コナン・ドイルの有名な小説「ロスト・ワールド」のモデルになったベネズエラのギアナ高地。20億年前の台地、地球最後の秘境などと形容され、何億年もの地球の歴史を見てきたテーブルマウンテン(卓状台地)が100以上もこの周辺には存在する。そんなギアナ高地で一躍有名なのが、ベネズエラのボリバル州、カナイマ国立公園内にある、落差979メートルという世界最大落差を持つエンジェルフォールです。ギアナ高地にある最大のテーブルマウンテン、アウヤンテプイから流れ落ちるその滝は、落差がありすぎる為、滝下部では水が拡散してしまい、滝壺が無いのだそうだ。あたりは一年中深い霧に覆われており、1937年に偶然発見され、その後世界遺産に登録されている。
日本でも今や盛んにTV番組でも秘境にある世界遺産として放送されているため、滝が途中から霧状となり滝つぼが無くなる衝撃的な映像だけはみたことがある人は多いだろう。いつかは行きたいと思っていたこの地を今回研修の一環として訪問する機会を得た。今回の行程は成田→アトランタ→カラカス→プエルトオルダス→カナイマ→プエルトオルダス→カラカス→アトランタ→成田。飛行機の遅延やフライトキャンセルなどもあり日程の変更をせざるを得ないこともあったが、比較的天候にも恵まれエンジェルフォールをたっぷり見ることが出来た。特にエンジェルフォールキャンプでの滞在は印象深いものとなった。以下内容を一部ご紹介したい。
観光拠点カナイマ国立公園へ
エンジェルフォールの観光の拠点はカナイマ村。アクセス手段はカラカスや近隣の町からセスナ機のみ。まさに陸の孤島だ。今回は首都カラカスに前泊し翌日まずプエルトオルダスという町へ移動しそこから四人乗りプロペラ機でカナイマへ。プロペラ機が雲の中を通り過ぎる景色はさながら大ヒット映画「天空の城ラピュタ」のワンシーンの様でそれだけでもかなりテンションがあがる。町を離れ雲の合間から緑のジャングルと蛇行する川がみえ隠れする。テプイが見えはじめると間もなくカナイマだ。
コーラ色のラグーンでクルーズ
カナイマ村は観光の拠点ではあるものの大規模な開発がされておらず、素朴な生活がそこにある。小屋のような学校などがロッジ近くに点在し、商店もお土産物屋含めて数件しかない素朴なところだ。ロッジに到着するとまず7人のツアー仲間と合流した。カラカスで働くスペイン人3人組、女性一人旅のイタリア人、3ヶ月長期旅行中のイギリス人カップル、そして日本人の私だ。これからこのメンバーで2泊3日のツアー(カナイマツアー&エンジェルフォールトレッキング)を共にする。気遣いの要らない気さくなメンバーで安心した。昼食後、早速カナイマ村の前に広がるラグーンのクルーズとサポの滝へいくツアーへ参加した。ラグーン前に広がる白砂のビーチからモーターボートに乗り込む。カナイマ湖にはウカイマ、ゴロンドリーナ、ワダイマ、アチャといったラグーンに流れ込む大小の滝がある。アウヤンテプイなどのテプイに降った雨がカラオ川に集まって水嵩を増しているので滝は怒涛のように落ち、湖面から上がる水しぶきが滝の高さ以上に飛び散って思った以上に迫力がある。一番印象的だったのはその水がすべてコーラ色であること。滝もコーラ色である。これは上流のカラオ川の水が植物からでたタンニンを多く含んでいてそれがここに流れ出しているからだそうだ。水に溶けて石鹸のような発泡作用をするサポニンも含まれているので所々で泡だらけだったりもする。クルーズは30分ほどで終了し、アナトリー島のピンク色の砂浜へ上陸した。
大興奮のサポの滝アドベンチャーツアー
