海、山、人々の暮らし―――本物を知る大人の冒険(南西フランス、バスク地方)

海、山、人々の暮らし―――本物を知る大人の冒険(南西フランス、バスク地方)


海、山、そして人々の暮らしの中に、昔から変わらない本物の姿が残されている―――
世界的に活躍するフレンチの巨匠、アラン・デュカス氏が感嘆する美しさ。それはフランスとスペインの国境エリア、バスク地方にあるらしい。
大切にされ続ける伝統、自然と調和した暮らし、郷土への深い愛情。バスク人のシンプルで変わることのないスタイルは、世界からも注目されている。
今回はそんなバスク地方に加えて、フランスでも特に美しい田舎町が点在する南西フランスへ。ヨーロッパの原風景を専用車で訪ねる、大人の冒険旅となった。
<南西フランス コルド・シュル・シエル>

ガイドの足元を追いかけながら、慣れない砂利の坂道をずんずん歩いていく。この先に何があるんだろう・・・ドキドキなのか息切れなのか、鼓動が激しい。小高い丘の細道が急に開けて、ふと正面を見る。そこには素晴らしい絶景が広がっていた!


コルド・シュル・シエルは空に浮かぶ、南西フランスで最も古い城塞都市。小高い丘に渦巻くように並んでいるかわいらしい民家。この町は13世紀、カタリ派撲滅を目的とする北フランスからの軍の侵攻を防ぐ拠点として作られた。今となっては趣のある田舎町。その美しさに心惹かれ、多くのアーティストや職人たちがこの村へ住み着いたという。トゥールーズ名産のスミレのお土産も、この街で選ぶのがおすすめ。職人たちの自信作に出会うことができる。

パステル(名産の青色染料)のハンドメイドのお店

スミレの花びらのチョコレート漬け シャンパンに入れて楽しむのがおすすめ

<南西フランス コンク>

コンクは、山あいにひっそりとたたずむ巡礼の宿場村。非常にこじんまりしていて20分もあれば1周できてしまう規模だが、中心にあるサント・フォア教会は世界遺産に登録されている。ザ・ロマネスク!なタンパン(入口の扉の上の彫刻)が描くのは、最後の審判。正面から見て左側には天国、右には地獄が広がる。ほのかに残る着色の跡は、この教会がこの世に生まれてから経過した月日を想像させる。



ひんやりとした空気に包まれ、ひっそりとした夜のコンク。夜遅くまで空いている数少ないレストランでは、観光客たちがワイン片手に一日の出来事を語らっている。9世紀以降、サンチャゴ・デ・コンポステーラを目指す巡礼者たちは、どのような思いでコンクの夜を過ごしていたのだろう。教会にて祈りを捧げ、翌朝には西へ向け歩き出していたのだろうか。



サント・フォア教会では、夜9時半からパイプオルガンのコンサートとライトアップがはじまる。ロマネスク様式の小さな窓にはめ込まれているのは、現代の芸術家ピエール・スラージュ氏デザインのステンドグラス。シンプルで現代的な窓の光は、まるで命を宿しているかのようにやさしく変化していた。
近年フランスの大聖堂は、プロジェクションマッピングなどのイベントを行っているところも多い。この村には、そんな文明の楽しみを知らないままでいてほしいと思う。
<南西フランス ロカマドゥール>

日本には「岸壁の母」という名曲があるが、この村のマリアは絶壁の母と呼ぶのがふさわしいのかもしれない。町の対岸からでもはっきりと見ることのできるおおきな聖母像は、長い道のりをかけてここまでやってくる巡礼者たちに微笑みかけながら、無事を祈っているかのようだ。

礼拝堂の聖母像 町の対岸からもよく見える

ロカマドゥールは切り立った絶壁に建てられた、小さな巡礼の町。初期キリスト教徒だった聖アマドゥールの遺骸が、全く腐敗していない状態にて発見されたという伝説がある。教会の中には、フランスで最も有名な黒い聖母像。この聖母の頭上にある小さな鐘がひとりでに鳴ると、奇跡が起こるとされている。

黒い聖母像(奇跡の礼拝堂)


聖アマドゥールの遺骸が見つかった場所。聖アマドゥールの墓が岩窟にあることから、町はRoc-Amadour(岩窟のアマドゥール)と名付けられた。

黒い肌の聖母像は世界中に約500体あり、その中でも200体以上がフランスにあるらしい。肌が黒い理由については、ロウソクのススで汚れてしまったからだと言われていた。しかし研究が進むにつれ、黒が聖母像本来の色であることが分かった。謎は深まってしまったのだ。ロカマドゥールの聖母においても例外ではなく、なぜ黒い肌をしているのか未だ分かっていない。

くるみオイル

ライヨールナイフ

ロカマドゥールワイン

ふもとの町には可愛らしい土産物屋の目抜き通りがささやかなにぎわいを見せる。この地方のお土産物を探すなら、この通りを散策するのがいいだろう。名産のくるみワインやくるみオイル。名産のナイフブランド、ライヨールやトリュフ、ロカマドゥールワイン、カベグーと呼ばれる山羊のチーズ・・・都市部では見られないハンドメイド作品を扱う店も見逃せない。教会をゆっくり見学した後にふもとの町を訪れ、町のパノラマを眺めることができるレストランでランチをとるのがベストルートだ。

ロカマドゥールを望むレストランのテラス

<フランスバスク サン・ジャン・ド・リュズ>

どこを切り取っても可愛らしいバスクメゾンの町並み。のどかな海辺と、ほどよく華やかな広場。この町が生んだベストセラー、元祖マカロンやエスパドリーユ、ベレー帽やバスク織・・・それらを片手に下げた観光客たちと、何度も何度もすれ違う。皆にこにこ顔で嬉しそう。お目当てのものを見つけることができたのだろうか。
海辺のホテルにチェックインすると、フロントのお兄さんが町の地図くれた。町自慢のレストランやバルの場所、営業時間までわかりやすく書き込まれている。どうやらここは美食の町でもあるらしい。サン・ジャン・ド・リュズを訪れる旅人は、なんて幸せ者なんだろうか!


