ボクはファイブスタークラブの滝男(たきおとこ)です
世界3大瀑布のイグアス滝、ヴィクトリア滝、ナイヤガラ滝の全てに行ったからです。旅の猛者ぞろいのファイブスタークラブのスタッフの中でも、この3つとも行ったことがある者はあまりいません。しかし、「滝男」と胸を張るにはもう一つ足りないものがあって、ボクはこれまで「滝男」を名乗るということはできませんでした。それは、世界一の高さのエンジェル滝に行ったことがなかったからでした。
「世界3大瀑布に加えて、エンジェル滝にも行ったら、心おきなく『滝男』を名乗れるのに、、、、。」 しかし、その願望が叶うときが訪れ、ボクは大阪から29時間をかけて、エンジェル滝のあるベネズエラのカラカス空港に降り立ちました。
☆ 序章 カナイマの滝ツアー
翌朝早く、カラカスを発ったボクは、国内線の旅客機と、乗客数人の小型機を乗り継いで、エンジェルフォール(滝)を見に行くツアーの玄関口にあたるカナイマに着きました。カナイマはこの地方、ギアナ高地にある小さな村ですが、カナイマ湖という湖べりに、そこに落ちる4つの滝が作るみごとな景観を楽しめるロッジが並ぶリゾート地です。
カナイマに着いたボクは旅装を解くとすぐ、このカナイマ湖に落ちる滝のうちの、「サポの滝」と「アチャの滝」をカラダで体験できるツアーに出発しました。
ロッジ近くのボート乗り場から湖に漕ぎ出したボートは、エンジン全開で、湖べりのロッジからも見える4つの滝の前を横切って湖の奥へ向かいます。やはり、近づくと、滝の迫力は増して目を奪われます。
このあたりの川水にはタンニンが溶け込んでいるそうで、滝の水も湖の水も全て茶色っぽく色づいています。
やがて岸辺に近づくと、ボートは細い水路を抜けて、ちょうどカナイマの村の方からは見えない裏側にある入り江に出ました。「サポの滝」は、その入り江に豪快な音を立てて大量の水を落としていました。
ボートを降りて山道を五分ほど歩いて行くと、サポの滝のすぐ横に出ました。道ばたでTシャツを脱いで水着だけになると、ガイドは、流れ落ちる滝水の裏側の道を行くと言います。言葉通り、滝の裏側には、大人が普通に立って歩けるほどの空間が道となって続いていました。所々、水しぶきを浴びますが、無事、くぐり抜け、滝の反対側に出られました。
反対側からの滝の姿を写したり、滝の上側に登って、上からの景観を眺めたりと、一通りサポの滝を楽しんだボクは、サポの滝を後に、次は歩いてアチャの滝へ向かいました。
アチャの滝は、カナイマ湖の四滝の中で、村からはいちばん遠く(奥側)に見える滝で、村からは、その勢いははっきりしないのですが、やはり、すぐ近くで見るとすごい迫力です。
アチャの滝でも、滝の裏側の道をくぐり抜け、滝の反対側に出て、滝の景観を眺めて楽しみまし
が、何かもう一つ物足りません。ボクのカラダは、まだ滝を体感していない、と気が付いたボクは、滝水に打たれてみることにしました。
バリ島でのラフティングやイグアス滝のボートサファリで、豪快に落ちる滝水に打たれたことはありましたが、やはり、もの凄い勢いで落ちてくる水の下に入るのは勇気が要るもの。でも思い切って打たれてみると、もう痛いほど重い水が全身をたたきつけてくれました。ボクのカラダは打ち震え、ちょっとした快感。
☆ クライマックス エンジェルフォール(滝)トレッキング
その次の日、ベネズエラに来て3日目、いよいよエンジェルフォールをこの目で見られる日が来ました。
朝、カナイマの村を荷台に座席を備え付けたトラックで出発したボクたちトレッキングツアー一行は、四滝の上までそのトラックに揺られた後、ボートに乗り換えて、エンジェルフォールに続くカラオ川をさかのぼりました。
やがて、エンジェルフォールが流れ落ちる巨大なテーブルマウンテンである「アウヤン・テプイ」が見えて来ました。ボートの上でガイドが配ってくれたお弁当のパスタをみんなで食べ、眼前に迫り来るアウヤン・テプイを眺めながらボートは進みます。
