列車で行った メテオラの修道院〜ギリシア

列車で行った メテオラの修道院〜ギリシア

メテオラのルサヌ修道院

☆世界遺産メテオラ
ギリシアの首都アテネから列車で世界遺産メテオラに行きました。
メテオラは、ギリシアに17件(19カ所)もある世界遺産の中でも4番目に登録された、また17件の中で2つしかない複合遺産(あとはすべて文化遺産)です。つまりは、ギリシアの中でもアテネのアクロポリスと並ぶ、最も代表的な世界遺産です。
メテオラは、アテネから北西へ直線で約250kmの距離にあり、車なら半日走るだけで行けるので、多くの外国人観光客はアテネからバスで往復して観光するツアーを利用して、メテオラの修道院を巡ります。これなら、途中でもう一つの世界遺産デルフィにも立ち寄りますし、何といっても楽です。でも、他の国から来た多くの観光客と一緒に回らねばなりませんし、時間が自由になりません。自分のペースで回って観光したい、という人にはけっこうストレスです。
そういう人におススメなのが、列車でメテオラに行って、修道院をタクシーで巡る、という旅です。


☆ギリシアの鉄道

アテネからメテオラまで走るギリシアの列車(機関車)

ギリシアは国土の面積は日本の3分の1あまりなのに、鉄道路線の延長は日本のおよそ10分の1程度という、あまり鉄道網が発達していない国です。最も重要な幹線が、首都アテネから北部の都市テッサロニキまでを結ぶ路線ですが、直通列車は1日7往復だけですし、東京~大阪間とほぼ同じ500kmの距離を約5時間20分かけて走っていますので、速さの点でも日本やヨーロッパ主要国のレベルからはかなり遅れていると言えます。
アテネの地下鉄や周辺の近郊線などは、路線の延長や改善が進んでいるようですが、メテオラ(鉄道駅があるのは「カランバカ」)まで行く路線も、2010年から巻き起こった経済危機のために、廃止が検討されているとのことで、ギリシアの鉄道は全国的には停滞気味のようです。
また、日本人はギリシアへ旅行する場合、多くの人がアテネとエーゲ海の島々に行きますので、なかなかギリシアの鉄道旅行を経験することは無いと思います。
ということで、ちょっと日本人には縁遠いギリシアの列車ですが、ボクはメテオラに行くのに列車を選ぶことになりました。
☆アテネから出発
出発の朝、ボクはアテネ中央駅に着いて唖然としました。小さいのです。みすぼらしいのです。
とても300万人が住む先進国の首都とは思えない駅舎で、日本のJRの駅で考えると、ちょうど人口10万人ぐらいの町の駅と同じ程度の感じなのです。

アテネ中央駅(ラリッサ駅)

アテネ中央駅は、以前は「ラリッサ駅」と呼ばれていました。(地下鉄の駅名は今も「ラリッサ駅」。) 駅舎からプラットホームに出ても3面だけで(しかも一番奥の1面は使っているようには見えない状態)、やはり首都の中央駅には見えない、田舎の駅でした。列車の行き先と発車時刻を表示する電光掲示板はありましたが、そこに出ている文字は全くでたらめで、何の役にも立っておらず、そんなところにも、この国の鉄道が置かれている状況が垣間見えた思いがしました。
でも、さすがに列車の出発前だけに、ホームでは多くの乗客がその到着を待っていて、列車が入ってくると、みんな一斉に大きな荷物を持って列車の乗降口に急ぎます。

プラットフォームで列車を待つ乗客

アテネを出発した列車は市街地を抜け、北西に向かいました。
ギリシアは全体に平坦な地形で、神話で有名なオリンポス山(2917m)などいくつかの高山はあるものの、2000m台の標高にとどまっています。アテネを出て、しばらくは平野を進んでいた列車の窓からも、郊外の小さな町と畑が交互に現れる単調な景色が続きました。
しかし、その中でも、目を引いた物が線路際にも並んでいたソーラーパネルでした。日本では福島第一発電所事故のあと注目され始めた太陽光発電ですが、ギリシアではきっと、もっと前から普及していたのでしょう、耕地のあちこちに、ソーラーパネルが並べられているのが見られました。雨が少なくて、日射しが強いギリシアではうってつけのエネルギー源なのでしょう。 (遠くの山の上に風力発電の大きな風車が立っているのも見えましたが、それほど多くではありませんでした。)

耕地に並べられたソーラーパネル

☆列車の旅
アテネを出て1時間半も走ると、畑の向こうにそれほど高くない山々が続くようになりました。
畑には背が低くて、真っ白い球形の花を付けた作物が広がっていました。走る列車の窓からでは、それが何なのか、なかなか見極められませんでしたが、やがて「あ、綿花だ」と気付きました。
日本では綿花栽培を見た事がないのですが、テレビや映画で外国の綿花の穫り入れ風景を見た事があります。その映像の綿花が、ボクの目の前に、車窓の景色となって現実に広がっているのでした。収穫が完全に終わって枯れ木が並んでいるような畑の隣では、収穫を待つまあるくて白い綿毛の玉が並んでいて、その中を稲刈り機のような車が穫り入れをしている、といった絵が見られました。
その景色は、カランバカに着くまで断続的に、続いていて、カランバカの少し手前の駅では、収穫された綿の山が駅前に積み上げられてもいました。
(後から調べてみたのですが、綿花はギリシアの主要な農作物で、世界でもなんと7番目の輸出国です。)

