いにしえの美しき中国を訪ねて。~西安・張家界9日間の旅~

いにしえの美しき中国を訪ねて。~西安・張家界9日間の旅~


ここ数年、中国は目覚ましい経済発展を遂げている。その勢いはいつ日本を越えてもおかしくはないほどだ。
とはいっても、中国は広大である。経済成長著しい場所はいくつかの大都市であり、そこからちょっと離れれば、まだまだ中国らしい、昔ながらの歴史あふれる風景をみることができる。
今回わたしは、昔西欧と中国とを結んだ、シルクロードゆかりの土地である都市西安と、世界自然遺産の自然保護区のある張家界をメインに旅してきた。
わたしの中国の知識度といえば、どこになんの省があるかもあやふや・・・という低レベルさ。以前から歴史には興味があったものの、どこから手をつけたらいいのか分からず仕舞いのままだった。この旅が終わるころには、少しでも中国に詳しくなっていればいいな、という思いで日本を後にした。


シルクロードを伝って東西の貿易が栄えた時代、西欧人たちは東洋の輸入品とともに伝わってくる、東洋の文化、例えば奇妙な衣装、料理、建築物など・・・それらの存在を知り、自分たちの文化には全くない奇妙な伝統を、さぞかし艶かしく魅力的に感じたことだろう。
そんな、貿易だけではなく、東西の文化交流の橋渡し的役割も担ったシルクロードと大変ゆかりのある都市西安。かつて長安として何度も都をおかれ繁栄した面影があちらこちらに見受けられる。北京・上海ほどの大都会とまではいかないものの、中国西部の中心地として栄えている大きな街だ。

【市内は城門で囲まれている】

中国東方航空にて、上海乗継ぎを入れて日本から約7時間。夜21時半ごろ西安に到着。1日目は移動のみで、翌日から観光が始まった。
西安といえば、必ずといっていいほど訪れる観光場所が秦始皇帝陵、また兵馬俑坑である。
中国と聞いて連想されるものは、大抵の人は北京の万里の長城、上海の東方明珠電視塔、そして兵馬俑坑なのではないだろうか。まさに私がそうであった。かつて絶大な勢力を振るっていた秦時代の始皇帝は、自身の墓をぐるりと囲むように兵馬俑や戦車、武具などを配置させた。男性の形をした兵の数だけでざっと7000体以上も見つかっている。

【兵馬俑一号坑 広大さに圧倒】


【兵馬俑近影】

写真では何度も見たことがあるが、実際に見るとその壮大さ、やることのでかさに驚かれる。見渡す限り兵がいるのだ!彼らは1人残らず、始皇帝のお墓の方角=東を向いて立っている。始皇帝はなかなか粋なことをしたものだ。ガイドさんが教えてくれたのだが、始皇帝は、職人たちに兵馬俑をこんなに作らせておいて、兵の作り方を秘密にするために彼らを一人残らず生き埋めにしてしまったそうなのだ。
古代中国の刑罰方法は、それはそれは酷なものだったと専門書で読んで見知ってはいたが、兵馬俑の作成法の秘密を守るためだけに大量の人間を生き埋めにしてしまうとは、大きな国をまとめあげる人間は、突拍子もないことをするものである。
司馬遷の『史記』によると、始皇帝陵の地底には地下宮殿が眠っている可能性があるという。なんという歴史ロマン!!!長い時間をかけて発掘は続けられるらしいが、やはり伝説は伝説としてそのままにしておいてもらいたい気もする。

【発掘はまだまだ続く】

この秦始皇帝陵の敷地は非常に広大で、入り口から始皇帝のお墓までの車が用意されているほど。徒歩だと難しいということだろう。全ての展示物を見て周るのにたっぷり2時間はかかる。非常に見ごたえのある観光スポットである。歴史に詳しくない人でもきっと楽しめるはずだ。
西安は餃子で有名な場所でもある。餃子の種類は全部で108種類!日本で餃子といえば焼き餃子をイメージする方が大半だと思うが、ここ餃子の本場西安では、一般的に蒸し餃子か、水餃子が好んで食べられている。わたしもそちらのほうが好きなので、ここぞとばかりに蒸し餃子を食べ尽くした。

