マヤ文明と聞いて真っ先に思い浮かぶのは手塚治虫の「三つ目がとおる」だ。主人公の写楽が持っている特殊な能力により巻き込まれるトラブルに度々マヤ文明が登場する。今回は中米を代表するマヤの遺跡と先住民に会いに、グアテマラとホンジュラスに行ってきた。
1日目
朝5時グアテマラシティ着。朝なので寒い。現地旅行会社の方とドライバー兼ガイドさんが出迎えてくれた。
ここからチチカステナンゴまでは3時間。ここに着くまでにすっかり疲れきってしまっていたので車が走り出すとすぐに寝てしまった。
途中で朝食をとる。ガイドさんはうっかり上着を忘れてしまったとかでとても寒がっていて、レストランに入るとすぐに二人で暖炉のそばに陣取った。パンケーキとコーヒーを頼み、冷え切った体を暖める。薄いパーカーしか羽織ってこなかった事を後悔する。外のトイレに行った時に試しに深呼吸してみると案の定白い息が出た。
さらに車を走らせる事2時間。ようやくチチカステナンゴに到着する。
朝は曇っていて寒かったのにここへ来て晴天になり、Tシャツでも暑いくらいになった。
チチカステナンゴは標高2000mの山の中にある小さな町ではあるが毎週木曜日と 日曜日に開催される市のおかげで観光客の多くが訪れるにぎやかなところだ。
乗合トラックの荷台からは人がはみ出るほど乗っているし、家畜も売っているのであちこちから「コケーッ」とか「ブヒーッ」とかとにかく大騒ぎなのだ。
町の中心はサント・トマス教会というカトリック教会で、露天市もこの教会を中心に広がっている。 すでにこの教会の前の階段にもたくさんの人が座り込み、買い物をする地元の人、観光客、売り物を運ぶ商店の人など、その混雑ぶりを階段の上から眺める事が出来る。見ているだけではつまらないので私も買い物に出かけた。
いわゆるお土産品はここに全部といっていいほど揃っているので後でいいかぁなどと考えずにここでまとめて買ってしまうほうがいいかもしれない。
色鮮やかなウィピルや布、ポーチ、ビーズ製品、ちょっと怖い顔をしたお面、アクセサリー、革製品...見ているだけでワクワクしてしまうような品がいっぱいだ。
他にも地元の人が買うような日用品や生鮮食料などもあり、食堂もいくつかあるのでお腹に自信があればチャレンジしてみるのもいいと思う。
ちなみにこの市の通りにある銀行は日曜日でも開いているので買い物途中で現地通貨がなくなっても米ドルの現金、トラベラーズチェック共に両替できる。レートも悪くない。
市を見終えパナハッチェルへ向かう。ここから車で1時間~1時間半位だ。
途中ソロラという小さな町に立ち寄った。ここは火・木・金に大きな市が開かれるので日曜日の今日はあまり人が集まっていなかったが、ここの人たちは先ほどのチチカステナンゴとは少し違った色合いのウィピルを身につけているのが分かる。
ここから少し山を上がったところにアティトラン湖を一望できるビュースポットがいくつかあり、晴れていれば絶景らしいが雨季のはじまりだけあって曇っていて、火山の頭が雲に隠れてしまっていて残念だった。
パナハッチェルに到着した途端、豪雨とも呼べるほどの大雨が降りだした。雷が鳴り、道路にはあっという間に小さな川の流れができて車の屋根にバチバチと降りつける。
ちょうど昼食時だったのでのんびり食事をとりながら外を眺めていると1時間足らずでほとんどやんでしまった。お昼過ぎによく雨が降るとガイドさんが言っていたけど本当だ。
夕方はのんびりパナハッチェルの町を散策するつもりだったのに、ホテルに入っておよそ30時間ぶりくらいに横になった途端眠りについてしまった。
2日目
朝8:00にホテルを出発。寝すぎたせいで逆に眠い。
今日はアティトラン湖の対岸の村、サンティゴ・アティトランへ船で出かける。今朝はまずまずの天気で船の移動も気持ちがいい。下を見ると水はかなり澄んでいて水底の藻のようなもの良く見える。
手漕ぎボートのような小さい船で釣りをしている人達や岸に色とりどりの服や布を洗濯しに来ている女の人などが眺められる。
30分ちょっとでサンティゴ・アティトランへ到着した。
この村はこの近辺で一番大きな先住民の村で、女性のウィピルも色鮮やかだが頭に帯みたいなものをぐるぐる巻きにして帽子のつばのようにしている姿が特徴的だ。小さな古い教会の前は広場になっており、近くの小学校のグランドで歓声を上げる子供達の声が聞こえる。
パナハッチェルからの観光客が多く訪れるためお土産やさんもたくさんあるので覗いてみる。思わずシャッターを向けたくなるようなかわいい子供達の姿も多かった。
