中世の美と栄華を仰ぐ ロマンティックな春のドイツ紀行

中世の美と栄華を仰ぐ ロマンティックな春のドイツ紀行


とろけるような春の心地。
桜前線間近の日本に後ろ髪ひかれながら訪れたドイツは、絶好のお花見日和だった。
ぶどう畑をバックに見る桜は、まるでゴッホの描いたアーモンドの花のよう。
強くたくましく、美しく見えた。
○●○ラインシュタイン城○●○
ラインの真珠と呼ばれる町、リューデスハイムからロマンチックラインクルーズへ乗船した。中世の趣の残る小さな町と古城の栄華を想像する川下りの旅も、シーズンはまだはじまったばかり。眺めているだけでタイムスリップできてしまうような幸せと、どきどき。

ラインの真珠リューデスハイムの町並み

ドイツ統一の女神ゲルマニア

ニーダーヴァルド行きゴンドラからの景色


背泳ぎしているようなプカプカした心地で楽しんでいると、見えてきた!
左岸にネオゴシック様式の美しい城、ラインシュタイン城はライン川沿いで最も美しい城のひとつ。ローレライのような険しい岩の上に建つ凛とした姿と、まぶしい新緑のコントラスト。ライン川沿いの複雑な歴史を何百年も見守ってきた、ドイツロマンと大人の余裕を思わせる佇まい。なんとここが、一夜の私の居城となる。





この城は13世紀後半に関税所として建設。さまざまな歴史を経て一度は廃墟となったものの、プロイセンのフリードリヒ王子によって今の姿となった。普段は博物館として利用されているが、ホテルも併設されているため宿泊することもできる。部屋数は2部屋しかないため、宿泊客はお城をほぼひとり占め。翌日の開館時間まで自由に歩き回ることができる。アパートメントタイプのお部屋にはキッチンもあり、ソーセージやパン等を持ち込んでお庭でパーティーも可能だ。お城でつくった古城ワインを飲みながら、ラインの夜風にふかれるのも楽しい。こぢんまりしたチャペルでは結婚式も開かれる。



城内は中世王族のプライベートな屋敷という雰囲気、豪華絢爛という感じではない。だまし絵のような内装や、生活感が垣間見える展示は面白い。
現在のお城も家族経営でアットホーム。「困ったことがあったら、何でも言ってください!」とにこやかに声をかけてくれる城主の息子マルコさんはとても頼もしい。廃墟となっていたこの城を買い取ったのは当時オペラ歌手だった彼の祖父、ヘルマン・ヘッシャー氏。現在の城主であるヘルマン氏の息子(マルコさんの父親)が城を古城ホテルへと再生させたという。
一晩ロマンあふれる古城をひとり占め、すこやかな朝を迎えた。
ライン川は今日も早くから、貨物船やクルーズ船が行ったり来たりしている。この城ができた頃から、川の様子はどう変わってきたのだろう。今でもローレライでは、伝説の所以となった船の転覆事故が起こる事があるのだとか。伝説のとおり、美しい歌声で船乗りを惑わす妖精は、やっぱりいるのだ。そしてこのラインシュタイン城にも、中世のセピアな香りをまとうロマンチックな妖精が、きっといるに違いない。


○●○長距離バスの旅○●○
ベルリンからフランクフルトまでの移動は、長距離バスを利用した。
ドイツの長距離バスの運行はドイツ鉄道の子会社など数社に限られていたが、昨年1月以降規制が緩和され、新規参入のバス会社が続々と登場してきた。

今回はMeinFernbusに乗って、6時間の長旅。朝8時にベルリン中央バスターミナル(ZOB)を出発して、フランクフルト到着は14時半の予定。
多くの都市のZOBは中央駅のすぐ隣にあるが、ベルリンのZOBはUバーンのKaiserdamm駅またはSバーンのMesse Nord/ICC駅から徒歩5分程の場所にある。バスの発車20分前には最寄駅に着く計算でホテルを出ていたが、道中よく止まるドイツ列車事情の洗礼を受けZOB到着はバス発車の5分前になってしまった。これが理由で今列車ではなく長距離バスを利用する人が増えているらしい。


乗車前にはバス係員がバウチャーを確認、QRコードで予約状況を読み取ってくれるので乗り間違えることもない。シートも日本の観光バスのように快適で、130度くらい(多分JRバスくらい)はリクライニングができる。フットレストやテーブルはそれぞれの座席にある。車内にはトイレもあり、日本の長距離バスと全く変わらない使い心地。違うのは、車内アナウンスはドイツ語のみである点だ。
出発から到着までずっと乗っているだけで目的地に着くので、楽々。電車のように重いスーツケースを持ち上げて駅のホームを移動することや、短い乗継ぎ時間にヒヤヒヤすることもない。ドイツ語が話せなくても全く問題はないが、路線によって途中サービスエリアに寄ることがある。
ベルリンを出発して3時間半後、バスがサービスエリアへ入った。停車後係員が何かドイツ語でアナウンスしているが、全くわからない。隣の席のお兄さんが、「これから休憩で、30分後に集合だよ」と英語で教えてくれた。バスの係員は英語が話せないようだったが、バス利用者は比較的若者が多く、英語が話せる人も多そうだった。休憩後の集合時間の確認が取る程度の会話力やジェスチャーがあれば、無理なく利用できるだろう。
バスは定刻の10分前にフランクフルトへ到着した。電車よりも少し時間はかかるものの、ほぼ時刻表通りの運行に安心した。
○●○フランクフルト○●○
中世のかわいらしい町並みが残りながら、大都会の一面もみせるフランクフルト。シュテーデル美術館には西洋美術を網羅する素晴らしいコレクションがある。