この街が発祥のエスパドリーユ

バスク織の日用品

ベレー帽専門店

マカロンといえば、高級菓子店ラデュレなどのパステルカラーが定番のイメージ。しかし元祖であるメゾン・アダムのそれは、もっともっと素朴なもの。まるでカントリーマアムのようなシンプルな見た目に、口の中で広がるアーモンドのやさしい甘み。ルイ14世婚礼の際に初めて作られ、贈呈されたのがはじまりだとか。このお店では、このレシピを当時のまま守り続けている。

元祖マカロンの店 MAISON ADAM

マカロンは1つから購入可能

朝目が覚めて、ふと窓を横目に見る。
「これは直ぐにでも外へ出なくては・・・!」
昨日街で手に入れたエスパドリーユに、慌てて両足をはめ込む。目についた食べかけのグレープフルーツを掴んで部屋を飛び出した。



やわらかい朝陽が海辺のバスクメゾンを照らしていて、波は変わらずやさしく穏やか。欧米人は、水の中を構わず裸足で歩いていた。かなり冷たそうだが、そんな姿がうらやましくなって思わず海辺へ来てしまった。この町からバスク湾へ船を出して漂流したら、どんな町にたどり着くことができるのだろう。そこはフランスだろうか、スペインだろうか。昼間の華やかな町が嘘のよう。静まりかえった海を独り占めして、幸せを噛みしめた朝だった。
<スペインバスク サン・セバスチャン>

バル激戦区!Fermin Calbeton通り

車の中でうとうとしていると、いつの間にか国境を越えたらしい。
スペインバスクの中心地であり世界一の美食の街、サン・セバスチャンはあいにくの曇り空。旧市街を歩いていると、ゲリラ豪雨にあってしまった。びしょびしょになりながらバルへ駆け込む。
Fermin Calbeton通りは、どうやらバルの激戦区だったよう。店内では若者からおじいちゃん、おばあちゃんまで、ワイン片手に一日の出来事を語らいピンチョスをほうばっている。屋根があれば大雨だって気にしない。外での立ち飲みもへっちゃらだ。


有名店Borda Berriは鴨のステーキ、牛の頬煮込みが自慢

チャコリ(バスクの微発泡ワイン)は空気を含みながら注ぐのが旨さの秘密みが自慢

La Casa Urolaの看板メニュー、ロブスターサラダは絶品!

人気店Goiz Argiは英語メニューもある

ピンチョスとはスペイン語のピンチョ(串)が語源。バルの小皿料理全般を指す。近年この街ではレストラン並みの絶品ピンチョスを出すバルが大流行り。他にも、早い・安い・うまい!なバル、エスニック料理の要素を取り入れた個性派バル・・・バリエーションは様々。どのピンチョスも共通しているのは、自慢の地元産の食材を使っていること。「GOXO!!」(バスク語で「おいしい」の意味)を連発してしまう。
サン・セバスチャンのバルははしごするのが大常識!既にたくさんの店が日本の雑誌にも紹介されているが、下調べ無しだとどのバルに入ればいいのかわからなくなってしまうかもしれない。
美味しいバルを見つけるコツは、カウンターの下に落ちた紙ナプキンのゴミの数。沢山落ちていればいるほど繁盛店なのだとか。日本でも「のれんの汚い店は美味い」とはよく言ったもの。日本のこの文化はもう衰退しているかもしれないが、この街では紙ナプキンのゴミが道しるべとなって、世界各国から来た呑兵衛をおすすめのバルへと導いている。


南西フランスもバスク地方も魅力的な町ばかりなのに、どこも移動には車が欠かせない。道路標識も日本ほど点在していないし、日本ほどカーナビも詳しくない。専用車で回るのが賢く安心だ。専用車利用なら現地ドライバーおすすめの、秘蔵のビュースポットへも連れて行ってくれるかも・・・!?
どんな小さな町にも深い歴史と、何百年も人々に愛される理由がある。今回訪れた13の町、村の物語ひとつひとつを紐解くことは叶わなかった。全ての町にもっと長く滞在して、町の時計の進みに身を任せることができたら素敵だろうなぁ・・・
そうすればきっとアラン・デュカス氏の言う「本物の姿」に、もっともっと寄り添うことができるだろう。

コンクのビュースポットにて

【スタッフおすすめ度】
コンク★★★★・・・山あいの宿場村。静かな夜は巡礼者たちとオルガンコンサートへ
ロカマドゥール★★★★★・・・黒い聖母像マニア必見!?お土産探しにも◎
サン・ジャン・ド・リュズ★★★★・・・可愛い建物と海と美食!ハネムーナーにもおすすめ
サン・セバスチャン★★★★・・・世界一の美食の街。お気に入りのバルを発掘したい。
(2015年10月 仙波佐和子)
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