ギアナ高地を形作るテーブルマウンテンは、こちらでは「テプイ」と呼ばれ、カナイマの村からもそのうちの3つほどが見られますが、「テーブルマウンテン」という名前通りの、てっぺんが平べったくて周囲は垂直に切り立った絶壁の、台状の巨大な岩山です。ギアナ高地に100以上もあるそうですが、その中でも最大のテプイが、目の前にそびえるアウヤン・テプイなのでした。
驚いたことに、アウヤン・テプイからは幾筋も幾筋も、白糸のような滝が流れ落ちてきています。そのどれもが、これまで見たこともないようなすごい高さなのです。なるほど、エンジェルフォールというのは、これらのたくさん流れる滝の中で、他より少しだけ高い滝なんだな、と分かりました。ということは、この無数に落ちるたくさんの滝たちは、みんな、世界でも○○番目に高い、というような高さなのかも、と思いながら、次から次へと視界に現れてくる高い高い滝を目とカメラで追いかけながら進みました。
やがて、ついに憧れのエンジェルフォールを目にする瞬間がやってきました。ボクは、このあとボートを下りて1時間ほども歩いて、それでやっとエンジェルフォールに会える、と思っていたので、ただボートに座っているだけで見ることが出来るとは思いも寄らないことでした。なので、最初はそれがエンジェルフォールとは気づかず、これまでたくさん見てきた滝たちの中で、特に流れが大きなだけの滝だと思ったほどでした。
でも、その滝こそがエンジェルフォールなのでした。
ボクはそれがエンジェルフォールとは思わないまま写真を撮り続けていたのですが、ボートは明らかにその滝を目指して進んで行きます。その滝は近づくにつれその流れが他の滝たちよりも何倍も太いことが見て取れるようになりました。それで、ボクはやっと、自分がずっとエンジェルフォールを見ていたことに気づきました。なんともマヌケなことですが、そんなことにはお構いなく、エンジェルフォールにこんなに近付いた、と驚いている間も与えず、ボートを操っていたガイドは、ボートを岸に着けました。
さあ、そこから滝の真下へのジャングル・トレッキングの開始です。ボートから荷物を下ろし、ボクたちは歩き始めました。
エンジェルフォールに続くジャングルの中の道は、道らしきものはあるとは言え、整備された登山道とはかけ離れた状態です。雨季に入って雨が多い一帯には、至る所に水たまりや、小川のような流れがあり、その中を、石伝い、倒木伝いに歩かねばなりません。一歩踏みはずすと、足はドボン水の中。それだけでなくて足をくじいたりひっくり返って身体を打つかもしれません。慎重に登って行きました。
1時間近く歩くと、雨が強く降ってきました。「せっかくもう少しで滝の足元、という所まで来たのに、、、、。」と思ったのは大きな間違いで、それは、上から降り注ぐ滝の水でした。
目的地の展望台まで登り切ると、覆い繁っていたジャングルの木々はなく、仰ぎ見るとそこにはエンジェルフォールが、ボクの視界いっぱいに立ちふさがっていました。「圧倒的な存在感」とはこういう状況を言うのでしょうね。
しかし、水の粒が雨のように落ちてきますので、カメラをずっと上に向けて滝を狙うことが出来ません。レンズについた水滴を拭き取っては、一瞬、パッパッと真上に向けて滝を写す、ということを何度か繰り返し、やっとの思いで何枚かの写真を撮りました。
また1時間近く歩いて川に下り、対岸に渡るとそこにキャンプ場がありました。その頃はもう日が暮れる時刻で、しかもちょうど大雨が降り始め、あたりは一気に暗くなりました。
キャンプ場はトタン屋根の下にハンモックが吊り下げられただけの簡素な作りですが、ガイドが料理してくれたボリュームたっぷりの夕食を、ツアーに参加したみんなでテーブルを囲んで平らげると、歩き疲れてくたくたの身体は、初めての体験で慣れないハンモックにもかかわらず、朝まで降り続いた大雨がトタン屋根を打ち付ける激しい音もものともせず、ボクを深い眠りに陥らせてくれたのでした。真の滝男になれたボクを。
2013年5月 小澤
ベネズエラへのツアーはこちら