今回の旅の大きな目的は、サハラ砂漠の徹底(!)取材。360度見渡す限りのサハラ砂漠をラクダに揺られ90分。電話はもちろん、インターネットにも繋がらない、トイレもお風呂もない砂漠のど真ん中で一夜を過ごすサハラ砂漠キャンプツアーをレポートする。砂漠ツアー後に訪れたフェズのハマムでさっぱり、すっきりのおまけ付き!!
月明かりの中、強風が吹きすさび、細かい砂が舞い上がる砂漠の中を歩く。口を開けていると砂が飛び込んでくるのでずっと鼻で息をする。後でテントに戻ってみると耳の穴の中にたくさんの砂が入り込んでいた。
3月のサハラ砂漠の朝晩はかなり冷え込むと聞いていたので、それなりに服を着込んでいたがそれでも寒い。
夜でも月明かりで眼前に果てしなく続くサハラ砂漠が見える。寂寞としたその光景は恐怖すら覚える。後ろを振り返ると、キャンプツアーに一緒に参加した仲間たちが過ごすテントの明かりが見える。かすかに話し声も聞こえる。もしも、今、一人ぼっちでサハラ砂漠のど真ん中に立っていたとしたらと想像する。私は心の中で『無理、無理、無理、無理、無理』と呟いていた。
私は、中学生の頃からサハラ砂漠に強い憧れを抱いていた。平日の夜間に放送されていた、あるラジオ番組を聴いていたのがきっかけだ。うろ覚えなのだが、その番組の名前は、確か、『サハラに賭けた青春~サハラに死す』だったと思う。毎夜、その番組を聴くうち、「いつかサハラ砂漠に行ってみたい」と強く思うようになっていた。
その番組内容は、1975年に一頭のラクダとともにサハラ砂漠単独横断に挑むものの、途中で力尽き、22歳の若さで生涯を閉じた、上温湯隆(かみおんゆたかし)の手記を元に作られたものだった。
今回、私なりの特別な思いを抱きサハラ砂漠キャンプツアーに参加してみて、あらためて、サハラ砂漠の存在に驚かされた。砂漠の大自然をほんの少し垣間見ただけなのだが、その“異空間”は、これまで訪れた多くの旅人を魅了してきたように、私を強烈な力で圧倒した。私にとって、一生忘れられない体験となったことは言うまでもない。
今回、モロッコを旅していて、“砂漠”を感じ始めたのは、カスバ街道の終点にほど近い、エルフード近郊あたりからだった。道路脇に盛り上がる細かい砂に取り囲まれ、強風に吹き飛ばされた砂が視界を遮り辺り一帯が黄色い世界になる。そして、ほどなく、砂漠の中に広がる異様な光景を目にする。砂漠の平原に無数の小山が形成されていて、大きなアリ塚のようにも見えなくはないがアリ塚にしては大きすぎるような気がした。
「これらはいったい何なのか?」
それは、約1000年も前に人間の手(ベルベル人)によって掘られた井戸だった。ガイドさんの話を聞くと、昔は、地下に多くの水脈が通っていて、その無数の穴から滑車を使って水を汲み上げていたそうだ。井戸は、すべて地下で繋がっていたのだが、水が取れなくなってからは、地盤沈下や、風化で大部分の地形が変わってしまったという。ガイドさんは、その証拠に、ひとつの井戸から入って、別の井戸から出てくるといった実演を見せてくれた。今でも25mくらいある深さの井戸を器用に下りていき、真っ暗闇の中を通って見事に別の井戸から上ってきた。拍手喝さい!!
