ポルトガルの小さな街へ

ポルトガルの小さな街へ

気にはなっていたものの、なかなか行くチャンスのなかったヨーロッパ最西端の国、ポルトガルへ。円とユーロの為替も、燃料費も下がったおかげでヨーロッパに行きやすくなりました。それでも心配ごとがひとつ・・・今回は一人旅、あまり宿にこだわると予算面が問題。でもポルトガルらしいところに泊まりたい。やはりなかなか希望を満たすようなところがなく出発当日まで宿探しをすることになりました・・・ぎりぎりすぎて空室がないところがあったりで学生時代以来の行き当たりばったり旅となりました。


ゆっくり足でも半日あれば市街を一周できてしまうような、小さくて素朴なポルトガルの3つの街を見てきました。どの街も夜には蛍光灯ではなく、黄色いランプの灯るようなこぢんまりしたところです。海外で運転する勇気のない私は、各都市の移動はバスがメインとなりました。ポルトガルの鉄道は行き先によっては本数がなかったり、そもそも街に駅がなかったりで鉄道でどこへでも・・・というのは難しいかもしれません。その反対にバスはかなり小さな村でも近くの街からのルートがあり、同じ行き先でもバスの方が早かったり、ポルトガルでバスは地方に行くときの旅人の味方です。ここでご注意いただきたいのは多くのバス時刻表どおりにきっちりと運行されているということ。どんな小さい街の路線もかなり正確です。
オビドス
日本を夜出発、パリを乗継ぎ、翌朝10時過ぎにリスボンに到着しました。この日はオビドスというリスボンより80キロほど離れたところへバスで向かいます。リスボン空港から市内へはエアポートシャトルかタクシーかというところです。今回、空港から向かう先が市内中心部ではなく、オビドス行きのバスがでるカンポグランデというバスターミナルだったので、空港からバス停行きのバスがでているか心配でしたが、バスが発達しているポルトガルだけに、市内の主要バスターミナルは空港シャトルのルート上にありました。
ターミナルでは数々並ぶバスのうち、どれがオビドスに行きかを見つけるのは結構大変。ここは意地を張らずにバス会社のスタッフの方に聞いてみるのが一番です。親切に教えてくれました。何事ものろのろしている私でも到着後約2時間で12時発のバスに乗ることができました。

オビドスへは約1時間で到着です。この日の宿はCASA D’ OBIDOSというオビドス旧市街から1キロほど離れたところにある、荘園主の館を宿に改装したマナーハウス。ポルトガルならではのユニークな宿泊施設です。こういったタイプの宿はポルトガルではツーリズモ・アビタサオンと呼ばれ、街から少し離れたところに点在しています。部屋のそとではオーナーが洗濯物をしていたり、料理を作っているのがみられたり、ホームステイをしているような気分です。

さてオビドスは城壁に囲まれた街。城壁内はお城を中心にクラシカルなポルトガルらしい家や建物が並んでいます。お城は現在、ポルトガル国内に44ある国営ホテル『ポサーダ』のひとつとして使われています。ポサーダはポルトガルの旅を語る上ではずせない、旅の素材のひとつです。帯ドスのポサーダ『ポサーダドカステロ』は全部で9室。直前すぎたせいか満室のため私は泊ることができませんでしたが、レストランと中庭だけみせていただきました。中は中世にタイムスリップしたようなそんな雰囲気です。なぜこんなにも旅人をひきつけるのがよくわかりました。オビドスのポサーダは特に人気があります。お早めの手配をおすすめしたいと思います。

石畳が続くメインスリートは、特産の焼き物を売る店やポルトガルワインやジンジャを売るお店が並んでいてみているだけでもにぎやかで楽しいところでした。このジンジャですが、チェリーを漬けた果実酒で、特にオビドスは品質がよいそう。チョコレートでできた小さなカップに入れて飲むのがポイントでだいたいどのお店も1ユーロで1杯テイスティングをさせてくれます。甘くて飲みやすいのでいくらでも飲めてしまいそうでした。路地を入ると、一般のお宅が並びます。子供たちが遊んでいたり、学生が演劇の練習をしていたり、家からテレビの音が聞こえてきたり、人の暮らしが見えてきます。また軒先はきれいに手入れされた花が咲いていて、本当にどこをとっても絵になるそんな風景です。オビドスは私たちにとっては観光地ではありますが、同時に地元の人の生活の場でもあることも実感させられる生き生きとした小さな街でした。

