閻魔様こんにちは。いざ、世界で最も地獄に近い地へ!~バヌアツ・アンブリム島火山トレッキング体験記~

閻魔様こんにちは。いざ、世界で最も地獄に近い地へ!~バヌアツ・アンブリム島火山トレッキング体験記~

芋の種類の多さに圧倒される、いかにも南太平洋なポートビラの市場

ホームステイ先でバヌアツ料理作り!お父さんの熱いご指導が入る

国内線の移動では海と島の眺めが楽しみ

これまでいろいろな国を訪問してきたが、唯一行ったことがないエリアが南太平洋文化圏だった。主食がなんとか芋で藁葺の家が建ち並び、ゆったりと南国タイムが流れる島でココナッツジュースを飲みながらのんびり、、そんなことがイメージされるエリアだ。このたびその南太平洋地域に行く機会をいただいた。
その中でも最も行きたかった国がバヌアツ。秘境の国といわれているが、タンナ島のヤスール火山やサント島のシャンパンビーチはそこそこ観光客がいて、弊社社員も何人か行っている。でもせっかく秘境の国に行くのだからその中でもさらに秘境に行きたい、そう思っていろいろ調べていると見つけたのがアンブリム島という島だった。ネットで調べても出てくる情報はごくわずかで、あのタッキーがテレビロケで行ったということ以外ほとんど情報が出てこない。でも島の中心にはごうごうと燃え盛る火山があり、火口ではグツグツ煮えたぎるマグマがあって写真や動画で見るとまさに閻魔様が住むのにふさわしいド迫力な光景だった。(この火山にやってきた初めての日本人が、そのタッキーらしい)
この瞬間に私はこの島、この火山に行くことを決めていた。この世の地獄を見てやろう!そして(顔や人気度は置いといて)ここに行ったという事実だけはタッキーと肩を並べたい!


<第1の火山、マルム火山へ>
バヌアツの首都ポートビラからアンブリム島のメイン空港、クレイグコーブへ行く国内線は週3便しかない(うち1便は乗継便)。タンナ島やサント島へは毎日便があることを考えると、やはりアンブリム島は秘境の島なのだ、と改めて思う。
バヌアツ国内線の預け荷物の重量制限は10kgまでだが、自分の荷物は2kgほどオーバーしていたものの何も言われず載せてくれた。その後なぜか自分自身が体重計に乗せられ、OKが出て飛行機へ。その飛行機にいきなり度肝を抜かれた。

こんな超小型機、今まで乗ったことがない!
座席はおよそ20席。もちろんコックピットは丸見えで、機内放送の代わりにパイロット自ら乗客に向かって「次の空港へは1時間、そのあとは、、」と案内してくれる。今回のこの便は別の島とアンブリム島のもう一つの空港の、計2つの空港を経由した。

その空港は滑走路が芝生で、ターミナル、、というか田舎の駅のような建物がポツンと建っているのみ。預け荷物はリヤカーで運ばれ、飛行機の発着も貴重な娯楽なのか大勢のギャラリー(ただの暇人?)がやって来ていた。これこそまさに自分が想像していた秘境の島の光景で、この飛行機に乗るだけでもこの島来た価値があったかも!と無駄にテンションが上がる。

パーマ島空港では芝生の滑走路がそのまま海へ続いていた

アンブリム島のもう一つの空港、ウレイ空港

目的地のクレイグコーブ空港もまったく同じ様子で、飛行機を降りた瞬間にガイドさんと合流。トラックに乗って一気に火山の登山口へ向かうが、私が手配したはずのこのトラックの荷台には大勢の地元住民が納まっていた。今回の南太平洋の旅ではどこに行っても荷台に人をいっぱい乗せたトラックが走っていて、このあたりの人は車内より荷台の方が居心地いいのでは?とその度に思ったのだった。