その後、サポの滝へ。このサポの滝のツアー、よくある滝見物とあなどることなかれ。よくある滝ツアーの一種だと高を括くっていた私は、いい意味で期待を裏切られかなりテンションがあがった。サポの滝はアナトリー島のピンク色の砂浜から山道を15分ほど歩いた反対側にある。この滝の裏側には遊歩道が出来ていて、歩いて通り抜けられるようになっているのだが雨季のためか滝の水量が半端なく、遊歩道の入口につくとこれを本当に通るのかと唖然とする。全身びしょびしょになるのは当然だが、遊歩道に滝が接近しすぎて油断していると滝の流れに吸い込まれ流されそうなくらいなのだ。当然写真なんて取れる状態ではないため、厳重に袋にいれ、ガイドさんに遊歩道の終わりまで持っていってもらう。みんなで手をつなぎながら少しずつ進んでいく。途中から目の前が見えず恐怖感でいっぱいになる。轟音で声も聞こえない。ツアー仲間のテンションも上がりっぱなしだ。
10分足らずの遊歩道を通り終え、やっと向こう側の見晴台へ。ここから見上げると改めて滝の水量の多さに圧倒される。
その後、滝の上へ上がり、水遊びを楽しんだ。クサリテプイなど遠方に眺めながらの水遊びは格別だ。その後再びボートでカナイマ湖を横断し村へ戻った。夕飯まで時間があったため、カナイマ湖畔のビーチでゲームをしたり、のんびり夕日を眺めたりしてロッジへ戻った。夕食後はツアー仲間と明日からのエンジェルフォールトレッキングへ思いをはせつつ、夜遅くまで語り合った。
いざエンジェルフォールトレッキングへ
エンジェルフォール観光はセスナ機での遊覧飛行で上空から滝をみるのもいいが40分足らずで終わってしまう。アドベンチャーな体験含めたっぷり楽しむなら地上から滝にアプローチするトレッキングツアーがお勧めだ。このツアーは強行軍の日帰りプランもあるがエキサイティングな時間をより長く過ごしたいと思った私は迷わずエンジェルフォールキャンプ(エンジェルフォールの対岸のラトン島)に泊まる1泊2日のトレッキングプランに参加した。これは間違いなく正解だった。
この日は快晴だったがカンカン照りまではいかないトレッキング日和。ツアーはまず鬱蒼と茂るジャンルの中、蛇行する川を猛スピードポートで疾走し一路エンジェルフォールの展望台があるラトン島を目指すことになる。流れに逆らい遡る&疾走するわけだから否応無しに水しぶきが上がり我々に降りかかる。さながらラフティングでもしているかのような臨場感。古代世界に迷い込んだような景色と合間ってかなりテンションがあがる。途中島でバーベキューランチを取った後、より水深が浅く雨季ように水量が比較的多い時期にしか入れないチュルン川を遡るとテプイが徐々に顔を出し始める。そしてついにアウヤンテプイの山肌にしぶきをあげるエンジェルフォールが遠方に見えてくる。
約5時間かけようやくエンジェルフォールの対岸の島ラトン島へ上陸。だがここからエンジェルフォールが間近にみえるライメ展望台まではさらに約一時間ジャンルをトレッキングしなければならない。靴を履き替え、虫除けしたら準備万端。いざ出発だ。数メートル登ると既に滝のしぶきの音が耳に入り、滝の間際まで迫っていることがわかる。はやる気持ちを抑えながら木の根っこが張り出した道無き道を注意深く登りやっとの思いで展望台へ到着。「うおおっ!」ツアー仲間から一斉に歓声があがる。何度もテレビでみたあの景色が目の前にある。雨季の始まりで水量が不十分だったため若干迫力に欠けていたが約1000メートル上空から流れる落ちる滝が途中で霧となり消えゆく様はやはり圧巻だ。ツアー仲間と無事この地に到着できたことを称え合い夢中でシャッターを切りまくった。時折風が吹くと我々にその水しぶきが降りかかる。長旅の疲れを一気に吹き飛ばしてくれる。感無量だ。しばしこの風景に酔いしれた後、滝から少し離れたところにある滝壺で泳ぐ。いわば天然のプールだ。30分ほど泳ぎ麓のキャンプへ。
今夜はハンモック泊。キャンプの近くからは対岸のエンジェルフォールを好きなだけみられるのも嬉しい。キャンプに泊まる1泊2日のこのコースに参加しないとこんな贅沢も味わえない。夕食が終わると、カイドさんがサプライズがあるからとみんなを集め先ほどエンジェルフォールをみていたポイントへ。「おおっ」そこに広がるは満天の星空。今日の長い一日と明日の仲間との別れに寂しさが募る。しばし夜空に酔いしれてキャンプへ戻る。あれほど心配していたブヨもハンモックの近くには全くおらず一安心。心地よい疲れとともにハンモックで眠りについた。