翌朝は少し早起きをして隣町、カルダス・ダ・ライーニャへ。オビドスからは路線バスで10分です。この街ではずせないのが毎朝開かれるマーケット。売っているものは野菜やお花といった生鮮品がほとんどですが、色とりどりの商品がたくさん並びます。普通のポルトガルの暮らしが見えるのがおもしろい!オビドスからのショートトリップにおすすめです。
エボラ
オビドスからリスボンへ戻り1泊したあと、今度は南部の街エボラへ向かいます。エボラへはリスボンより列車で約2時間。出発駅のオリエンテ駅の横には巨大なショッピングモールがあり、今ポルトガルではやっているものがわかるような、そんなおしゃれスポット。入り口ではエスプレッソマシーンのデモをしていました。テレビCMも列車でもこの商品の広告をみかけたので、ポルトガルの流行最先端はこれか・・・と考えつつ、1階にある巨大スーパーへ。列車に乗る前にパンや飲み物といった食料を調達することも可能です。(電車がでるまでの時間をこのスーパーでつぶすつもりだったのですが、気づいたら・・時間が過ぎていました。ポルトガルの列車も時刻は正確です!ご注意ください!)目的の列車に乗り過ごす失態をしてしまいました。私が遅れたのはたった1分、いや30秒かもしれません。ポルトガルの国内交通は本当に時間に正確です。


エボラ駅から旧市街へは500メートルほど歩きます。エボラもまた城壁に囲まれています。駅やバスターミナルのあるところは比較的最近建てられたような住宅街ですが、城壁に囲まれた旧市街に入ると歴史的に重要な建物が並び、街全体が博物館のようなところです。旧市街は1986年にユネスコの世界遺産に登録され、大切に残されています。カテドラル(教会)を中心に街は広がっていますが、この教会のおとぎ話にでてきそうなかわいらしいとんがり屋根に注目です。てっぺんに小さな旗が立っていたりして、おもちゃみたいな教会です。また何といっても夜の街は必見です。外灯と、教会を照らすライトがとても美しかったです。夏場は日が暮れるのが8時半を過ぎてからとなります。リスボンからの日帰りもできますが、ぜひここは1泊して夜のエボラをみられることをおすすめします。このエボラにもポサーダがあります。ここのポサーダは古い修道院を改装してできています。こちらは全体で32室です。この日の宿の予約も兼ね突撃取材を敢行しましたが、満室でした。皆様、どうぞ予約はお早めに・・・

エボラがあるアレンテージョ地方は郷土料理がおいしいところでした。「ポルトガルワインの宝」ともいわれ、最近注目のこの地方のワインと、パンとポーチドエッグが入ったスープとポーク炒め料理の組み合わせは、この食事が毎日続いてもいいと思うくらいすばらしかったです。

モンサラーシュ
エボラからバスを乗り継ぎ2時間弱、モンサラーシュという小さな街へたどり着きました。バスで走っているとだんだんとスペインの方向を指す看板が多くなってきます。ここはスペインまであと12キロという国境近くの街です。標高は300メートルほどあるので、近くの湖やまわりの村も見渡せる景色のすばらしいところでした。このモンサラーシュも城壁に囲まれたところで、城壁内は30分もあれば1周できます。エボラやリスボンへ日帰りも可能ですが、「沈黙の音」が聞きたくて私はここで1泊しました。

村に3つしかない宿のひとつ、ポルトガルではエスタラージェンと呼ばれる、民家を改装したESTALAGEM MONSARAZに泊まりました。事前の予約をしていなかったので、まずは宿の門をたたいてみました。鍵はあいているのですが、誰もいないことがよくあるそうで、用のある人は電話をしてほしいとかいてありました。それだけ治安のよいところなんだと思いました。この日の宿のお客 さんは私だけだったようです。ここも規模は小さく、天井も低くてとても古そうな家具が置かれています。そんな1室が私のお部屋です。1泊も70ユーロ(シングルの料金。シーズンによってかわります)ほどで豪華ではないのですが、とても情緒があります。
さてその「沈黙の音」ですが、夕暮れ時と日がのぼる時に沈黙の音がする村と聞きました。確かに日中も観光客はほとんどおらず、村を歩いても風の音と鳥の鳴き声しか聞こえてきません。誰も住んでいないのではないかと思うくらい、ひっそりとしていて少し不気味な感じの、それまでに見てきた他の街にはない雰囲気です。日が暮れるのは夜8時半ころ。さえぎられるものが一切ないところからみる日暮れは、ほかの村から隔絶されているように静かでした。