一応アンブリム島メインの玄関口、クレイグコーブ空港

チェックインカウンター。帰りのチケットは手書きだった・・・

ブタの横に自分のバックパックが無造作に置かれる、シュールな図

別のツーリストが乗ったトラックもこんな状態

南の島らしい海やヤシの木、藁葺小屋が並ぶ村を通り過ぎて1時間ほどで登山口へ。ここから登山ガイドとポーターがついてトレッキングスタート。今回の行程は1泊2日で、この日はキャンプサイトでテントを設営してから第1の火山のマルム火山へ。翌日第2の火山のベンボウ火山へアタックし、テントを片付けて下山、というプランだった。2日がかりでないと火山に行くのが難しく、ハードなトレッキングが必要、ということもアンブリム島がなかなかメジャーにならない理由の一つだと思う。
私も本格的なトレッキングは小学校の富士山以来で、もちろん海外では初めてなので不安でいっぱい。でもガイドさんはこの人なら大丈夫、と安心できる方だった。なにしろ登山の途中で「わー、マメができた」とトレッキングシューズを脱いでそのあとずっと急な山道をビーサンで登ってしまった超ワイルドな人なのだから・・・。

火おこし用の木を切り出して担ぎながら登っていく。ワイルドだろぉ~

ジャングルの中を登り続けて3時間、やっとキャンプ場に到着。日本から持ってきたテントを設営して、少し休んだ後マルム火山へと向かう。ここからは植物がほぼない荒涼とした風景で、いかにも世界の果て、地獄の入り口といった光景が続いた。

途中で噴出する火山ガスもいい雰囲気出してる!

落ちたら本当の地獄行き、といった道なき道を歩き、、、

やっとマルム火山の火口へ到着。が、ガスで何も見えない・・・。
このアンブリム島の火山は天候が不安定で、火口がくっきり見える方が珍しいのだとか。タッキーのテレビロケの時も1週間ほど待ってからアタックしたとのこと。

とりあえずマルム火山登頂

けれど、この奥から響いてくるマグマの鼓動がはっきりと聞こえた。このガスの先には煮えたぎるマグマが・・・。

火口ぎりぎりまで近寄っても見えるのはガスのみ・・・。

結局明日向かうベンボウ火山が晴れるのにすべてを賭け、キャンプ場に戻って夜を迎えることになった。ガイドさんとポーターが作ってくれた白米のうまさが身に染みる。

意外と何でもそろうキャンプ場

しかし電気はないので懐中電灯を頼りに夕食を・・・。

我々を待ち構えるベンボウ火山の夜の不気味な姿。遠くからでも迫力がすごい!

<第2の火山、ベンボウ火山へ>
明けて翌日、昨日より天気は良さそう。別ルートでやってきたニュージーランド人男性2人組と登ることになった。日本ではバヌアツ関係者かよっぽどの秘境好きでないと知る人がいないアンブリム島だが、欧米や周辺諸国ではそこそこ知られているようだ。
やはり緑が少ない荒れ果てた景色の中を歩いていくが、晴れているので気分も軽やか。少し登ると海や周辺の島も見えた。しかし細い尾根を延々と登っていくので油断すると危ない・・・。



神経を研ぎ澄ませて、ベンボウ火山の火口へあと一息の所まで到着。ところが本当に大変なのはここからだった。どう見ても崖にしか見えない、垂直に近い岩場を下っていくという。「え、マジかよ」と思わず声が出てしまった。やはり自らの意思で地獄に行くのは簡単な道ではないのだ。

最後の難関を前にビビりまくる自分と必死に励ますガイドさん

火口までそろりそろり慎重に下っていく。しかもここから一気に火山ガスが強くなり、麓の村でレンタルしたガスマスクを装着することに。息苦しい中、30分ほどかけてなんとか岩場を下り終えた。
ここまで来たらゴールはあと少し。今度は岩場を少し登って、ようやく火口の縁へ。そして・・・。

これがずっと見たかったベンボウ火山の煮えたぎるマグマだ!

地中から地表に出たマグマが火口にたまり(専門用語で溶岩湖というそうだ)、しかもこれほどアクティブに沸き立っているのは世界でも本当に珍しいことのこと。閻魔様の住みかにおすすめしたい場所はここ以外なかなかないはず。しかも仮に日本にこんな場所があったら即立ち入り禁止になるはずなのに、こんなに近くまで行けるなんて!
地獄といえば知る人ぞ知る人気スポット、トルクメニスタンの「地獄の門」にも行ったことがあるし、数少ない溶岩湖の一つであるエチオピアのエルタアレも訪問済み。(ついでに別府温泉の地獄めぐりも・・・。)そして地獄のラスボス(?)ともいうべきアンブリム島の火山に来てしまったってことは、もう本当の地獄に行っても怖くないのでは・・・。いや、行きたくないけど!

