誰もが憧れる、一生に一度は行ってみたい世界遺産の上位に君臨するマチュピチュ遺跡。
遺跡発見から100周年というめでたいタイミングで幸運にも登頂の機会が巡ってきた。
リマから飛行機でクスコに入り、車でオリャンタイタンボへ向かう。
そこからビスタドームに乗ってマチュピチュ村の入口であるアグアスカリエンテス駅まではおよそ1時間半。
途中ウルバンバ川を左手に、並走しながら目的地に向かった。
泊まったホテルはエルサンチュアリオホテル。
駅から歩いて5分ほど、川沿いにあるちょっと古めのホテル。部屋は暗いが清潔でスタッフもとても感じいい。
翌日の観光に備え、酒は控えて早く眠りについた。
ワイナピチュ山頂へ
そして当日。本家マチュピチュ遺跡観光より先にワイナピチュに登るのが当初からの計画。
ケチュア語で”若い峰”を意味するワイナピチュはマチュピチュの向いに遺跡を見下ろすように聳える山で写真でもよく見るマチュピチュ遺跡後方に見える尖った山頂が本日最初の目的地だ。
辿りつくために、朝6時台のバスに乗り7時までには門の前に並ばなければならない。
早朝、村からのバスは本数が多い。1台およそ40人乗りのバスは満席になり次第出発する。
途中、マチュピチュ遺跡を発見したハイラムビンガム氏の名を取ったワインディングロードを延々と登り続ける。
このバスがなかなかスリリングで楽しい。ガードレールが見当たらないこの道で、途中バスがすれ違うときはあまりの狭さに転落するのではないか?とちょっとドキドキする。高くなるにつれ大渓谷の絶景が目の前に広がり気分もアップ、およそ30分で目的地へ到着した。
入口手前に見えるのはマチュピチュではナンバーワンといわれるホテル、サンクチュアリロッジ。
まずはパスポートと入場券を見せて受付終了。マチュピチュ入場後は通常の見学ルートを無視して、遺跡を横切り、北の端にある入口をひたすら目指し15分ほど歩く。
ワイラナ(休憩スペース)と聖なる石のあたりまで辿り着けばワイナピチュ入口はすぐそば。
遺跡保護や安全のために1日400名(午前200名、午後200名)までの入場制限があるので事前に日本から予約を入れていった。
7時ちょっと前に到着したが既に30人くらいの列ができている。ここから遠めに登山道はまったく見えない。
入口で名前と入山時間を書いて登山開始。
来る直前に見た世界ふしぎ発見でもかなり急な箇所の映像が紹介されていたし、実際行った人からも話を聞いていたのでさすがにちょっと緊張する。
最初は下りからスタート。予想通りの急な箇所もあるがどちらかというと単調な道の連続。
途中から一気に登りに転じる。手すりすらない石段も多いので気をつけながら1つ1つ石段を登る。
途中ワイヤーにつかまりながら登らないと危険な箇所もいくつかあり、ここで軍手が役に立つ。
一歩踏み外したらどこまでも滑り落ちて行くような恐怖を感じる。おまけに運悪く小雨もぱらつき足元がぬかるんでいるのでケガだけはしないよう、カッパ、傘なしの状況でより一層注意をしながら前進する。
これでもかといった上りの連続に若くないので息が切れる。一体あとどれくらいなのだろう?と不安にもなるが、時折後ろを振りかえると徐々に景色が変っていくところが感動的で興奮してくる。
頂上の手前で一服。バスで登ってきたハイラムビンガムロードが一望できる。
あらためて凄いところに来てしまったと実感する。
山頂手前は絶好の撮影ポイント。雲の流れが早いのでちょっとしたタイミングで違う写真が撮れる。
山崩れ防止のために造られたといわれる、急斜面に造られた段々畑を恐る恐る登ってひとやすみ。
そこでイスラエルやカナダから来た学生たちと記念撮影で盛り上がる。
眼下には貯蔵庫も見える。
最後の最後、傾斜がキツイ。そして狭い洞窟を抜け、細い階段を這い上がりやっと山頂へ辿り着く。
ここまでおよそ50分くらいだろうか?夢中だったので時計を見るのを忘れたがとにかく体力が要ることは痛感した。
頂上は岩が斜めに重なり合っているので滑りそうで危険だが、ひとまず腰をかけて休憩。
日本の家族に携帯でかけてみたが電波の状態がかなり良く、話していてとても不思議な感じがした。
相変わらず小雨がぱらついていたが傘はささず、滑り落ちないよう注意しながら360度回転して景色を楽しみ、写真を撮った。周りを見るとみなそれぞれのポジションから撮りまくっている。年齢層は30代中心だろうか?皆若い。おそらく今日は自分が最年長だろう。
欲を言えばスカッとした映像をカメラと脳裏に焼き付けたかったが、残念ながら悪天候のためあまり気に入った写真は取れなかった。でも、霧がかかっている風景も美しく感じる。
ハイラムビンガムロードを含めマチュピチュ遺跡の全景を眺められる頂上から360度の展望はとても感動的なシーンで一生忘れないと思う。
月の神殿へ
ここから下山・・ではなくもう1つの目的、月の神殿を目指す。
山頂からちょっと下ったところに分岐点が見える。そこからおよそ40分、ワイナピチュ裏手にその神殿はある。
何があるのかといえば特別に何もないと思われているのか、またはちょっと遠いからか、それとも、あまりガイドブックにも紹介されていないからなのか、ここまで来ても降りて行かない人が多い隠れたスポット。