【カラフルな蒸し餃子。中身や皮の味は全て違う。どれも美味!】

中国の料理は地方によって味付けや食材も様々。西安料理は日本人の口に合うほうだと思う。後半で行った南の地方は、唐辛子や油をたっぷり使った料理が多いので、日本人にはしつこく感じるだろう。そんな刺激物満載の料理を毎日食べていたのに、今回奇跡的に一度もお腹を壊さなかった!友達の現地人ですらたまにお腹を壊すと聞いたので、本当にわたしは運がよかったのだろう。
さて、西安では、昨年鄭州までの新幹線が開通し、新しく西安北駅が出来た。その新しい新幹線に乗って、日帰りで洛陽へと赴く。この新幹線、最新型なだけあって乗り心地がよく、2時間弱の旅を快適に過ごすことができた。

【出来たばかりの西安北駅。巨大だ・・・】

【最新の新幹線車内。車両ごとにテレビもある】

洛陽には、そう、あの「龍門石窟」があるのだ!!!
約1キロもある洞窟の中に大小あわせて10万体もの仏像がある。
仏像と聞くと、日本では木彫像や乾漆像、塑像、銅像などが一般的だが、ここでは岩を削って仏像が作られている。
近年、仏像鑑賞がわたしの趣味に加わったので、今回の出張で龍門石窟は楽しみにしていた場所のひとつだった。個人的には、木彫の仏像(とくに一木造りが良い)が一番ぐっとくるのだが、石像というものがどんなものなのか前々から興味があったのだ。
「龍門石窟」と掲げられた大きな門をくぐると、ついに石窟のはじまりである。

まずは三体の仏像のお目見えだ。



興味深いのが、北魏時代と唐時代に作られた仏像によって、その顔、体つきが如実に変化しているという点。これは日本の仏像にも見られることである。飛鳥時代に作られた仏像の、顔や体は非常にほっそりとしているものが多い。またその顔つきはアルカイックスマイルと呼ばれる、笑みかどうか分からないくらいのかすかな微笑みを浮かべている。対して、奈良時代の白鳳、天平の時期に入ると、その時代の変化に呼応して、作られる仏像も体系はふくよかで、顔はぽってりとした丸顔に移り変わっていった。時代背景や、人々が仏像にどんな願いをするかによって、仏像は変化する。
時代背景と宗教のつながりは深いのだ。変りゆく仏像の姿は非常に興味深い。

【蓮華洞 天井の蓮の花が見事!】

数々の仏像を拝見したところで、ついにこの石窟最大規模の寺院、「奉先寺洞」に到着!

奉先寺が建立されていた時代に大変な権威を持っていた女帝、即天武后の顔をモデルにしたと伝えられている盧舎那仏を中央に、左右には仏の弟子の像が、また菩薩像や天王、金剛力士像が存在する。
盧舎那仏は全長17メートル、顔だけで4メートルもある。実際に見ると、その巨大さは想像を超えていた。この盧舎那仏、実は奈良の東大寺の大仏のモデルにされたらしいというから、日本とも関係がないわけではない。


【菩薩像は細部まで装飾が施され美しい】

次に金剛力士像である。わたしの、この日一番の興奮ポイントだったといえる。

これを見て興奮しないでいられるだろうか。

【金剛力士像、天王にはさまれてはにかむわたし。】

個人的にはこの金剛力士像が一番のお気に入り。躍動感があり、目はギラギラとしておりまるで生きているかのよう。格好良いことこの上ない!最初の方で見た仏像たちも厳かなお顔立ちをしていて素敵だったので、かれらも捨てがたいが・・・。
石窟は、大きな観光ポイントにはなっていない、道なりにある小さな仏像たちを一体一体眺めるのも大変面白い。ゆっくりと歩きながら、それらを作った職人たちに思いを馳せる。ここは色々な楽しみ方ができるところだ。とにかく、大大大満足!!!!の龍門石窟であった。
旅は折り返し地点。中国の歴史を心行くまで堪能したあと、今度は自然に癒されにゆく。西安から二ヵ所めの目的地「張家界」へと飛んだ。
今回出張に行く前に「張家界」と聞いたときには、そ、それはどこですか?!状態だった。とんでもない秘境に飛んでしまうのではないかと不安でたまらず、中国のガイドブックというガイドブックを読み漁ったが、張家界の情報が少ないことといったらなかった。とりあえず、仙人が住んでいそうな岩峰の自然公園があるという、非常にぼんやりとしたイメージのまま到着してしまった。
到着したのが22時近くとあって、空港から出るとあたりは真っ暗。どこを見ても暗闇である。やっぱりすごい田舎に来てしまったんだ・・・大丈夫かな、と思っていたが、ホテル近くになると飲食店のあかりがちらほら見えてきた。

