ヨーロッパだ。フランスだ。
フランスといえばわたしにとって身近に感じるのは文学、そして絵画だ。ボードレールやバタイユ、サドなどは学生時代の研究上、親しんできたし、絵画は小さな頃から印象派がずっと好きだ。作品から漂う自由さと、日本にはない、なんともいえない田舎の風景の美しさ。そんな人々を魅了する作品を多く生み出す国、フランスの、南にあるコート・ダジュールとプロヴァンス地方を中心に旅してきた。
パリのド・ゴール空港から国内線でニース空港へ。到着したらすでに21:00をまわっていたが、市内は観光客でにぎやかな雰囲気が漂っていた。プロムナード・デザングレという海辺の道路を車の中から見たが、そこから見える街並みや人々を見て、おお、ヨーロッパに来た!という実感がひしひし湧いてきた。なにしろヨーロッパは3年ぶりなのだ。興奮せずにはいられない。
その日は長時間のフライトで疲れ切っていたので、即就寝。
翌日、今回の旅行の目的のひとつであるコート・ダジュールの村を訪ねた。
ニースからは長距離バスが一日に何本か出ているので、個人でも行くことは難しくはないが、車でまわったほうが、格段に効率が良い。現地オペレーターさんにお願いしての日帰り観光だった。
まずはマントン。温暖な気候で、熟年夫婦がリタイア後に移住してくるので、高齢者率がとても高い町だそうだ。海辺のカフェのレストランでは、朝からワインやカフェを楽しむ老夫婦の姿が見られた。こんなところに老後に住めたら夢のようだろう。
マントンはバロック建築の旧市街の街並みで有名。本当に美しい。レモン色やレンガ色の壁が青空に映えて絵画のようだ。
マントンはフランスとイタリアの国境近くにあるので、国外からの観光客も多い。陸続きのヨーロッパは、旅行がさぞしやすい事だろう。うらやましい。
【マントンの雑貨屋さんとフリーマーケット】
わたしは建物が好きだ。著名建築家の建てた建築もそうだが、なんの変哲もないヨーロッパの民家のたたずまいがどうしようもなく好きなのだ。旧市街は、そんなわたしの趣味を見事に満たしてくれた。おかげで、撮った写真は人が少なく、路地ばかりになってしまった。
次に向かったのはエズ村。
一番楽しみにしていた村!海抜400mの上に建つとても小さな、そしてとても美しい村。海からの攻撃を防ぐため、海側からでは村が見えないような造りになっている、いわゆる鷲の巣村と呼ばれる村のひとつだ。
村の中は迷路のように小さな路地があちこちにのびており、民家はアトリエや工芸品などのお土産屋さんが多い。散策がとても楽しい村だ。
蔓の緑に覆われた石の塀。鮮やかに咲く小さな花。幼いころに読んだ、アメリカ人作家のバーネットの作品「秘密の花園」の庭のわたしのイメージそのものだった。想像だけだった、花園、そんな世界が現実に目の前に広がっている。しばし信じられなくてめまいがしそうである。
3時間の長い滞在がうれしかった。エズ村には、素敵なシャトーホテルが2軒あるので、エズ村に泊まって、夕暮れ時にお部屋から地中海を眺める滞在もとても素敵だろう。
最後は、港町のヴィル・フランシュ。
階段を上がると、旧市街の町だ。素朴な街並みが広がる。
市街の建物は階段がとても急そうなので、お年寄りや大きい荷物の移動とかはどうするんだろう…というようなことを考えながらひたすらぐるぐる歩き回る。たまに猫や犬と遭遇した。ここに住む動物たちもなんとなく自由奔放そう。
それにしても、マントンでも思ったが、旧市街の建物はなんて素晴らしいんだろう。同じ造り、壁の色なのに、まったく飽きないで見ていられる。ドアの形や、色、窓の格子のデザインなどなど、よく見れば一軒一軒違う。そんな些細な違いを見つけながら歩く。時折家の中からテレビの音や子供の笑い声が聞こえてきた。
この他にも、ヴァンスやグラースなど、コート・ダジュールは魅力的な村が多い。ニース近辺に長く滞在するのであれば、小さな町や村を訪ねてみるのがいいだろう。
ニース滞在も最終日。ちゃんと海を見ていなかったので朝早くに海岸沿いまでおりてみる。