翌日早朝再度エンジェルフォールを眺める。これが見納めと目に焼き付ける。朝食後、昨日同様のルートでボートにてカナイマ村へ。昨日までの天気が嘘のようにスコールにみまわれたがトラブルなく村へ戻った。2日しか離れていないのにむしょうに懐かしい。村へ着くと刺すようなカンカン照りにみまわれ、たまらずみんなでアイスクリームをほお張る。折角仲良くなったツアー仲間とももうすぐお別れ。寂しさばかりがつのるが仕方ない。昼食後、仲間を空港へ見送り。アドレスを交換し再会を誓い合った。午後はホテルを視察したり、村を散策したりして過ごした。
エンジェルフォール遊覧飛行へ
朝あいにくの雨に見舞われ心配していたが9時には止みいざ遊覧飛行へ。4人乗りのセスナ機が離陸してしばらくすると、やがてアウヤンテプイの荒々しい断崖が見えてくる。テプイの深く入りこんだ渓谷を断崖すれすれに飛行しながら、滝に向かう。視界の目前に迫りくる断崖の壁は迫力満点である。やがて、断崖の一角に白い糸を引いて落下するエンジェルフォールの姿が雲の合間から見えてくる。「エンジェルフォール!」とパイロットが教えてくれる。上空を何回か旋回して見せてくれるのだが、残念なことにヘリと違って滞空できないので、あっと言う間に通過してしまう。若干、雲がかかって見えにくい。だが、かろうじて滝の全景は確認することができた。声にもならないため息がこぼれる。決定的瞬間を逃さないようにと夢中でシャッターを切った。地上からの景観とは違い、テプイや雲と調和した景観は絵巻物を見ているかの様。特に滝の真上からの眺めは大迫力だった。これで地上からとあわせてたっぷりエンジェルフォールを拝むことができた。悪天候などで見ることができない場合もあるとことを考えるとかならラッキーだったといえる。昼食後、再びホテルを視察し、カナイマを後にした。
次回はロライマ山トレッキングやオリノコデルタクルーズ、ロスロケス島へも足を伸ばし、ベネズエラのほかの魅力を探ってみたい。
エンジェルフォールの旅は単なる見物旅行ではなくアドベンチャーな体験をしたい人に是非お勧めです。しかしながら難易度はそう高くはありませんので御気軽にご参加下さい。
ホテル情報
カンパメント・ウカイマ
カナイマ湖から二キロ離れたカラオ川沿いにあるデラックスクラスのロッジ。ウカイマ滝展望台近くよりボートでアクセスする。大自然にあふれたロッジで庭からは眺望がすばらしい。日本人団体客の利用も多い。
タプイ・ロッジ
カナイマ湖畔にある比較的新しい可愛い雰囲気のロッジ。バスタブ・エアコン完備。プライベートビーチからはカナイマ湖や四つの滝が一望できる。空港にも近くて便利。
カンパメント・パラカウパ
空港近くのスタンダードクラスのロッジ。部屋は広めだが大半の部屋は扇風機対応。カナイマ湖畔から少し離れた高台にあり部屋からは滝やテプイが望める。スタッフがフレンドリー。
ワクロッジ
空港近くのデラックスクラスのロッジ。プライベートビーチからはカナイマ湖や四つの滝が一望できる。欧州の観光客に人気が高い。
カナイマロッジ
空港近くのスーペリアクラスのロッジ。部屋はバンガロータイプ。部屋は古めだが悪くはない。カナイマ随一の部屋数を誇る。プライベートビーチからはカナイマ湖や四つの滝が一望できる。
おすすめの持ち物
虫除け
日焼け止め
懐中電灯またはヘッドライト
水着
ジップロック(水しぶきなどからカメラなどを守るのに便利)
スニーカー(滑りにくく底厚のもの)
クロックス系サンダル
酔い止め(酔いやすい方)ナップザック(防水のもの笑)
カッパ又はポンチョ
2010年06月 渡邊