【地元の食材を使った料理屋さん。好きな食材を調理してもらうシステム】

この料理屋で早速張家界料理(唐辛子満載の炒め物類多し)をいただき、この日は就寝。翌日朝から2日間、自然探訪の日程である。
張家界の市外には武陵源区という世界自然遺産に指定された自然保護地域があり、その中に三つの森林公園や自然保護区が介在している。わたしはと張家界国家森林公園の天子山自然保護区の二ヵ所を訪れた。
まず1日目は張家界国家森林公園へ。入り口からすでに不思議な形の岩峰が見られ、期待度が高まる。

公園とはいえ最高峰は1550Mにもなるこの武陵源地区。山の上なので、ふもととの気温差は3~4度ほど。わたしが行ったときは晴天で暑いくらいだったが、日によっては寒く感じるときもあるかと思うので、羽織るものを持っていけば体温調節に便利かと思う。
ロープウェーを利用して、一気にお山の上へ。山頂にある「黄石賽」という地区へ行く。徐々に標高が上がり、眺めもよくなってくる。霞んだ雲のかんじがまた幻想的でなんとも言えず美しい。

【黄石賽へのロープウェーから】

この黄石賽という地区は、かつては少数民族の住んでいた場所だったそうだ。非常に歌の上手な民族で、遠くの山に住んでいる恋人へ歌を歌って愛を伝えていたそうだ。なんとまあロマンチックなお話だろう!
わたしが訪れた日は幸運にも天気に恵まれて、遠くまで見渡すことができた。


【黄石賽からの風景】

ロープウェーをくだり、岩峰のふもとをハイキング。金鞭渓という渓谷はマイナスイオン豊富で、歩いているだけで癒される。


次の日は天子山自然保護区へ。前日の張家界国家森林公園の雰囲気とはまた違っていた。
同じ武陵源区なので、同じような景色かと思うかもしれない。わたしも実際に訪れるまでは「きっと何回か見たら飽きるだろうな」と思っていた。しかし!張家界の自然さんごめんなさい。私が間違っていた。別の角度からみると、さっきまでの岩峰が、まったく違うもののように見えてしまうのである。そしてまた、新鮮な気持ちで景色を見ることができるのだ。




遠くの山々が霧に包まれて、山水画のようだ。見ているだけで、心が休まる。この旅の中で、一番心に刻まれた風景だった。
旅はまだまだ続く。移動の連続だ。なんせ国際、国内線合わせて9日間で計6回飛行機に乗ったのだから。中国は途方もなく広い・・・。
張家界から車で4時間ほど、ミャオ族とトチャ族という少数民族のいる、湖南省鳳凰県にある鳳凰古城へ。ここも、楽しみにしていた場所のひとつだ。
以前鳳凰の写真を見て、ステキ!こんなところに行ってみたいワと思っていたのだった。実際に行ってみても、その印象は変わらず、昔ながらの生活をそのまま維持している素敵な場所だった。まちの中央を流れる川の水で洗濯をしている地元の人たちをたくさん見受けた。


【「吊脚楼」と呼ばれる建築方式で建てられた家屋】

中央を流れる川を小舟でのんびりと行く。川の流れは穏やかで、そよ風がとても心地よい。ガイドさんと、色々な話をしながらゆっくり時が流れていった。

夜になると屋台が立ち並び、川沿いの民家はライトアップされ一気に賑やかな街に変化する。喧騒の中で、太鼓のパフォーマンスや弾き語りの若者たちの音楽が響く。
昼間の穏やかなあの古風な町とは思えない。昼と夜、魅力的な2つの顔をもつ鳳凰古城。



鳳凰滞在をもって、わたしの9日間の長い充実した旅は終わりを迎えた。
今回、陝西省、河南省、上海、そして湖南省と、3つの省と1つの直轄市を移動し、ほんの少しだけだが中国の地理に詳しくなることができたのではないだろうか。
いや、旅の成果はそれだけではない。各地で案内いただいたガイドさんとのお話の中で、歴史、また現在の中国の社会情勢や生活状況などを教えていただき、知識を得るとともに、中国という国をより身近に感じられるようになった。
旅をする、ということは、何か目的があってその場所に向かうのではないだろうか。例えば美しい自然が見たいだとか、珍しい動物が見たいだとか、その目的は旅する人によって多種多様であろう。中国は、それらの様々な目的を満たしてくれる大変面白い国だと思う。
正直、こんなに楽しくて楽しくてしょうがない旅は久々だった。お時間に余裕があれば、ぜひ中国は地方に足を伸ばしてもらいたい。そこでは、それぞれの旅の目的が、きっと見つかるはずである。
2011年4月 相沢

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