山の裏にある神秘的な洞窟で神聖な気持ちになれるというところらしい。
分岐点で躊躇っていたエクアドルのカップルに声をかけ、そそのかして彼らと一緒に向かった。急な下りが多く、途中にはハシゴ伝いに下りる箇所もあってちょっとスリリングな探検気分を味わえる。
低い森の中を抜けると石組みが現れる。
そしてその下に神殿を発見。
山頂には多くの人がいたのにここではめっきりその数が減る。
ほとんど来る人がいない、まさに”穴場”
さらに神殿の前の景色も綺麗だ。
言葉で表現するのがとても難しいが、いわゆるスピリチュアルな空気を感じるスポット。そして、ほとんどカップルで埋め尽くされていた。男一人で来るところではないとは思いたくないが、ここはマチュピチュ唯一のロマンチックスポットと言っていいだろう。
大きな一枚岩とその不思議な色の模様、中をのぞいて感じる神秘的な空間。
近くに監視員の目が光っているが実際どこまで入っていいのかが判らない。中はあまり大きくなく、ひととおり見渡して奥に祭壇のようなものを発見した。が、ここでアクシデント発生。
元巨人のガルベスにそっくりな男にそそのかされ真っ暗闇を奥まで進んだばかりに岩の隙間に右足を滑らせて捻挫。
かなりの激痛が走り、瞬時にして観光どころではなくなった。
写真は直後の1枚。いちおう想い出を美しく残すために笑顔は保っている。
神聖な地に遊び心全開で、入ってはいけない奥まで入ったのできっと天罰が下ったのだと思う。痛みをこらえていたところにここまで連れてきてくれたお礼にとエクアドルのカップルがバナナをくれた。
涙が出る、とは大袈裟だがとても嬉しい。旅人の優しさに触れ、月の神殿の前で食べるバナナは美味しかった。
こういう偶然の、そして一期一会のふれあいが旅の最も素晴らしいところだとつくづく感じる。
しかし、休みも束の間、戻らなくてはならない。その後の戻り道のアップダウンはまさに地獄の連続だった。健康体でも軽く40分はかかる険しい道は一体どれくらいかかるのだろうか?進めど進めどゴールが見えない。おまけにさっきのバナナに刺激され(?)トイレに行きたくなったが遺跡を出るまでそもそもトイレなど全くない。さらに気が付けば空気が薄いせいか息も苦しい。
まさに三重苦の状態でなんとか這いつくばって2時間かけて脱出した。
さらに雨も強くなってきたので遺跡の休憩所(ワイラナ)で雨宿り。
汗と雨で全身ズブヌレ状態。さらに靴が履けないほど腫れ上がっており、これは観光どころじゃないと悟る。
このままあきらめてホテルに帰ろうかとも思ったがここまで来ておとなしく引き下がるわけにはいかない。30分ほど休んで、悩んだが、せめてマチュピチュだけは観光しておこうと決意して再びカメラを握りしめた。
遺跡側からはついさっきまでいたワイナピチュのテッペンが見える。
この光景はテレビやガイドブックで既に見慣れたものだったが登ったあとは一味違う。
あらためてこの謎の空中都市について、何故こんな高いところに、どうして、どうやって?という基本的な疑問が沸いてくる。またこれをよく見つけたと思う。
500年以上も前に造られたという歳月の重さにあらためて感動せずにはいられない。
これだけ多くの人を魅了してやまないエネルギーは本当に凄い。
ひととおりポイントといわれるところを見てまわり最後に出口でパスポートに記念スタンプを押してもらって終了。
サンクチュアリロッジ
サンクチュアリロッジはマチュピチュ遺跡の入口にあるオンリーワンかつナンバーワンのホテル。
全食事やドリンクなどが含まれているオールインクルーシブプランのホテルで29ある客室はシンプルで落ち着いた雰囲気。2つあるスイートからはワイナピチュも見られるなど、ホテルからの眺めが素晴らしいことでも有名。
敷地内には広い庭があり散策も楽しめるのが特徴。また、ゲストだけでなく、マチュピチュを訪れた人もランチ・ビュッフェの利用も可能。マチュピチュ遺跡内は飲食が禁止されているので観光のあとの最高の休憩場所ともなっている。
遺跡の入口にあるのでバスの時間を気にすることなくマチュピチュを存分に満喫したい人にもお勧めのホテル。
もちろん村まで行くならバスを使えばOK。村からの帰りはあのスリリングな登りが体感できる!
エクスペディション
行きはビスタドームだったが帰りに利用したのがエクスペディション。
このエクスペディションは運行間もない新車両で大きな窓とシースルーの天井はビスタドームと変らず、開放感がある。
座席は4人掛け向かいあわせ、テーブル付き。
マチュピチュ村からオリャンタイタンボまでおよそ1時間半、朝だったのでショーパフォーマンスはなかったがコーヒーとおやつのサービスはあった。
来たときと同じでウルバンバ川沿いの渓谷を走り抜けていく風景を楽しめる。
この後、クスコで1泊しリマ経由で帰国の路へ。
捻った右足がますます腫れ上がり、成田について病院に直行。
回復の気配がないのでうすうす覚悟はしていたが、全治2ヶ月の骨折と判明した。
一瞬の不注意で痛い目にあったが月の神殿に行ったことに悔いは全くない。
むしろよく歩いて帰ったことと、意外と歩けるものなのだということを知り、感心しながら治療に励んでいる。
2012年4月 櫻本