ベトナム・フーコック -素朴な自然の残る島へ-

ベトナム・フーコック -素朴な自然の残る島へ-

私が旅行先として選ぶ条件には、何よりも「食べ物がおいしいところ」というのが必須である。それから、今回も例にもれず、安く行かなければならなかった。この2つの理由で卒業旅行はベトナム、カンボジアとなったのである。タイから飛行機でベトナムの中部ダナンから入ってフエ、ホイアンを1週間かけて周り、続いてホーチミンで買い物と1日4回くらい(!)の食事を楽しんだ後(本当にごはんがおいしい)、フーコック島に行くことにした。私はここ一年、ずっときれいで静かな海が見たかった。世界中の人が集まってくる一日中賑やかなビーチもいいけど、私は静かなところで波の音だけ聞きながらボーっとするのも好きなのである。ガイドブックによるとフーコック島は静からしいし、その後行くカンボジアの国境近くに位置しているし、シーフードがおいしいらしいし・・・、という理由だけでフーコック島行きに決定。ホーチミンから飛行機にて1時間くらいで行けるんだけど予算の都合のため、ベトナム人と一緒のローカルバスでフーコック島と本土を結ぶ船が出ている港町ラックザーへ向かった。


タイランド湾に面するキエンザン省の省都で漁港でもあり、タイなどからの輸出入をも行う貿易港でもある。街の中には大きな通りが何本もあり、バイクや行き交う人々でにぎわっているし、きれいな噴水もある広場、親子連れが多い小遊園地みたいなのもあったりとなかなか大きい町なのだが、外国人が訪れるのはかなりめずらしいらしくすれ違う子どもが「ハロー、ハロー」とにこやかに挨拶してくるし、大人も振り返って珍しそうに眺めてくる。ホーチミンなどにいるしつこい物売りもやってこない。この街の人々の人当たりのよさに感激し、ほのぼのとした雰囲気がすっかり気に入ってしまった。ベトナム人は本当にフレンドリーで優しい。この町でもたくさん助けられた。
翌日朝八時、大きな貨物をもった商人らしき人が荷物をおんぼろ船に積んだあと、乗車率が明らかに100%以上なので一般乗客が席をとろうとすごい勢いで乗り込んだ。私も負けじと何とか席を確保。本当にぼろくしかも座席が狭く小さいので、足をくみかえたり、ちょっと動くだけでも私には一苦労なのだが小さいベトナム人はその席で三角座りをしたり、もぞもぞと動いて姿勢をかえたりできるのでさほど辛くなさそうに見える。こんなぎゅうぎゅうの船に押し込められて、なんだか「ドナドナ」の売られていく牛にでもなった気持ちになってしまった。3時間後くらいにもよおしてきたのでトイレに行ったのだが、その船のトイレはというと・・・なぜか通路に面しているのに、ドアにガラス張りの窓がついているのである!!これでは外から丸見えじゃないか・・。世の中には、なんで作るときにもっと考えなかったんだろう?という建築物がたくさんあるが、これもその一つである。どうしようか散々迷ったが、もらすよりまし、と思うことにして人が通ってないのを見計らって、かばんで窓を隠しつつ10秒くらいで用をたした。
船にゆられること6時間、港ににつくとたくさんのバイクタクシーが客をつかまえようと待っていた。港町アントイからビーチがあるズオンドンまで約25キロ、交通手段はバイクタクシーしかなさそうだ。ズオンドンまでの道のりは豊かな自然の風景が広がっていて、のんびりしている。でも、この風景をみて楽しむというより、バイクタクシーがジェットコースターさながらのスピードを出していたので落ちないようにバイクにしがみついているだけが精一杯だった。恐る恐るスピードメーターをのぞいてみたらなんと時速70キロ!ノーヘルで、である。もっとゆっくり行ってー!!と叫んで頼んでもこれがあたりまえ、とばかりに全く耳を貸さない。ぎゃあぎゃあわめき続けていると、ようやく少しばかり速度を落としてくれた。ベトナムで驚いたことの一つにバイクの運転の乱暴さがある。どうも、ベトナム人は後方確認を振り返って自分の目でするのではなく、あのけたたましくなっているクラクションを頼りに耳で周りの状況を判断しているらしい。だからヘルメットをかぶるとそれができないのでよけいに危ない、という。それに、車もバイクも一時停止とか徐行、といったことを全くしない。先月まで教習所に通って日本の交通ルールを叩き込まれた私にとっては、まさに目にウロコ、である。
ながい道のりを経てたどり着いたロングビーチは、ヤシの木が多い茂ったビーチと遠浅で透き通った海に恵まれた、大自然の中のビーチだった。約20キロに渡り長く白く美しいビーチが続く。人もあまり見かけない。見えるとしても遠くの方にぽつんと見えるだけ。物売りももちろん来ない。ビーチの砂も細かく、歩くと時々キュッキュッと音が鳴る。砂浜には犬や鶏だけでなく、牛までも放し飼いにしてある。そんな自然のままのビーチから20メートルも離れていない、目の前に海が広がる場所に宿をとった私は毎日泳いで、食べて、昼寝、泳いで、食べて、寝る、という暮らしを送ったのだが、これがこの島での正しい休日の過ごし方であり、最高の贅沢だと思う。
水中に潜るのが好きな私は、浅瀬で水中メガネをしてきれいな貝やヤドカリを集めていた。すると近所に住む男の子達もよってきてヤドカリを集めそのうち競うように探していた。ここの浅瀬では小さな魚や生き物も見られるのには驚いた。
このビーチの上にあるのはバンガローとたった2軒のレストランである。一軒は食器一つから音楽にいたるまで洗練された雰囲気を持つリゾート風のレストラン、もう一軒は簡単なキッチンとテーブルだけの、家族経営のレストランである。食事時になるとどこからともなく滞在者達がどちらかに集まってくる。夜には懐中電灯で足元を照らしレストランの明かりを頼りにビーチをつたって、旅行者達がそれぞれ情報交換をしたり、波の音を聞きながらベトナム料理やシーフードを楽しんだり、とそれぞれ思い思いの時間を過ごしにやってくる。ここで出会った人達は、今は店をシーズンオフで閉めてるの、と3ヶ月もの旅を続けているスウェーデン人カップル、3人の子供連れで一番下の子は生後6ヶ月という家族、フーコック島はもう4回目というツワモノの老夫婦、と色々な人達であった。
ビーチの近くにあるズオンドンの町は小さな町で、小さいお店や市場がある。ここでいろいろ散策するのも楽しい。ここで米ドルのみだがベトナムドンへと両替もできるようだ。
フーコック島まで船で行くのは大変だったけど、自然あふれるビーチで過ごすのは本当に楽しかった。この島は1人でのんびりしに来るのにもいいし、ゆったりとした時間を過ごすために大切な人と一緒に来るのにも最適な場所である。大勢の人達が来始める前に、自然が美しく残っている内に、是非訪れて欲しい。



辻 理恵子
2003年3月

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