太陽の光が波に照らされきらきらしている。ずっと見ていても飽きない光景だった。
旧市街近くのサレヤ広場は朝市が開かれる。観光客や地元民であふれにぎやか。生花や野菜、魚など新鮮な食材がそろう。
ニースの旧市街も歩いてみたが、マントンやヴィル・フランシュに比べるとより一層観光地化されていたように感じて、そこまで魅力を感じなかった。飾らない素朴さが旧市街の良いところだと思うので、どこにでもあるようなお土産屋さんが連なっていると少し興ざめしてしまう。
市内散策を切り上げて、ニース観光のメイン場所へ。シャガール美術館である。
絵画に関してはあまり詳しくはないが、小さな頃から絵を見るのは趣味だった。特にフランスの絵画は好みのものが多く、後日パリで見たモローやモネはお気に入りだし、フランス人ではないがシャガールは大好きな画家のひとりなのだ。
ニースに行くことが決まったとき、真っ先に思い浮かんだのがシャガール美術館だったのだから、何がなんでも行く気だった。ニースには、美術館が多い。シャガール美術館以外にも、マティス美術館や近代・現代美術館などあるので、すべて行くには2日はほしいところ。
市内からバスで15分もしないくらい、丘の上の、のどかな場所にシャガール美術館はあった。
彼の生涯の後期の大掛かりな作品が展示されているこのシャガール美術館。メインは聖書の中の物語である。彼にとって作品の大きなテーマが、聖書の世界を描くことだった。
作品数自体はそこまで多くはないが、オーディオガイドを聞きながらひとつひとつの絵の物語をじっくり考えていると、あっという間に時間がすぎていく。わたし以外のお客さんもそうだった。よくある企画展の列を作って有名絵画をちらりと見て終了、というのは、鑑賞とはいえないと思う。座って遠くから眺め考え、近くに寄ってその絵の作品背景、思いを感じる。時間をかけてひとつの絵を楽しむことができるのが、この美術館の良さだと思った。
【青のステンドグラスが神秘的】
日本でもシャガールは人気なので、何年かに一度企画展が催されるが、まだ見たことのない作品ばかりだったので新鮮な感動があった。
ニースはフランス国内やヨーロッパでは大人気のリゾート地だ。観光客が押し寄せる夏のシーズンまでもう少し。人でごったがえすよりも、このくらいの時期でのんびり観光できるのもいいかもしれない。
ニース・ヴィル駅からアヴィニョンへ。疲れたのでその日は特に町を出歩くこともせず就寝。翌日は楽しみにしていたシャトーヌフ・ドュ・パプだ。
シャトーヌフに行く前に、午前中いっぱい使ってアヴィニョン市内を歩いてみた。天気は晴れ。ものすごく気持ちがいい。ここもフランス国内でも人気の観光地なので、日曜に出歩いている人はほぼ観光客だった。
【法王庁宮殿。スケールがでかい】
【アビニヨン市内】
【有名なサン・ベネゼ橋】
午後、現地アヴィニョンに住まれているオペレーターの方とお会いして車でシャトーヌフへ。
アヴィヨンはニースに比べたら小さい町だなと思っていたが、シャトーヌフはもっともっと小さかった。町というよりも村というべきか。30分もあればまわりきれる。
日曜、しかもイースターの連休ときているので、町はたいへん静か。路地に入ると人っ子一人歩いていない。
シャトーヌフはワインの町。小さな町にはワインショップが立ち並んでいる。覗くだけでわくわくする。
せっかくなのでひとつのお店に入っていくつか試飲させてもらった。1杯だけ、と思っていたのが、マダムがすすめてくれるので、結果的に5杯くらいいただいてしまった。同時にテイスティングしてみると、同じ赤でも全然味が違うことが分かる。今まで、どんなワインを飲んでも同じに感じていたけれど、こんなに違うものなのか。もっとワインに詳しくなってみたいものだ。
このお店は1890年からやっている老舗店らしい。マダムひとりで切り盛りしているそうだ。おしゃべりが好きな方で、お店のことや、日本のことなどたくさん話してくれた。
