はるばるパタゴニアへ~アルゼンチン~

はるばるパタゴニアへ~アルゼンチン~

地球の裏側へ。飛行機を乗り継いで丸一日半。時差12時間。5泊9日(ということは、機中何泊だ?)。
季節は逆。南米大陸のその先っぽの、南極に近い地域。
今回、ヴァリグ・ブラジル航空さんから研修旅行をご招待いただき、アルゼンチン・チリのパタゴニア地方へ行くことになった。
でも、かなり体力的に厳しそうな・・大丈夫かな・・と思った。
ロサンゼルス経由でサンパウロ。乗り換えてブエノスアイレスへ。この時点で、出発してから丸一日以上たっていて、機内食も5回くらい出たが、食べて・寝てをくり返すだけというのも、時間の感覚がマヒしてきて、案外平気なものだ。
ブエノスアイレスに着き、国内線の空港へ移動。500年程前のスペインの征服、その後1800年代のヨーロッパからの移民で造られた町は、まさにヨーロッパの古い町そのものだ。スペイン系・イタリア系・そしてフランス・ドイツ系などのさまざまな白人の顔。風が強く、うす寒く、どんよりした天気。今にも雨が降り出しそう。私が3回ほど行ったヨーロッパは、いつも夏の終わりで、いつもこんな天気だったのを思い出す。