撮影中ずっと手をつかんでいてくれていたガイドさん。優しい。

さすがビーサン履きのワイルドなガイドさん、火山ガスがきつくてもガスマスクなしで頑張ってる!と思ったら、「辛いから10分したら撤収ね」とのこと。ほぼ無敵に見えた彼らもガスには勝てないようだ・・・。


その後今度はひいひい言いながらほぼ垂直の岩場を這い上がり、登山道を下ってキャンプ場へ。テントを片付けてランチを取り、麓の村へ戻ったのだった。

トラックの荷台に乗って気持ちのいい移動。なぜ皆ここに乗りたがるのかよくわかる!

<これを語らずしてバヌアツは語れない 不思議な飲み物カバの話>
アンブリム島では火山トレッキングだけでなく、村での滞在も楽しみだった。あまり観光客慣れしておらず、見るからに素朴そうな村での滞在は貴重な体験になるはず、と期待が高まる。
火山トレッキングの拠点となる人口約200人の村、ポート・ヴァトの一つしかないと思われるバンガローに滞在。ここのオーナーがトレッキングの手配をやっており、空港に迎えに来てくれたのも彼だった。宿帳を見るとゲストはひと月に一組いるかいないか、といった感じでこの日の宿泊も私だけ。けれどオーナー家族の優しさと南の島そのままのゆるーい雰囲気がさっそく気に入ってしまった。

「ココナッツジュース飲む?」とひょいひょい登ってヤシの実を取ってくるオーナー

オーナー家族と一緒に朝食。犬のかわいさは万国共通

ふらっと村を歩いてみると、これまた絵に描いたような南国ののほほーんとした風景。外国人、ましてやアジア人なんてめったに来ないはずなのに(「おまえはこの村に来た2組目の日本人だ、と村人から言われた」)、まったく物おじせずに村の人たちが話しかけれてくれる。ああ、バヌアツ旅行の滞在先にここを選んでよかった・・・。




100年以上も前の年号が書かれた墓。欧米からの宣教師だろうか?

もともとイギリスの植民地だった関係で、ほぼ英語が通じるのもうれしい。だけどそれと同時にフランスも共同統治していたというのがこの国の面白いところで、フランス語が話せるバヌアツ人も多い。それに加えて現地のローカル言語があるわけだが、なんとこの面積700平方㎞足らず、人口約8,000人の島に5つの異なった言語があるのだとか・・・。
その異なる言語間の意思疎通のためにつくられた、簡単にいえば英語とフランス語とローカル言語のちゃんぽんであるピジン言語のビスラマ語がこの国の公用語になっているので、バヌアツ人が3,4言語話すのは当たり前のことらしい。典型的な南国人、なんくるないさー的オーラが漂うバヌアツ人だが実はすごい人たちなのだ。
そんなバヌアツ人がこよなく愛する飲み物がカバ。お酒やたばこと同じ嗜好品といったもので、一種の麻薬ともいわれる。フィジーなど他の南太平洋の国にもあるがバヌアツのカバが最も強く、そして当たり前だが首都ポートビラなどより離島のほうが味が濃いという。カバが出される店をカババー(ナカマル)といい、単にカバが飲める場所ではなくバヌアツ人社交の場にもなっているとのことだった。
すでにポートビラのカババーにも行っていたのだが、もちろんここポート・ヴァト村のカババーにもお邪魔させていただく。
このカババー、一見さんにはとにかくハードルが高く
・薄暗い
・男だらけ(現地の女性はカバを飲んではいけない)
・「バー」のくせにとても静か(酒とは違い、飲むと鎮静作用が働くため)
・そもそもカバが見た目泥水、味マズいというとんでもない飲み物
と、行くのをためらわせるワードしか出てこないのだが、実際行ってみると不思議と居心地がよくなってくるのだ。
今回訪問したのはこの村唯一のカババーということで、もう10人ほどの先客がいた。ここのカババーはほぼ真っ暗で、ボソボソと話し声が聞こえる。上で書いたようにカバがキマってくると鎮静作用が働きリラックスした気分になるので、居酒屋のように騒がしいということはない。銭湯で湯舟から上がって大広間でくつろいでいるような、そんな雰囲気に近い気がした。
カバの作法はとてもシンプル。量によって50バツ、100バツ(1バツ=約1円)など料金が異なるので、欲しい量をカウンターで告げてカバを受け取る。