一面に広がる綿花の畑

駅前に積み上げられた綿の山

アテネを出て2時間。列車は徐々に山の中の風景に入って走っていました。線路に覆い被さるような岩山が迫ってきたり、渓谷にかかる鉄橋を渡ったり。反対側の窓に目を移すと、列車の目の下に平地が広がっていて、いつの間にかずいぶん高くまで登ってきていたのが分かりました。景色の変化が激しくなり、目を楽しませてくれます。
途中の田舎の駅から乗ってボクの隣に座った老女に、向こうに見える山は「パルナッソス山ですか?」と、ひと言尋ねると、それまで黙っていたのに、突然、堰を切ったようにギリシア語でまくし立て始めました。でも何を言ってるのか、皆目分かりません。老女も英語は全く分からないようで、ちっともコミュニケーションが取れないのに、彼女はめげずに、それもかなり大きな声で、ボクにしゃべりかけ続けます。そのうち、「テッサロニキ」という言葉が聞こえたので、どうやら、ボクの行き先を聞いているんだな、と分かり、「NO. メテオラ。」と答えました。すると、彼女は納得したのか、フン、と肯き、話すのを止めてまた黙りました。たぶん、もっといっぱい、いろんなことをボクに聞きたかったのでしょうが、行き先を聞き出しただけで、あとはあきらめたのでしょう。ボクはボクで、向こうに見える山がパルナッソス山かどうかを確かめる事をあきらめたのでした。
平地の町と山間とを縫って列車は走り、テッサロニキへと続く本線と、パレオファルサロスという分岐駅で分かれ、綿花畑の中をメテオラに向かいます。
トリカラという駅で、それまで乗り合わせていた乗客のほとんどが降りて行きました。どうやら、メテオラまで列車で行く観光客というのはホントに数少ないんだ、ということを実感します。
やがて、右前方に巨大な岩山が見えてくると、それが見る見る眼前に迫り、まるで衝立か屏風のように立ちはだかってくると、「カランバカ、カランバカ」という車内アナウンスが聞こえ、列車は終着駅に滑り込みました。
列車はアテネから約370kmの道のりを、時刻表では5時間弱のところ、40分遅れの5時間半かけて辿ってきたのでした。

カランバカ駅に到着

☆カランバカ
ガイドブックには「メテオラ観光の拠点となるのはカランバカという小さな村」と書いてあるので、カランバカはメテオラから少し離れた位置にあるものだと思っていましたが、カランバカ駅に降り立つと、目の前にそびえ立つ岩山の上に、メテオラの修道院の一つ、アギオス・ステファノス修道院が既に見えていました。
「なんとまあ、こんなに近くに見えるんや。」驚きながら修道院を見上げて、ボクはホテルに向かいました。
その日の夕食は、沈みゆく夕陽に赤く照らされるアギオス・ステファノス修道院を見上げながら、味わいました。

夕陽に照らされるアギオス・ステファノス修道院

☆観光タクシー
翌朝、予約してあったタクシーのドライバーはホテルのロビーで時間通りに待っていてくれ、ボクを認めると、人なつっこい笑顔で握手を求めてきました。
ホテル前から出発すると、アギオス・ニコラオス修道院のふもとにある駐車場でドライバーはボクを降ろしました。ボクがひとりで修道院に登って、中を見学して、また下りてくるのを待っていてくれるのです。ひとつ見終わると、次の目的地(ヴァルラーム修道院)にまで案内してくれるのですが、途中、そちこちにある撮影ポイントで車を停め、写真を撮るように促してくれます。観光客が求めるツボを、しっかり分かって案内してくれていました。
中にはいくつもの修道院を、自分の足で歩いて回っている人もいましたが、現在はきれいに舗装されているとは言え、上り下りする道を何キロも歩ける人はなかなかいないと思います。観光タクシーなら、効率的に何カ所も回って、しかも、自分のペースでじっくり見学できるので、時間がない観光客でも納得できるだろうな、と思われました。
☆メテオラの6つの修道院は思考させられる世界遺産
メテオラの6つの修道院は、どれもが、あたかも岩山の一部であるかのように、その岩山に根を張っているのかと思うほど、溶け込んでいます。
よくもまあこんな所に、と誰もが思う、細く高い岩山のてっぺんに建てられています。日本は南北朝・室町時代の頃。「どうやって作ったのか?」訪れる人は必ずその疑問を持つはずです。ここは人間が持つ能力や可能性までも考えさえてくれる場所なのです。
建物の中に入ると当時(14世紀やそれ以前)の壁画やイコンなどがギリシャ正教の世界を創り出しています。ただ、眺めるだけでなく、そこに身を置きじっくり沈思すると、600年の時を遡って、そこに集った人々を感じたい気持ちになりました。

メガロ・メテオロン修道院の一室

☆夕陽を眺めてアテネへ走る列車
夕方、アテネに帰る列車はカランバカ駅を出ると、夕陽が傾いていく中を走り続け、やがて、太陽は、山の向こうに落ちていきました。サントリーニ島のイアの夕陽はとても有名ですが、ギリシアの夕陽はなぜか、どこで見ても美しいのです。列車の窓越しに、その景色を見届けてボクは、列車の小刻みな揺れに誘われ、疲れて心地よく眠りにつきました。

メテオラからアテネに帰る列車から見た夕焼け

旅行期間:2012年 9月26日から10月4日までの9日間  小澤

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