3時間ほどでリオガジェゴス空港に到着。
ここは南緯50度以上ある。いっきに気温が下がる。そして強風。ずい分遠くまで来たんだと感じる。
今日の移動はまだ終わりではない。ここから、ロス・グラシアレス国立公園の拠点となるカラファテという町までバスで移動。これは約5時間。
この移動の風景は、なんといったらいいか・・「地の果て」という感じだ。このパタゴニア地方は逆三角形の南米大陸の端なので、ある意味あたっているのだが。
荒涼とした土地。強い風。この大陸には、北のベネズエラから、ずっとアンデス山脈が南北に連なり、南へ行くほど徐々に低くなっていき、南端のフエゴ島で消えていくという。太平洋からの湿った風は西から東へ吹き、それはアンデスを超えると乾燥した風になってしまう。それで、アルゼンチンでは、エステーパと呼ばれる乾燥草原地帯が続くらしい。
そういった説明をきくだけで、なんだかずい分都会を離れて、人間の力の及ばない大自然の中へ来たんだなと思う。
大地に、低い草が、団子のように丸く固まって、ぽつ・ぽつ・ぽつと生えている。そして、放牧されている白くて丸い羊が、やはりぽつ・ぽつと、時々いる。そんな景色がずーっと続く。
そして、めったにいないのだが、ワナンコという、この大陸の南部にしかいない、らくだのような顔で、ガゼルのような体の動物を見かけた。それは、北部にしかいない、リャマやアルパカと似ているらしい。ただ違うのは、人に懐かない性格上、家畜化されていないという事。
あと、ミャンドゥ。これは、だちょうの小さいやつ。いづれもめったにいないが、いても私達が車から降りて少し近づくと、サーっと逃げてしまう。
はるか遠くに雪をかぶったアンデスの山々。
あと、結構見かけたのが、カウケンという野雁。これは、いっつも白と茶色のつがいで、歩いていても、走ってても、水溜りで泳いでいても、そして、また飛んでいてもいっつも2羽いっしょにいる。なんて仲がいいのだろう。うらやましいかぎりだ。
途中できれいな夕日を見た。
空に赤みがさした途端、このエステーパが華やかな世界に変わった。雲が多かった空が赤い美しい模様になり、わあ、きれい!この時すでに20時半過ぎ。緯度が高いって、こういう事なんだ・・
それから真っ暗な中を走り続け・・暗闇の中に、いきなり光の固まりが。夜遅く、カラファテの町に着いた。
この町と同じ名前の、小さな黄色い花が咲く木には、すてきな言い伝えがある。その実を食べると、必ずこのパタゴニアの地に戻ってくるそうだ。
翌朝。本当に静かな朝なのだが、あまりにも強い太陽の光のせいで、目が覚めた。ホテルの中は一晩中ヒーターがつけてあるが、窓を開けるとシャキッと冷たい空気。冷たいだけでなく、澄んだきれいな空気の中、強い日差しを浴びた背の高いポプラのシルエットが美しく、その背後の山々を合わせると、絵のような風景だ。
モレノ氷河今日はペリト・モレノ氷河へ。
氷河というのは、普段の生活では全く馴染みがないが、漠然と氷の固まりの山だと思っていた。
ところが、氷河は動いているものだという。山に積もった雪が氷となり、どんどん積もり、溢れて落ちてくる氷の固まりが氷河というらしい。もちろん、目に見えてどんどん移動しているわけではなく、少しずつ動く。
最初にクルーズ船に乗り、氷河に近づいて観察。南極にでも来た気分!とっても寒いし!曇り空の中、太陽が射したり隠れたりすると、巨大な氷の崖は、白く光ったり、青白く見えたりする。湖面が日で照らされれば、氷河がそれに見事に写る。
それから船を降りて、アルゼンチン湖の岸で氷のかけらを拾い、ウイスキーのロックで乾杯。崩れて湖に浮いている氷は、1000年くらい昔のものだそうだ。そういうのを計算する人間もすごい・・
その後、氷河の動く最先端を、真正面から見られる展望台へ。ここで2時間程も時間がとってあり、なんでそんなにー?と思った。しばらくボーッと見ていると・・ゴゴゴゴ・・と、地の底から響いてくるような・・あるいは、すごい音響システムの大ホールで聞くような音。そして、高さ60m程ある氷河の先端が、上から剥がれるように、割れるように、バリバリバリ・・という音と共に崩れて湖に沈む。大きな大きな水しぶきと波紋。それが全て、スローモーションのように見えた。大自然の新陳代謝という感じか。これは、すごいものを見てしまった!これを見るために、ここまで来たんだなと思った。また、静かに待っていると、忘れた頃に地鳴りが聞こえてくる。2時間があっという間だった。
そして翌日はカラファテからチリの国境へ移動。
あまりにも広い大地に、あまりにもばかでかい空。その隙間に平たく浮遊している物体は、いつも町で見る雲と違うものに見える。とにかくだだっぴろい地表を走っているんだと実感できる。
バスの中でガイドさんがマテ茶を飲ましてくれた。これは、500年以上前にスペイン人がこの土地に来た時に、すでに先住民は愛飲していたようである。これはなぜか、南米大陸の一部にしか育たないお茶。味はウーロン茶の濃いような感じだが、その飲み方。一つの入れ物に茶葉を入れ、一人分のお湯を入れ、茶漉しのついたストローで飲みほす。そしてまたお湯を入れ、回し飲むというものだ。
その道の途中でガウチョに会った。ガウチョとは牧童のことで、1~3か月で交代するが、その間ずっと、全くの独りきりで羊を見て周ったりする。(犬・馬はいっしょだが)確かに孤独な生活だろうが、革ジャンで馬にまたがり、別の1頭の馬と2頭の犬を従えて、この広大な牧羊地を進む姿は、なんだかとってもかっこよく、楽しそうに見えた。日焼けした顔で笑顔を向けてくれた。
農家それから農家の見学。夫婦と子供と、数頭の犬・馬。雇っているガウチョと、山ほどの羊。
普段、羊は、ものすごく広範囲の牧羊地(草を植えているわけではなく、自然のままのエステーパ)で、勝手に寝起きし、草を食べ、勝手に子を産み自然に育つらしい。そんな野生生活なので、寒い冬にはどこかで死んでしまう羊もいるらしい。そして、年一度の春先にだけ、農家の小屋に集め、羊毛刈りをするらしい。この季節には、専門の羊毛刈りチームが農家を周る。それも、ちょうど見学できた。羊毛刈り師のお兄さんに押えられた羊は、体をころころ転がされても、ぬいぐるみのようにおとなしく、毛皮を脱ぐように刈られていく。
お昼に、ガウチョが焼いてくれた、羊一頭丸ごとの炭火焼をごちそうになる。焼きたてのアツアツがおいしくて、日本ではありえないくらい食べてしまう・・
だいたいこっちへ来てからの食事は、多量の肉や魚、それに何杯飲んだか忘れるほどの赤ワイン、そして、おいしくて残せないデザート・・私の胃はどうなってしまうのか・・
また、ずーっとバスで行くと、道端に小さな小屋があり、そこでパスポートにハンコを押してもらう。出国。そしてまたちょっと行くと、またまた小さな小屋でハンコ。チリ入国だ。
グワナコチリはアンデス山脈の西側だ。太平洋からの風をそのまま受けるこの土地は、アルゼンチン側と全く違っていた。緑が豊かといってもいいくらいだ。牧草となる草が豊富なため、羊の密集度も全然違う。
そして驚きなのは、グワナコだ。(ワナンコのことを、こっちではこういう風に発音する)東側では、まるで幻の動物のように、遠くから目を細めて見るだけだったのに、こっちでは平然と道路脇なんかに群れていたりする。なんでこっちのは、人間をあまり恐れないのだろう。緑多い所で育つと、性格も違くなるのだろうか?
この日は、パイネ国立公園の中に宿泊。夜は、ゴーゴ-という、台風のようなパタゴニアの風の音を聞きながら寝た。

