グランドインドシナ ~憧れのベトナム・興奮のカンボジア~

グランドインドシナ ~憧れのベトナム・興奮のカンボジア~

ベトナムのホイアン、ホーチミン、そしてカンボジアのシェムリアップを巡る旅をした。今回はその紀行文にお付き合い願いたい。
●○●ベトナム ホイアン●○●

トゥボン川を眺めながらランチ

元来ベトナムの女性には憧れを抱いていた。
細身のアオザイをすらりと着こなし、多くを語らず上品に微笑む。他人とは一線を引くような態度を取るものの、驚くべき包容力を持っていて、その瞳にはこちらの心の中まで見えているかのよう。
―――そんな顔をして、今日はこんなこと、あったんでしょう。本当はこう思っているんでしょう。わかっているのよ…
出発日が近づくにつれ、憧れはますます加速した。



世界遺産ホイアンの町に着いたのは、お昼も過ぎた頃だろうか。
中継貿易で栄えたこの田舎町は世界遺産に指定されていて、ダナン空港から車で40分ほど。築200年ほどの中国式家屋が建ち並ぶ町並みに、思わず口元が緩む。徒歩でも1時間もあれば全体が見えてくるほど規模は小さく、わかりやすいので迷うこともない。400年ほど前は貿易に携わる日本人や華僑たちがうごめいていたが、今は観光客のフランス人でいっぱい。町ではベトナム語とフランス語が飛び交い、ホテルや空港の待合室のテレビではTV5(フランス語専門チャンネル)が流れている。





町並みに注目されがちのホイアンだが、実はショッピングにも最適な場所。ホーチミンほど物価も高くなく、ここにしかない、かわいい雑貨も多い。週末にはベトナム国内からも買い物客が多くやってくるという。古民家を利用したおしゃれなカフェで一息入れながら、ぶらぶらショッピングするのが楽しい町だ。
あるお土産物屋の女性店員に連れられ、彼女の息子を迎えに小学校へ行った。
ミンノン小学校…というより、幼稚園の雰囲気。教室ではテレビにYOU TUBEの映像を流し、音楽の授業?をしていた。子どもたちは授業を聞いているのかいないのか…



その後、ホイアンのほとりを流れるトゥボン川へ。かつては中継貿易の発展に貢献していたこの川も、川底が浅くなり、今やその役割を商業都市ダナンに譲っている。
トゥボン川に気持ちよくぷかぷか浮かびながら、夕陽が落ちるのを眺めた。そばで仕事をする漁師たちも、川辺で洗濯をするおばあちゃんも、草を食む牛も、360°見渡す限り夕焼け色に染まっていた。



ホイアンの夜景はにぎやかでロマンチック。ランタンが町を彩り、そのほんわかとした光は眺めるだけで癒される。ここと同様に世界遺産で、ベトナム最後の王朝、阮朝の古都フエは「賞賛すべき建築上のポエム」と語られるという。そんなフエにも負けない「ぬくもりと光のポエム」が、ホイアンにはあった。






●○●ベトナム ホーチミン●○●

統一会堂 慶節室 ホー・チ・ミン胸像の前で

21時半着のフライトでホーチミンに着く。夜遅くだったものの、ガイドさんはおいしいフォーの店へ連れて行ってくれた。
「フォー・ホア」はホーチミンっ子にも人気のフォー専門店。夜中の24時まで営業していて、客層も労働者が多い。日本のラーメン屋のようだ。テーブルには常に多数の味噌やつけダレ、揚げパンと香草(ノコギリコリアンダーやオリエンタルバジル)が置かれているのもおもしろい。



頼んだフォーが届くと、ガイドさんはあれよあれよと香草を千切り、もやしと二種類の味噌、それにライムを入れ、揚げパンを浸してくれた。これをしっかりかき混ぜて食べるのが本場のフォーだという。味はもちろん最高!この旅行中に食べたフォーの中で一番おいしかった。
ツアーの中に「アオザイ体験」があると知ったときは、あんな素敵なベトナム女性に近づくなんて、おこがましいなあ…と考えていた。しかし実際に着てみると、自分にもわずかに流れる女子の血には逆らえず、嬉し恥ずかしでとても楽しい。アオザイ体験をされる方には是非、そのまま市内観光に行かれることをおすすめしたい。そして世界各国の観光客に写真を撮られまくることをご覚悟頂きたい!
サイゴン大教会(聖母マリア教会)は市内の中心部に位置する。この周辺は中央郵便局や市民劇場など19世紀のフランス統治時代のコロニアル建築が立ち並び、プチパリ(PETITE PARIS)と呼ばれている。