エルフードに到着すると別の車に乗り換え、サハラ砂漠キャンプツアーの出発地点(メルズーカ近郊)を目指す。ほんの数分でエルフードの町を通り過ぎ、地平線の見える大平原をひたすら4WDの車でひた走る。ところどころ木々が生えているものの、ここも既に砂漠地帯である。「砂漠」というと、見渡す限り砂地が広がり、美しい風紋を織りなす大砂丘の風景を想像するが、実際には岩原など、地形は多岐にわたる。世界の砂漠地帯を土質で面積の広い順に分類すると、岩石砂漠>礫(小石)砂漠>砂砂漠の順になると言う。
大平原を4WDで走行していると、再び、不思議な物体に遭遇。砂地に埋まったマンホールのように見えるその物体は、水に関係する施設かと思わせたが、話を聞くと送電線が砂の中を走っているそうだ。砂に埋まった電柱と言ったところだろう。この物体によって、砂漠の真っ只中でも電気が使えるようになっている。
また、この30分ほどの道のりで、いくつかのホテルが出現する。多くが、フランス文化の雰囲気が漂う「オーベルジュ」と呼ばれるレストランを併設する宿泊施設だ。「砂漠のキャンプはちょっと・・・」と思われる方にうってつけのホテルだ。砂漠の気分を味わうと同時に、しっかりっとした料理も楽しめる。でも、ファイブスタークラブとしては、いくつかの不便はあるものの、やはり、「ラクダに揺られて砂漠のど真ん中へ!!360度見渡す限りのサハラ砂漠で1泊キャンプ」をお奨めする。異次元とも言ってよい、360度、砂に囲まれた砂漠の世界は、実際に行ってみないと本当のところはわからないと思う。
向こうに見えるのがセンター
日が傾きかけた頃にサハラ砂漠キャンプツアーセンターに到着する。大砂丘が迫るすぐ近くにこのセンターはある。結構立派な建物だ。ここに、キャンプツアーに必要のない物は置いていく。お風呂はないので、着替えは特に必要ない。自前の寝袋も必要ない。夜の気温に合わせてガイドさんがテントで毛布を配ってくれる。電気はあるが、砂漠では水は貴重品なので、自分が使う水は自分で用意しないといけない。飲む以外に、洗顔や歯磨きにも水が必要になるので、大きなサイズのペットボトルは必須。もちろん、出発地点のセンターで販売している。それと、トイレットペーパーも忘れずに!
この日のキャンプツアーに参加するメンバーがセンターに集まり次第、砂漠のど真ん中を目指しラクダに乗って出発する。
ラクダに乗る体験は日本ではなかなかできない。そして、90分の道のりは、はたして長いのか短いのか。でも、ラクダに乗って動き出した瞬間、その答えは出た。
ラクダの背中に乗ってあたりを見渡すと、その視界の高さに驚く。でも、気分は爽快!!
出発したセンターの建物が徐々に背後に消えていくと、360度見渡す限りの砂漠となる。うねるような砂のなだらかな曲線がとても美しい。
砂漠は起伏が多いので結構揺れる。砂漠に慣れているラクダでも柔らかい深い砂地で足を取られることもある。鞍の金具を手できつく握り締め、前傾姿勢になって揺れに抗(あらが)う。慣れてくるまでは、どうしても体に余分な力が入る。それがまた楽しくもあるのだが徐々に疲れてくる。
ラクダは1本のロープでつながれていて、常に一列渋滞で移動する。ふと、前の参加メンバーに目をやると、やけにリラックスしてラクダに乗っている。よくよく見ると鞍の金具を持っていない。とても楽そうにラクダに乗っている。キャンプ地に到着し、彼と会話をしてわかったことなのだが、その彼はスイスに住んでいて乗馬の経験が豊富だった。ラクダに乗るコツを掴んだ私は、何とかリラックスして乗れるようがんばっていたらあっという間にキャンプ地に着いてしまった。鞍の上に何枚もの毛布を重ねて乗ってはいたが、お尻はちょっと痛かった。でも、その痛さも心地よいものだった。壮大な砂漠の景色は人の心を優しく包みこむ。
キャンプ地に到着後、ダイニング用のテントで紅茶を飲みながら休憩しているとほどなく夕食タイムとなった。メニューはタジン。ボリュームたっぷりで味もまずまず。