現地4日目は、残念な事に雨。そして強風。そんな中を傘なしで歩き、これもパタゴニア体験だと開き直った。
昼を食べた後くらいに、ようやく雨があがった。ちらっと覗く青空に雪山はやっぱりきれいだ。パイネには、複雑な形のたくさんの湖があり、その背後に山々がある。ここまで書いただけだと、どこにでもある風景のようだが、ここの山の特徴は、氷河などで削られたために、非常に険しい形をしている。厳しい自然の象徴のようだ。
最後に、クエルノス・デル・パイネと、パイネ・グランデという有名な山が見晴らせる、サルト・グランデ(滝)の展望台へ。ここはまた、強風でも有名らしい。どのくらい強風なのかというと、なかなか前へ進めない・うっかりすると転ぶほどだ。展望ポイントは、風上に顔を向けられない・恐くて立ち上がれないほど。うーん・・こんな体験をするとは!その後のみんなは、宇宙から帰還したような興奮度だった。
そしてまた、ブエノスアイレスへ戻る日。
パイネからまた陸路、国境を越えてカラファテへ。5時間くらいかかっただろうか。ここから空路ブエノスアイレスへ。到着はもう、すっかり夜。
最後の夜は、タンゴショーシアターへ。私達が行ったのは、セニョール・タンゴという有名な大きな店で、内装のレトロ・ゴージャスさには、ため息がでる。クリントン元大統領も来たらしい。
料理は豪快で、5cmくらいの厚みの牛ステーキに、1.5リットルくらいのワインボトルがテーブルに出される。
刺激的なダンスにうっとりし、またここは、歌とかサーカスのようなアクロバット的なショーもあり、2時間、本当に楽しめた。
タンゴ音楽は力強く、また、もの悲しい。その昔、ヨーロッパからの移民・出稼ぎの人々が、夜のたいくつしのぎに始めたものらしい・・
最終日のブエノスアイレスは、初夏のような天気だった。夕方の出発時間まで、市内を目まぐるしく観光した。
パタゴニア地方は、羊ばっかりでほとんど人間に会わなかったが、ここには人がいっぱいいる。白人の人々、そしてヨーロッパ調の建物。元々この地にいた、インディオと呼ばれたモンゴロイド系の顔は見かけない。アルゼンチンは、周辺の国々のように、ヨーロッパからの侵略者と、先住の民族との混血という人がほとんどいない。先住の人々は滅ぼされてしまったのだろうか。
200年程前からの移民が創り上げてきた、古きよき時代のデコラティブな建造物を、そのまま大切に保とうとしているこの町。一観光客である私の目には、あまりにも美しく写った。どの区域も、ここにいちいち挙げたら、きりがないくらい魅力的だった。緑も多く、高い木々の上 には花が咲き始め、もうすぐ満開になろうとしている。
有名なボカ地区のカミニート。ここは、この地で生まれ育ったアーティストが、そまつな家々をカラフルな原色でペイントした小道。強い日差しに良く映える。今はすっかり観光地になっていて、そこに大道芸人や、小さな絵を売っている人々がいる。こんな晴天の日に、この光景はとても楽しそうに、明るく見えるが、なんとなく静かなもの悲しさも感じてしまう。
もしかしたら、町全体がそういう感じなのかもしれない。だから、魅力的なのか。
もっとゆっくりしたいのだが、完全に消化不良の気持ちのまま、空港へ。
長いと思ったら、あっという間の旅行だった。いや、まだ旅行は終わったわけではなくて、また丸一日半かけて、地球の裏側へ帰らなくてはいけないのだけれど・・・
●追記
今回、アルゼンチンのガイドをしていただいた、ノリコさん。本当に明るくおおらかで、また歴史や動植物にも詳しく、アルゼンチンをこよなく愛する女性でした。
チリのガイドをしていただいた、トエダさん。チリ女性から、カラファテの実をプレゼントされるのを心待ちにしている好青年でした。お二人とも、本当にお世話になりました。
また、同行の皆様。楽しく、無事に行程を終えることができた事を、感謝しております。
この研修旅行を企画していただいた、ヴァリグ・ブラジル航空さん、手配会社の方々、貴重な体験をさせていただきました事を、この場を借りてお礼させていただきたいと思います。
本当にありがとうございました。
松永 恵
2002年10月18日~26日・9日間

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