サイゴン大教会と聖母マリア像

キリスト教徒でなければ教会の奥に入ることはできない。世界にはこんな教会が他にもあるのだろうかと思うと、クリスチャンでないことが悔やまれる。しかし教会の手前だけでも見どころはたくさん。側拝室の壁には、世界各国の祈りの言葉が刻まれている。ステンドグラスの傍には電飾で後光を表現された聖母マリア像。しかも聖像は彩色が施されている。

キリスト教徒でなければこの先に入ることができない




後光だと思われる電飾は、なぜ宗教画上で純潔を表す青なのか?ステンドグラスの横に電飾を置くと、その美しい光が目立たなくなってしまうのでは?マリアの純潔を表すユリの花を持つこの男性聖人は誰?西洋の教会でよく見るキリスト教絵画が1枚も掲げられてなかったのは(教会の奥にはあったのかもしれない)やはり燃やされる可能性があったから…?
初めてのアジアの教会訪問は考えることも多く、楽しかった。
想像していた、謎めいたベトナム女性に出会うことはなかった。私が出会ったベトナムの女性たちはエネルギッシュで独立心が強く、みな面倒見がいい。私が目指す女性像そのものだ。おかげで一層、ベトナムを身近に感じることができた。
●○●カンボジア シェムリアップ●○●

東メボン寺院

カンボジアに全く期待していなかったのには、もちろん理由がある。
旅人のバイブルとも言えるガイドブック「地球の歩き方」。これのカンボジア編が遺跡の説明に相当なページを割いているのだ。これって仏教やヒンドゥー教の知識がないと、この国は楽しめないって言ってるようなもの!そんなカンボジアのインテリジェント旅を、興味はあるが知識は無いこの私が楽しめるはずがない…
当然、予想は外れた。寺院をたくさん廻るにつれ、わかることが少しずつ増えてくる。他の寺院で描かれていた神々が、ここでは少し違った表現で描かれている!さっき見た装飾と同じ説話が、ここにも刻まれている!それがとにかく、とにかく楽しい。加えて寺院ごとに歴史や構造に特徴があり、飽きることはない。

アンコールワットと日の出

アンコールワットの回廊は、映画を観る感覚で回るのがいいだろう。全て物語絵になっている。兵士たちはみな同じ姿で半身ずつこちらに向けて一列に並び、協調性を表している。西洋の歴史画と違い、兵士一人ひとりの顔に個性がありおもしろい。





人間以外の事物はわかりやすくデフォルメされていて、物語の中で重要な王や神などは不自然だが目立つよう、大きく描かれている。見せたいものを見せる、という意志の下で刻まれた装飾は、ときに詰め込みすぎてわかりにくくなっているものの、そのぐちゃぐちゃ具合も見どころだ。そもそもこれら装飾も、文盲も多かったであろう時代の布教活動のもので、わかりやすく描かれている。何も構えて勉強する必要などなかった。
私のおすすめはアンコールトムの北に位置するプリア・カン寺院。
「聖なる剣」を意味するこの仏教寺院は、ジャアヴァルマン7世がチャンパ軍に勝利したことを記念して建てた。巨大なガルーダ像や、宗教戦争時代ヒンドゥー教徒によってきれいにはぎ取られた仏陀像の跡など、他の遺跡に負けず劣らず見どころがある。その中でも一番は、ギリシアの古代神殿のような2階建ての石造建築だ。この建築は、かつてジャヤヴァルマン7世の祈りの場所だったという。2階建てだが階段はなく、1階と2階で建築様式が異なる。ここで彼は何を祈っていたのだろう…
歴史と謎がうごめく、魅力ある遺跡だった。







旅の最後に国立アンコール博物館を訪れた。
今まで見てきた遺跡や装飾の総復習にぴったりの場所だ。観光の時と違い、展示品や時代の特徴をゆっくりと観て回ることができる。キャプションは英語とクメール語しかないため、日本語音声ガイドをぜひレンタルして欲しい。館内にも日本語対応の映像解説コーナーはあるが、正直理解に役立たない。
個人的には遺跡観光の前に予習として、また観光後に復習として、計2回は訪れたい博物館だった。

恐れていたインテリジェント旅は興奮の連続。敵視していた「地球の歩き方 カンボジア編」は、私のバイブルになった。遺跡は観れば観るほど、歩けば歩くほど楽しい。もし私のように遺跡旅に苦手意識を持っている方がいたら、ぜひ思い切ってその旅に飛び込んで欲しい。あなたの気持ちなど知りもしないで、遺跡はあなたをその魅力に引き込み、放さないだろう。
2012年 仙波

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