すらも自在に操っているかのようなウルルに驚いたのではない。
太陽の光や雲、風に左右されところどころ色を変える、燃えるようなアウトバック。それを背景に、厳しい環境で生きる砂漠の草木は、上空から斑点のように見えた。斑点のパターンを多用するアボリジナルアートそのままの景色が、遥か彼方まで続いていた。
先住民アナング族の人々は、この果てしない大地から生きることを学び、火と儀式によってこの地を守っているのだという。

アボリジナルアートのお土産

先住民は文字を持たなかった。音楽や踊り、話し言葉とアボリジナルアートによってコミュニケーションをとっていた。自然模倣のアート、自然をパターン化したアートは世界中に存在するが、そのほとんどが装飾としての自然模倣だと思う。アボリジナルアートは、アートというよりも象形文字に近いのかもしれない。



ウルルの色のうつろいは、とても繊細だ。
あんなに壮大で、人々に己の存在意義を問いただすかのような一枚岩ではあるが、本当に、本当に少しずつ、優雅さをもって表情を変える。壊れてしまいそうなほど繊細で、まばたきをすると見逃してしまいそうな刹那的な美しさがあった。水面を少し触るとすぐに波紋が広がるように、ウルルも指一本触るとその先端から色が変わってしまうのではないか。サンセットは、そんな不思議な空間だった。
12月ではあったが、南半球は夏真っ只中。最高気温40度に達する日も少なくない。この時期エアーズロックの登山は朝の6~8時に制限される。8時までに登山道が開かなければ、登ることはできない。
その日は「夏」が理由で駄目だった。暑すぎて危険、風が強すぎて危険というのが「夏」の具体的な理由。登山口付近では、季節の変わり目のような強い風が絶えず吹いていた。ウルルの頂上は、地上の7倍強い風が吹いている。

たとえ登山が催行できなくとも、麓めぐりツアーは大変興味深いのでおすすめだ。
ウルルには、何万年も語り継がれている伝説がある。先住民アナング族は、我々にそれを話したがらない。実際にどんな話がどのくらいの数存在するのか、知られていない。彼らの口によって語られたいくつかの伝説の軌跡が、この一枚岩にしっかりと刻まれている。先住民らと同じように灼熱の太陽と風、燃えるような大地のパワーを感じながら、伝説が生まれたまさにその場所で、私たちはプリミティスムな物語を楽しむことができる。

ニシキ蛇女クニヤがリル族の男を叩いた際の裂け目

クニヤと甥クカクカが守るムティジュルの水場

ウルルに刻まれた水場への道すじ ◎は水場、Cは人を表す

限られたエリアでのみウルルに触ることができる



今までの自分は、歴史や文明がない国に行くなんて考えられなかった。オーストラリア出張を告げられたとき、正直がっかりした。(ごめんなさい)
でもそこには世界史に載らないプリミティスムな歴史と文明があった。ローカルな価値観に基づいた文化があった。思いもよらないことで、楽しんでいる自分がいた。もしかしたらこういうのを、「自分探しの旅」なんて言うんじゃないだろうか(こんなこと口にするのは恥ずかしいけど…)
そういうわけで、今自分のイチオシのディスティネーション「オーストラリア」へのご旅行はいかがでしょうか?
2013年12月 仙波
このエリアへのツアーはこちら

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