薄暗いカウンターに泥水、もといカバが置かれる。とにかく怪しいこの光景
カバを出してもらったらちびりちびりやるのではなく、一気に飲みほす。とにかくマズく、こんなに万人がマズいと感じるであろう飲み物が存在していいのか!と感じるほどマズいので、そばに置いてある水ですぐにすすいでお口直し。カバを飲みなれたバヌアツ人もやっぱりマズく感じるようで、皆これを繰り返している。ゆえに、カババーでは尋常ではない「カー、ペッ」という音が響いている。
ポートビラでカバを飲んだ時はあまり効果が感じられなかったが、やはりここのカバは効果てきめん。口の中がヒリヒリし、すぐに頭がボーッとしてきた。人と話したくなる効果もあるのか、自然に隣のお客と会話が弾む。なるほど、ここがバヌアツ人社交の場とよばれる理由がわかる気がした。
マズいはずのに不思議と何度も飲みたくなり、何杯も注文してどんどん意識がフワフワになる。しばらくすると「今からカバを作るけど見ていく?」とお声がかかり店の裏の作業場?へ連れて行ってくれた。
カバの原料はコショウ科の木の根で、まずこれを砕いていく。そうか、あのマズさの源は木の根を飲んでいたのか・・・。

これを濾して、めでたくカバの出来上がり。

何も知らない人から見ると黒魔術をやっているようにしか見えない

ただ島ごとに作り方が違うため、味も異なるようだ。大げさに言えば、島の数だけカバがある。ポートビラに戻ってまたカババーへお邪魔した際にそれを実感することになった。
この日はホームステイをしていたので、ホストファミリーに近くのカババーに連れて行ってもらう。

赤ちょうちんならぬ青いランプが「カバあります」の印

ポートビラだけでもなんと200以上のカババーがあるという。首都だけあって各島の出身者が集まっており、出身の島のカバの味を求めるため必然的に増えていったそうだ。たとえるなら、特定の県の日本酒しか置いていない酒場が東京のあちこちにある感じ?
ここはひとつのカババーなのにカウンターが二つあった。片方はアンブリム島のカバ、もう片方は別の島のカバ。ホストファミリーもアンブリム島の出身で、やはり前者の方がお好きのようだ。

アンブリムカバカウンター

別の島のカバカウンター

私はせっかくなので両方のカバにトライしてみたが、味はまったく同じ・・・。「いや、全然違うよ」とホストファミリーの方はおっしゃっていたのだけど。

カバを楽しむ皆様

近くに「オバマ・カババー」というのがあるそうなので行ってみることになった。カババーのハシゴである。

天井近くにオバマ元大統領の写真があったそうだが、サイクロンの被害にあったときに取り外してしまったそうだ

サイクロンの被害を語るオバマ・カババ―の女将

「じゃあ次はトランプ・カババーを作らないといけないですね」、と話をしているとなんとそれもすでにオープンしているとのこと。バヌアツ人、ユーモアあふれるというか節操がないというか・・・。
カババーではカバのテイクアウトも可能、ということでホストファミリーのお宅に持ち帰ってカバ宴会がはじまった。マズいとか泥水とかそういうのを通り越して、知らぬ間にカバ中毒になりかけている自分に気付く。これでやっとバヌアツ人の仲間入り?

カバは嗜好品としてだけではなく、古くから儀式や医療行為にも使われてきたという。今回のバヌアツ訪問で、とにかくマズいけどバヌアツの文化そのものと言っても過言ではないカバとカババーに魅せられた私。こうなったら日本初のカババーを開いてカバの普及に努めるしかない、それが今回お世話になった人たちへの恩返しだ!と、今勝手に思っている。カババーをオープンした際はぜひ至高の一杯(?)を味わいに来てください。
【スタッフおススメ度】
●アンブリム島 ★★★★★
タンナ島やサント島に知名度は劣るが、大迫力の煮えたぎるマグマがこの目で見られるマルム、ベンボウ両火山はテント泊トレッキングをしてでも行く価値あり!ありのままのバヌアツ文化にふれられる、素朴な村での滞在も楽しい。
●ポートビラ  ★★★★
首都なのに拍子抜けするほど小さく静かな街だが、離島に行った後は大都会に見える。市場やフレンチの丘など見どころも近くに固まっており、散策気分で観光できるのがうれしい。
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(2017年6月 伊藤卓巳)

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