ひとつとても気に入った種類があったので、思い切って購入。最初は全くその気がなかったので、衝動買いにもほどがある…。フランスはこういうワインショップをはじめスーパーなどで本当に安くワインが買える。生活必需品なのだ。
【オーナーと一緒に】
シャトーヌフの町を見学して、ホテルへ。この町にはシャトーホテルがあり、そこに泊まるのが今日の一番の目的だ。Chateau des Fines Rochesは小高い丘の上の、一面のブドウ畑を見渡すことができる絶好の場所に位置している。
糸杉のロードをくぐり抜けると、11部屋しかない、お城のようなホテルが見える。外観だけでも乙女心をくすぐるのに、中へ入るとそのかわいらしさに更に圧倒される。
お部屋は全室ブドウ畑向き。窓を開けると一面に畑が広がる光景は言葉では表現できない。
ディナーの時間までお部屋から景色を眺めたり、ブドウ畑の間を散策したりして、ゆっくりした時間を過ごした。どんな国に行ってもそうだが、やっぱり国の数や行く場所が多いよりも、ひとつの場所でゆっくり滞在するのが性に合っている。シャトーヌフはそんなわたしにぴったりの場所だった。
このシャトーホテル滞在の目的はもうひとつ、ここのディナーである。
宿泊しない人でも、レストランを利用することができ、ランチタイムもシーズンになると営業している。ブドウ畑が美しい緑で覆われる初夏はオープンテラスでランチなんて最高だろうなと思った。
レストランもとても可愛らしいつくり。
プリフィクスコースをオーダー。英語メニューがあるのでフランス語が分からないわたしでも安心だった。
【前菜】
ここのホテルで作っているワイン。メインでお肉料理を頼んだので赤にしてみた。飲みやすくてとてもおいしい。グラスで頼んだが思ったより高くなかった。1,000ユーロいかないくらい。
【海老のセロリソースあえ】
【牛フィレ肉の赤ワイン煮込み】
料理もおいしい。フレンチはなぜかお腹を壊しやすい料理のひとつだが、ここの料理では大丈夫だった。デザートは量が多く、お腹いっぱいになった。
おいしかったが、やはりひとりはさみしい…。ぜひまた行きたいものだが、今度は2人以上がいい。
【早朝のブドウ畑】
朝、早く起きてブドウ畑をもう一度歩いてみた。フランスの朝は、日本より少し遅いような気がする。8時前だったが周囲は誰もいない。車も走っていない。空気がとても気持ちいい。このまま時間が止まればいいのに。そんなことを思った。
ワイン畑が緑で覆われる頃は、もっと美しく素晴らしい景色が広がるだろう。
シャトーヌフは、アヴィニョンからバスが出ているが、本数が少ないので注意したい。しかも日曜は運休している。タクシーか、もしくは現地旅行社に送迎を頼むのがいいだろう。旅行者には少し行きづらいところではあるが、のどかでいい場所なのでぜひ行ってもらいたい地域だ。
シャトーヌフの近くには、有名な「リュベロン地域」がある。プロヴァンスの魅力がつまった地域といえるだろう。ここは、「フランスで最も美しい村(Les plus beaux villages de France)」に選ばれている村が多い。
「フランスで最も美しい村」は、田舎の小さな村々の観光促進のためと、美しい遺産や村の風景を保存するため、設立された。認定されるには住民が2000人以下であること、最低2つの遺跡があることなど、規定は厳しめである。
まずはボニュー。
私が訪れた中で一番小さな村。そして観光客もあまりいなかった。ここは「美しい村」の規定にはずれてしまっているため、登録はされていないが、古風で気取らない村でわたしは気に入った。ガイドブックを見直したら、フランスの有名人の別荘が多い村だそうだ。のんびりするにはうってつけだろう。有名な『南仏プロヴァンスの12か月』の著者であるピーター・メイルはこの近辺に住んでいたそうだ。
次にルシヨン。
写真で見たことがある方もいるかもしれない。赤い壁のおうちが特徴のルシヨン。