また船でパナハッチェルに戻り、昨日歩かなかったので少し通りをぶらぶらした。メインのサンタンデール通りにはお土産屋だけでなく、レストラン、旅行会社、インターネットカフェが建ち並び各国からの旅行者で賑わっていた。なんとなく浮かれた気分で屋台でマンゴーを買い(1パック約40円)つまみながら歩いた。
当初の予定ではこのままグアテマラシティに戻るはずだったのだが、途中お願いして古都のアンティグアへ寄ってもらった。
アンティグアはコロニアル風の町並みの美しさと共にスペイン語学校が多くあり、各国から生徒が集まってくるグアテマラ観光地のメインのひとつだ。
天気がいまひとつだったのが残念だが、晴れていれば丘の上から街全体が見渡せるらしい。石畳の道をのんびり散歩できて、わざわざ立ち寄ってもらっただけのことはあると思った。
3日目
朝6:30、まだ暗い中グアテマラシティのホテルを出発。
今日はホンジュラスにあるコパン遺跡を見に行く。
車に揺られること4時間、グアテマラとホンジュラスの国境に着いた。ガイドさんが私のパスポートを持ってイミグレーションへ行ってくれ、問題なくホンジュラス入国。ここからコパン遺跡まであと20~30分ほどだ。
コパン遺跡はマヤ文明の都市遺跡で、ホンジュラス国内では最大規模を誇る遺跡だ。昔この遺跡のそばを流れていたコパン川沿いに住居が発達し、現在遺跡として残っている神殿を中心に栄えた大きな町である。
金剛インコがわらわらと集まる入り口を抜け林の中へと進んでいく。道は整備されていて歩きやすいが、やはりこの季節どうしても蚊が多いので虫除けスプレーはして行ったほうがいい。
メインはグラン・プラザにある「神聖文字の階段」だ。高さ30メートルの63段にわたる階段には石の一つ一つに象形文字が刻み込まれている。現在雨による侵食を少しでも防ぐためにテントのようなカバーがかけられていて外観は若干損なわれるが、保存のための大切な措置といえる。
同じグラン・プラザの南側にあるのが球技場だ。ルールは手を使わずにボールを足で打ち合い、地面に落とした方が負けなのだそうだ。日本の蹴鞠みたいなものか。
ガイドさんの説明を聞き終えるとここに来て2時間ほどたっていた。昼食をとりに国境近くのコパン・ルイナスという町へ行った。コパン遺跡へ行くための拠点の町というようにしか認識していなかったが、実際に歩いてみると石畳の道の両脇には色とりどりの家が建ち並びとてもかわいい。
一人で散歩していたら猫がごろんと横になっていたのでカメラを向けた。パシャパシャと撮っていると向かい側のお店からおばちゃん達が、「あんたこっちにも猫いるわよ、ほらおいで」と(多分)言って手招きしている。寄っていくと黒い猫が確かにいたが人見知りするらしく私が近づくと逃げてしまった。「あーらしょうがないわねー、あんたトロいからよー」とばかりにおばちゃん達なぜか爆笑していた。
日帰りでグアテマラシティからコパン遺跡に行く人もついでに寄って町歩きしてみるといいと思う。ちなみにこの町ではホンジュラスの通貨レンピーラスにわざわざ両替しなくても、グアテマラのケツァールでも受け取ってくれた。レートは良くないがほんのちょっと使う分にはケツァールのままで十分だ。
4日目
午前10:00、キリグア着。ここはコパン遺跡と深いつながりのあるキリグア遺跡がある。そもそもコパン王朝のひとつの都市として発達した町だが独立を求めてコパン王朝と戦い、勝利を勝ち取った。しかしその後長くは続かずすぐに崩壊したことからさほど大きな遺跡ではないが、中南米大陸の古代文明の中では最も高い祭壇があることで有名らしい。
園内は大きな広場のようになっておりあちこちに石碑が立っている。どの石碑も保存状態が良く、細かく彫られていて見事なもの。
ゆっくり見ても1時間半くらいで十分見れた。ここからまた4時間かけてグアテマラシティに戻る。
グアテマラシティは一般的にそんなに治安は悪くないがソナ1という地区の周辺は日中でも気をつけたほうがいいとガイドさんが教えてくれた。私はソナ10にホテルを取っていて、この地区は夜でも比較的治安がいいらしい。レストランもたくさんある。
夕方にはグアテマラシティに戻ってきたので近くにショッピングセンターに出かけてみた。グアテマラは物価は安く、ペットボトルの水500mlで日本円で 30~40円位、コーラの小瓶で40円位だが、ツーリスト用のレストランなどきちんとしたところで食事をしていればやはり1回$15~20位はかかる。せっかくショッピングセンターまで来てみたのだから今日は地元の人にまじってフードコートで夕食にしてみた。ずらっと並ぶフードコートの中からいい匂いにつられてタコスのお店を選んだ。良く分からないのでイチオシっぽいセットを頼むと何かの肉の何かの部分を細かく切って炒めたものとパイナップル、たまねぎ、トマトをはさんだ薄いバーガーと小さなタコス2つ、ハイビスカスジュースが出てきて約280円だった。同じセットを買った人を見ていると小さい肉ののったタコスに自分でトマトやたまねぎのみじん切りや香草、チリトマトソースなど好みでトッピングし、最後にこれでもかー!という風にライムを搾って食べていた。