夕食後、尿意を催したのでガイドさんにトイレはどこかと尋ねると、「どこでもどうぞ」と言われた。もちろん、トイレはないことを知ってはいたが、ある程度の場所くらいは決まっているのではと思い聞いてみたのだが・・・。月明かりに照らされた砂漠を見つめ、強風にさらされながらワイルドな気分に浸りつつ事を済ませた。これもまた気分爽快。
その後、6人の参加メンバーで、お互いのこれまでとこれからの旅程を確認し合いながら会話を楽しんでいるといつの間にか夜は更け就寝タイム。次の朝は砂漠の日の出を観賞するため朝は早い。もちろん、ガイドさんが起こしてくれる。
砂漠の夜はもちろん静かだ。空を見上げると月の明るさにも負けない満天の星空。しばらく空を見続けているといくつもの流れ星も見ることができる。テントのそばではラクダが休憩している。テント、ラクダ、強い風、舞い散る砂、月、満天の星、流れ星、そして、暗闇に怪しく浮かぶ巨大な砂漠。こんな大自然に囲まれたテントの中で一瞬のうちに眠りに堕ちた。
翌朝は、ガイドさんに起こされるまでもなく目が覚めた。他のメンバーもごそごそと起き出しお互い助け合ってペットボトルの水で顔を洗う。寝ている間も細かい砂がテントに入り込んでいたそうだ。また、朝方に雨がサァーッと降って、これまた雨水がテントに入り込んでいたそうなのだが熟睡していた私は全くもって気が付かなかった。
東の空が徐々に白み始めたのでメンバーそれぞれが思い思いの場所へ。まずは、テントのそばの小高い丘に行ってみる。すると、あたり一面の砂にトイレットペーパーが埋まり風でひらひらしている。昨夜、トイレで使った場所付近だったのだが、その時は暗闇でよく見えなかったのだろう。これまでのキャンプツアー参加メンバーの多くがここで用を足した痕跡だ。荘厳な朝日を眺めるには適切な場所ではないと思い別の場所を探す。すると少し離れたところにある大砂丘の尾根に数人の人影を発見。私もそこに行くことにした。太陽が昇る速度と競争するように大砂丘の頂点を目指す。しかし、8合目まで行ったところで頂上アタックを断念。早朝に降った雨で砂がある程度固められ、多少は歩きやすくなってはいたのだが砂地を歩くのはかなり困難だった。へたって座り込むと尾根になっているため強風をもろに受け、砂が顔にあたって痛い。はぁはぁ言いながらカメラを構え日の出を待った。
太陽が昇ると砂漠一面が赤く染まって何とも言えない美しい風景となった。夜も朝も訪れる者に感動を与える砂漠の景観。まさに、一生に一度は訪れてみたい場所だろう。
上るのは大変だったが下るのは楽ちんだった。バージンスノーならぬバージンサンドを駆け下りるのは、とても気分がよかった。
テントに戻ると簡単な朝食が用意されていた。朝食を終えるとすぐ身支度をして出発地点のセンターに向けて出発。8時出発の予定が30分ほど遅れていた。
この日の宿泊場所はフェズ。フェズに到着した頃には日も沈み薄暗くなっていた。顔には細かい砂がへばりついて離れない。服のポケットにもいつの間にか入り込んだ砂がいっぱい。ホテルにチェックインしてすぐにモロッコ名物のハマムに直行。疲れた体を癒すには最適の選択だろう。この日宿泊したフェズのホテル「フェズ・イン」のハマムは新しくてとても清潔。
お世話してくれるスタッフは全員女性なので、女性客も安心して利用できる。まず、サウナ室のようになっている部屋にある、お湯で内部から温められた施術台に横たわり体を洗ってもらい、垢すりもしてもらう。肌にこびりついた細かい砂をしっかり洗い流してくれた。すっきりした後は、乾いた喉をジュースで潤す。火照った体を少し冷まして別室のマッサージルームでオイルマッサージ。最後にもう一度シャワーで洗い流し終了。
サハラ砂漠1泊キャンプツアーとハマムでスッキリ!! 是非、体験して欲しい。
今回、日本を出発し、カサブランカ空港に到着するや迎えのガイドさんから日本の東北で大地震が起きたと伝えられた。マラケシュに移動するためカサ・ボヤージュ駅のカフェで時間待ちをしていたときに見たニュース映像はまさに衝撃だった。カフェの店員さんも「あなたは日本人か?あなたの家は大丈夫か?」と優しく声をかけてくれた。その後、数日間のモロッコ滞在中もいろんな人からお見舞いの言葉をもらった。気遣いをしてくれたたくさんのモロッコ人に、「ショコラン!(ありがとう)」と言いたい。
2011年3月 森