近くの山からオークルが摂れるので、オークルを原料にしている。赤い家並みは、とてもかわいい。赤といっても、それぞれ微妙に色が異なる。きっとひとつとして同じ色合いのおうちはないのだろう。
ルシヨン村には、アート関係の人たちが移住してくるらしい。村の中はアトリエが多かった。プロヴァンスはアーティストの創作意欲を駆り立てる何かがある気がする。とても自由な空気が流れているのだ。
美しい村に選定された村は、村の外観をそこなわないように、道にごみがあってはならないし、旧市街のように窓から洗濯物を干すこともしてはいけない決まりがあるそうだ。
住んでいる人はなかなか大変そうだ。家の中はエアコンがないそうなので、ほとんどの家が、冬は暖炉を使い、夏は窓を閉め切って日光を遮断してどうにかがんばるらしい。
次はゴルド。
石で積まれた塀が特徴的。おうちも石造りである。遠くから見る村の風景は浮世離れしていて、本当は存在しないもののように見えてくる。空にぽっかり浮かんだ村。ファンタジーの世界だ。
トマス・モアの代表作として『ユートピア』があるが、遠くから見るゴルドはこの世のものではないような気がした。理想郷と呼ぶにふさわしい。
ここでランチを取る。現地の日本人オペレーターさんがおすすめのレストランだ。
近くの地区名産の白ワインとともにタイのグリルをいただく。テラスでの食事はとても気持ちよく、ワインがすすみすぎてものすごく酔ってしまった。そして、日の当たるテラスで2時間くらいずっといたので、手がものすごく日焼けしてしまった。これは乙女としてかなりショッキングな事件であった。
ゴルドから近いところにラベンダーで有名なセナンク修道院がある。現在も修道士が修行を続けており、ラベンダーでサシェなどを作って観光客用に売っている。
シーズンは6月後半から7月上旬まで。紫と青空が映える様はとても美しいだろうなと想像した。
フォンテーヌ・ド・ボークリューズは水の町だ。透明度の高い川水がとても美しい。
町から徒歩15分くらいにある洞窟で「ヴォークリューズの泉」がある。この泉が不思議な話で、泉の水がどこから湧いてくるのか、未だに解明されていないらしい。川のせせらぎを聞きながらの洞窟までの道は軽いハイキング。天気がいいとかなり汗をかく。
レポートを書くにあたってガイドブックを読み直していると、ショックな事実を発見した。ラコストという村があるのだが、そこをサド侯爵が領主としておさめていたそうなのだ。そして彼はそこで小説を書いていたらしい。なんたる不覚。ケアレスミス。予習不足。知識不足。反省してもしきれない。プロヴァンスの田舎に行ける機会なんて、そうそうないというのに、こんなミスを犯してしまった自分の首を絞めたい。それにしても、プロヴァンスのこんな明るい雰囲気の中で、よくあのような作品を生み出せたものだ。サドは相当変わり者だったのだろう。
リュベロンは個人では簡単に行くことができない。シャトーヌフと同様、現地でタクシーやレンタカー、旅行社の日帰りツアーなどに申し込んだほうが効率的にまわれるだろう。近い距離に位置しているのに、村はそれぞれ特徴があり、いくつまわっても違った良さを味わうことができる。シーズンの夏は観光客でごった返すらしいので、プロヴァンスの田舎の素朴さ、静けさを体験したい方は少し時期を外されたほうがいいかもしれない。
リュベロン地域周辺をまわった後、ふたたびアビニヨンへ。郊外は市内よりも緑にあふれとても静か。前日のシャトーヌフと同様に、この日も宿泊場所にこだわる。マダムベロニックのやっているシャンブル・ドットへ到着。
シャンブル・ドットは、日本人にはまだまだ聞きなれない言葉だと思う。イギリスのB&Bのようなもので、一般の家庭のお客様用の部屋を提供している宿泊施設のこと。日本でいえば民宿やペンションといえばわかりやすいだろうか。
シャンブル・ドットによっては、朝食以外にお昼や夕食を別料金で提供してくれるところもあり、今回泊まるシャンブル・ドットは夕食(ターブル・ドット)の用意があったので、事前に予約をしていた。