私も真似してたんまりトッピングし、最後にライムのかけらを3個も搾って食べてみると思い出すだけでおなかが鳴るほどおいしかった。
5日目
早朝05:00ホテル出発。どんなに仕事が忙しいときでも朝早く会社に行くということが出来ない夜型人間の私が、こと旅行となるといくらでも早起きできるから不思議だ。こんなに朝早くどこへ行くのかというと、今回の旅行で一番楽しみにしていたティカル遺跡に行くのだ!!ここへ行くにはグアテマラシティから車か飛行機でフローレスという町へ行き、そこからさらに60kmの道のりを車に揺られる。
時間の限られた旅行者の場合国内線を使ってグアテマラシティから日帰りすることになるが、そのため朝早くホテルを出ることになるのだ。
フローレスに着くと出口付近にはホテルやレンタカー、旅行会社のカウンターが並んでいて、予約なしにこの町へ着いた旅行者を我先にと奪い合っていてすごい活気だ。私はすでに手配してもらっていた旅行会社のカウンターへ行き、他の参加者の人達と一緒にティカル遺跡へ向かった。
ティカル遺跡群の敷地はとにかく広く、すべて見たいと思ったらとてもじゃないが1日では見きれない。主な見所だけガイドさんと一緒にまわって4時間くらいだ。遺跡の入り口を抜け森の中に入っていく。ティカルはまさにジャングルの中にそれぞれの神殿などが埋もれているため、遺跡にたどり着くまでにかなり歩くことになる。
進んでいくうち七面鳥やトカゲ、青色の光沢を放つ蝶々など変わった生き物にも出会えた。
ところどころ木々の間から遠くの神殿が垣間見え、ワイルドさ満点。
歩き始めて30分で突然雨がザーっと降り出した。傘は持ってきていたのでとりあえず広げたが、あくまで荷物を守るという程度であっという間にひざから下がびしょぬれになってしまった。しかも森の中とはいえかなり蒸し暑く、レインコートを着ている人達は蒸し風呂状態だといってさらに苦しそうだった。ちょうど Ⅳ号神殿に着いたあたりでぴたっと雨が止んだ。この神殿に限らずいくつかの神殿の横には階段がつけられていて、上に登ることができる。階段といっても限りなく梯子に近く、雨上がりのつるつるすべる状態で木製の階段を登っていくのはそれなりに勇気がいる。それでも上からの景色は素晴らしく、森の中からニョキっと神殿の頭が飛び出ているのが見えて、ティカルが「ジャングルの中に埋もれた」遺跡だということを大いに実感できる風景だ。
ときおり雨に降られながらも歩き続け、英語力がないのでいまいちどれがどの神殿だったのか自信がないのだけれど、木に侵食されて崩れかかっている遺跡や、コケや雑草に覆われて緑色に染まった遺跡など、「風の谷のナウシカ」の腐海に迷い込んでしまったかのようなところもある。
歩き続けること2時間半、メインとも呼べるグランプラザに到着した。ティカル遺跡を紹介する写真には必ず写っているⅠ号神殿のあるところだ。サッカー場くらいの広場を取り囲むようにⅠ号神殿、Ⅱ号神殿、セントラルアクロポリス、ノースアクロポリスが建っている。Ⅱ号神殿の上に登って広場を眺めていると「コキュコキュコキュコキュケーン!」となんとも表現しづらい聞いたこともないような珍しい鳥の鳴き声が頭上に響き渡る。
40分ほどこの広場でフリータイムをもらったがセントラルアクロポリスの住居跡をのぞいてまわったり、ノースアクロポリスの前の石碑を眺めたりしているうちにあっという間に時間が過ぎた。
この遺跡周辺十数キロ四方には全部で3000以上の遺跡が残っているという。今回私が見たのはそのほんの一部にしか過ぎないが、それでも十分に圧倒させられた。時間がある人ならティカルかフローレスに泊まってゆっくり見学されることをお勧めします。
旅を終え振り返ってみるとグアテマラもホンジュラスも、どこへ行っても地元の人が笑顔で迎えてくれた事が印象的だ。スペイン語が分からなくて困っていても身振り手振りで出来るだけ助けてくれようとするし、遺跡で働いている専門のガイドさんたちも自分達の土地の事を少しでも知ってもらおうと一生懸命説明してくれる。ここに観光客の集まる理由はそういうところにあるのではないかと思った。
彼らの笑顔は色鮮やかなウィピルとあいまって、ここが太陽の国だという事を感じさせてくれるのだ。
岡坂 美紗子
2004年05月