海外の美術館での楽しみは、作品との出会いにその土地でしか出会えない感動があること。さっき横目に見てきたまさにその風景を、何百年も前にあの巨匠が描いている!日本でその作品を観るよりも、もっと大きな感動があるだろう。
日本ではほとんど無名な画家の作品にも、海外ではたくさん出会うことができる。今回の旅でよく目にしたのはマックス・リーバーマンというドイツ分離派の草分け的な画家。ルノワールやカイユボットを思わせる光の表現や筆致が特徴。少女たちの衣装はゴーギャンの名作《説教のあとの幻影》のように純朴で、生活の中に信仰を思わせる作風だ。

ギュスターヴ・クールベ《フランクフルトの眺望》

マックス・リーバーマン《アムステルダム孤児院の自由時間》

特にフェルメールの《地理学者》は美術ファンにはたまらない傑作。数年前には日本にも企画展がきていた。フェルメールは生涯36点ほどしか作品を残していないため、聖地巡礼ならぬ「フェルメール巡礼」を志す熱狂的な美術ファンも多い。

ヨハネス・フェルメール《地理学者》

地理学者がまとう厚いガウンは、我々が彼の作品に魅了される理由のひとつのラピスラズリの青。簡略化された明暗表現は、それ以降のフェルメール作品の特徴のひとつとされる。いわば《天文学者》は彼の転換期を示す重要な作品。ルーヴル美術館所蔵の《天文学者》と対に描かれていた可能性もあるという。フェルメールファンだけではなく、美術ファン必見の作品だと思う。
とても楽しいドイツ旅だったが、ひとつだけ心残りがある。
ノインシュヴァインシュタイン城行きの拠点となる街フュッセン。ここには「死の舞踏」という主題の壁画がある。
14世紀のペスト流行により、死への強迫観念は社会問題と化していた。高熱と下痢に苦しめられ、人々は肌を黒く変色させ次々と命を落としていく。百年戦争の最中でもあったため、葬儀や埋葬が追いつかない。命ある者たちは突如として半狂乱。死への恐怖と生への執着ゆえ、倒れるまで踊り続けた。そんな社会から生まれたのが「死の舞踏」。史実がこの地にあったことを伝える、いわば遺跡のような作品だ。
同様の主題の「メメント・モリ(死を想え)」やヴァニタス画(はかないものを集めた静物画)の実物は観たことがあったが「死の舞踏」だけはまだなかった。
ノインシュヴァインシュタイン城へは一度訪れたことがあったため、ほぼこの壁画が目的でフュッセンに行ったのだが「まあここまできたなら城も観てこよう・・・」と思ってしまったのが最後。2度目でも面白い城観光に時間をかけてしまい、フュッセン市博物館の入館時間に間に合わず観ることができなかった!
ミュージアムショップでかろうじて買った絵はがきを眺めながら、涙と雨でぐしゃぐしゃになりながらミュンヘンへ戻った。

ノインシュヴァインシュタイン城

ホーエンシュヴァンガウ城

ヤーコプ・ヒーベラー《死の舞踏》 絵はがき

ドイツの魅力は一度の旅では体験しきれない。自慢の地ビールやソーセージ、サッカーや車、鉄道、チーズにワインに教会修道院、豊かな自然、ぽってりした可愛らしい田舎の町なみ、複雑な歴史に人懐っこいドイツ人たち・・・
バリエーション豊かで何回でもおかわりしてしまう、ドイツビールのように味わい深いドイツ旅。自由気ままな旅もいいけれど、楽しみが多い国なのでしっかり計画して行った方が充実度が増すのかもしれない。

ライン川を見渡せるレストランにて</div
ラインシュタイン城(ライン川沿い)  ☆☆☆☆☆L
ハネムーンにぴったり!中世のムード満点の古城ホテル
ゴンドラ(リューデスハイム)     ☆☆☆☆☆
ライン川と一面のぶどう畑を見渡せるゴンドラ。
リフトの中で楽しめるシャンパンセットも販売している。
シュパーゲル(白アスパラガス)料理  ☆☆☆☆
ドイツ人の春の大定番!一般家庭でもkg単位で購入するのだとか・・・
シュテーデル美術館(フランクフルト) ☆☆☆
西洋美術史を網羅する圧巻のコレクション!
2014年4月 仙波 佐和子
このエリアへのツアーはこちら

ヨーロッパカテゴリの最新記事