Le mas des trouvaillesという名前のこちらのシャンブル・ドットは、この日は4部屋全室満室。早くから予約をしておいてよかった。
わたしが泊まったのは「ヴァン・ゴッホ」と名付けられた3名まで入れるお部屋。とんでもなく可愛い!ベッドカバー、まくら、クッション、タオル、スリッパからなんでもすべてグリーンで統一されている。オーナーのこだわりをひしひしと実感するお部屋づくりだ。天蓋つきのベッドなので、御伽話の主人公みたいな気持ちになれる。女の子は絶対気に入るはず。
お待ちかねのターブル・ドット。庭のテーブルでオリーブをつまみつつ食前酒(アペリティフ)をいただく。
この日はリヨンから来たフランス人のカップルと一緒だった。二人ともグルメで、色んな国の料理を食べており日本食も大好きだそうだ。ここのシャンブル・ドットも初めてではないそうで、何度か来ているらしい。リヨンは大きな街なので、連休ができると南仏の田舎にのんびりするために来るそうだ。素敵な二人だったが、なにしろフランス語だったのであまりコミュニケーションがとれなかったのが残念なところ。
今回強く思ったが、やっぱりフランス語は最も苦手な言語かもしれない。単語がいくつかわかれば、旅行中になんとなく言語が分かってくるものだが、今回はそれがなかった。最後の最後までつかむことができなかったので、帰国後も苦手意識は払拭できぬままである。
もしフランス語が少しでもわかるのであれば、シャンブル・ドットのような宿泊場所はお客さん同士の距離が近いので、食事時や談話室で会話を楽しむことができる。それもシャンブル・ドットに泊まる良さのひとつでもあるのではないだろうか。
ターブル・ドットは前菜、メイン、チーズのあとにデザートとお茶、というコース。
食材はほぼ、私有の畑で採れた野菜や果物だそうだ。
前菜 サーモンとパセリのタルト クスクス添え
クスクスは苦手なのだが、これは食べやすく非常に美味しかった。
牛肉の赤ワイン煮込み
隠し味はオレンジの皮。赤ワインに合い、たまに感じる酸味がいいアクセントになっていた。
チーズの盛り合わせ。フランス人はチーズをよく食べる。ディナー時はデザートの前に好きなチーズを好きな分だけとるそうだ。
アップルパイと食後酒
このりんごも庭でとれたもの。柔らかく煮込んでありとっても美味しかった。
ゆっくり時間をかけて食事するのがフランススタイル。2時間以上かけて手作りの料理を味わった。
オーナーのベロニックさんがシャンブル・ドットをはじめたのは7年前。コート・ダジュールから移住してきたそうだ。徐々に評判を呼び、今では夏場は予約をとるのが大変なほど人気になった。その人気もうなずける。お部屋のデザインや設備、料理の細部まで、彼女の気遣いと心がこもっているような気がした。
【ベロニックさんと一緒に】
食事を終えて、本宅を出て隣の離れのお部屋に向かうと、外はすっかり真っ暗。見上げると、どこまでも続く星空があった。ありきたりな表現だが、息をのむような美しさだった。
南仏に広がる一面の星空。何度も、ここに来てよかったと思う場面があったが、最後の最後でも、プロヴァンスはわたしに素敵な贈り物をくれた。
またひとつ、忘れられない景色に出会うことができた。
今回旅行中に様々な「色」を見た。空の色、海の色、民家の壁の色、庭に咲く花々の色…すべてが鮮やかで、生き生きしてみえた。それは大都会では見ることのできない、特別な色彩だったと思う。南フランスの田舎訪問後、パリにも何泊かしたが、その色を都会では見つけることができなかった。パリはパリなりの都会の良さがあるが、心から好きだ、と思えたのは南の風景や雰囲気だった。絵葉書から切り取ったような美しい景色は、いつまでもわたしの心の中できらめいている。プロヴァンスにいると、自分の人生すら、特別で輝いているかのように感じ始める。
一生に一度は、南フランスを、田舎の小さな村々を訪ねてほしい。自分の日常が色鮮やかに染まっていく感動は、他では感じることのできない、とっておきの体験なのだ。
2012年4月 相沢