天気がよく、翌朝の日の出も楽しむことができました。夜明け前の6時半過ぎ、モンサラーシュからでる一番最初のバスが行ってしまうと、あたりは静まり返っていました。「沈黙の音」が確かに聞こえたような気がしました、正直なところアクセスは非常に悪く、場所が場所なだけに行くこと自体に時間がかかります。それだけにそこから見える景色とその雰囲気に、どんな人もきっと息をのむはずです。

リスボン

3つの田舎町を1泊ずつのあわただしい旅となりましたが、最後はリスボンに2連泊です。リスボンではアルベルガリアという歴史的な建物を改装した宿に泊ります。サンジョルジェ城の中にあり、丘の上にありまわりは民家がたくさんある下町です。ホテルより小規模で4つ星くらいのグレードのペンションみたいなところをアルベルガリアと呼びます。かつては城内のキッチンとしてつかわれていたところ改装したそうです。ホテル内に孔雀が放し飼いをされていたりしてユニークなところでした。(この孔雀は朝ごはんの時間になるとでてきて、お客さんのパンくずなどを食べていました。人間を攻撃するようなことはないようです・・・)

リスボンは起伏に富んだ街です。そしてビジネス街や新しいマンションの建つ新市街も石畳のところが多く、歩いて回るにはすこしきついかもしれません。でも大丈夫、地下鉄やバスが街を網羅しており、観光客でも動きやすいのが魅力です。いうまでもなくポルトガル1番の大都会ですが、カテドラルや劇場、市庁舎などクラシカルな街並みがまだまだ大切に残されています。町中が黄色いランプで照らされる夜は、少し高いところから街を見下ろすのがおすすめです。

もうひとつリスボンで挑戦したいもの、ポルトガルスイーツです。リスボンではカフェといったら、パステラリアと呼ばれる立ち飲みカフェがほとんどです。パステラリアが道沿いに数件並んでいたりして競合してしまわないかと心配になるくらいたくさんあります。朝9時から夜の11時くらいまでオープンしていて、ひっきりなしにお客さんが入っていました。とにかくポルトガルの女性も男性も甘いものをたくさん食べます。エッグタルトをはじめとしたスイーツがガラスケースの中に何種類も入っていて、大体ひとつ1ユーロくらいから。これらをビッカと呼ばれるエスプレッソと一緒に食べるのがポルトガル流です。リスボンの中には老舗のパステラリアがいくつかあります。蝶ネクタイの店員さんがいるような有名店もローカルの人がいっぱいのお店も、必ず立って食べる用のスタンドがあります。立ったままなんて落ち着かないと思っていましたが、意外と長居できてしまうのが不思議でした。

最後の1日は、路線バスに乗って、セトゥーバルへ向かいます。リスボン市内よりバスで1時間程度のところです。途中テージョ川をはさんだ対岸へ行く長い橋も渡りますので乗っているだけでも楽しいルートです。セトゥーバルは河口の町とあっておいしいシーフードが楽しめるのが魅力の街です。道沿いには網焼きをして取れたてのシーフードを出すレストランが並んでいます。ものすごい煙とシーフードのにおいの中、オープンエアのレストランを発見。そこでイカをいただきました。10ユーロでたっぷりのイカは、ほんとに新鮮。テラス席で風に吹かれながらの食事はセトゥーバルならではです。リスボンからの日帰り観光におすすめのところです。
あっというまの9日間、どこに行っても続く石畳の街並みは歩くのがけっこうきついけど、趣がありとても素敵です。また何より滞在がより楽しくなる、経済的でユニークなポルトガルらしい宿がたくさんあるのも「ふらり旅」にはずせないポイント。立ち飲みカフェや、道路沿いの網焼きシーフードの店で肩肘はらずに、ローカルと同じことに挑戦しやすいのもポルトガルの魅力です。そしてポルトガルの人たちは、にぎやかで明るい!世界的に有名な遺跡や街はそんなに多くないけれど、素朴であたたかみのあるお国柄に触れ、またひとつみなさんにおすすめしたい国ができました。
2009年4月 吉木

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