上海へ
上海に抱いていた記憶―中国の下町、日本でいう上野。1件あるケンタッキーはまだ市民は馴染みがなく値段も高いので客もいない。人人人でごった返した町。
その記憶が上海の空港に到着した途端、吹き飛んだ。国際線の空港として2年前開港した浦東空港、恐ろしく近代的であった。「ここがあの上海?」
空港から市内に向かう車の中でも呆然としてしまった。「ここがあの上海?」
走めぐらされている高速道路、立ち並ぶビルディング、今まさに建設中の高層マンション、車窓からの景色は発展真っ盛りの上海だった。
高度成長期を迎えて、今勢いついている上海は話には聞いていたが、目のあたりにすると発展の勢いを感じる事が出来る。
町をじっくり散策
1.豫園エリア
近代的になった!と感嘆していたもののやはり昔の上海らしさも残っていた。
それが豫園エリアである。豫園商場の周りは人々が集まり、老西門のみやげ物街ではにぎやかな中国語が飛び交っている。周りには古い木造家屋が建ち並び洗濯物をはためかせている。「あ~ここには記憶にある上海があった。」
豫園は1577年に建てられた庭園であり、今では有名な観光地のひとつだ。2歳にもならない娘は池に泳ぐ大量の鯉に悲鳴をあげて喜んで見入っていた。
ここで外せないのが“南翔饅頭店”。上海のショーロンポーと言ったら真っ先に上がる名前である。私達の訪れた時期は丁度上海蟹のシーズン、蟹ショーロンポーがたっぷり味わえた。但し子供に食べさせるときは要注意、アツアツの肉汁が入っているので二つに割ってあげないと。―現地の人に言わせると「それではショーロンポーの意味がない。」
2.外灘エリア
ここ通称バンドは黄浦江沿いの遊歩道から眺める租界時代の高層建築物が何とも壮観である。対岸には有名なテレビ塔がそびえ建っている。ここの歩道は車の心配もなく子供を走らせるにはいい所だ。目を離すと観光客に埋もれてしまうので、要注意だが。
またコロニアル様式、ネオルネサンス様式の建物がライトアップされた夜景も素晴らしく、恋人同士でぶらぶら過ごすには人気のスポットである。「家族で来るのもいいが、やっぱり次回は夫婦で来たいかな。」
3.新天地エリア
「なんとロマンチックな、、。ここは六本木ヒルズか、、。」夕方食事をしようと訪れた話題のお洒落スポットがここ新天地。訪れたのが夕方だったためにお洒落で落ち着きのあるネオンが目に入った。主にレストランの集合帯ではあるが、お洒落な雑貨屋も何件か並んでいる。価格は日本並だが、雰囲気を味わうには是非とも訪れたい一角である。
私達は“夜上海”という中華料理の店に入ったが、中国とは思えぬサービス振りで、何とも気分がよかった。料理も純中華ではなく、フレンチ感覚のお洒落な中華といったところで味も納得。ワインが進んでしまった。小さな子供にもイヤな顔一つせず、場所を作ってくれて、隣のテーブルにも一言告げる気使い。「ここは中国か?」
4.南京路エリア
なんと言っても上海一の繁華街。100年以上も栄えている場所である。雰囲気は日本の新宿といったところだろうか。デパート、映画館、レストランが立ち並び観光客を含め沢山の人達でごった返している。道は歩行者天国のようになっていて道の真中にはおもちゃ屋が小さなお店を開いている。犬が歩いたり、馬が回ったり、、、。娘も大喜びで目を見開いて駆け寄り離れようとしない、、。しょうがないからマクドナルドのポテト(5元)で釣って移動させる。上海の若者もすっかりお洒落になり日本の若者と変わらない。
町も新宿ということで、私達はあまりお呼びのないエリアであり、早々に退散する。
「上海っ子もお洒落になったものだ。」
上海蟹を食べる
上海といたら“上海蟹”。10月後半から年明けまでが一番おいしいとされている。これは外せない。前回来た時は真夏だったのでもちろん食することは出来なかったのだ。
連れて来てもらったのは“王府蟹”という店で、上海人には人気の店らしい。店には水槽があり、沢山の蟹がうごめいていた。娘は既に「かにしゃん、かにしゃん」と大興奮。食べる事より見る事の方が楽しいらしい、、、。
出てきたのは蟹フルコースで、蟹蒸し、蟹炒め、蟹ご飯、、。細くて華奢な足から懸命に肉を掘り出して、しまいには甲羅の中の味噌を食す。「うーん、思っていたより味があり、美味しい。もっと淡白で味気ないのかと思っていた。」
娘も負けずにモリモリ食べている。時々「かにしゃん?」と聞きながら。「1歳にして上海蟹を食べるとは何と贅沢な。お腹がびっくりしちゃうよ。」
水郷の町 蘇州を訪れる
蘇州は上海から列車で1時間ほどのところにある、古来より“東洋のベニス”といわれた水の都である。それだけに期待は膨らみ楽しみにしていたところだ。
上海から車を走らせ、約1時間半後、丁度眠りに入ろうかという時にこの町が見えてきた。落ち着いた町並で上海の様なビルはない。聞いていたとおり町のいたるところに運河が走っている。その運河には太鼓橋がかかり、荷物を積み上げた小さな船が停まっている。
「やっぱり水の都だった。」
今回訪れたのは虎丘、寒山寺、留園。虎丘は観光地らしく、程ほどににぎわっていた。ここはかなり広い庭園になっており、蘇州の人達の憩いの場となっているようだ。
一番興味を惹かれたのが“盆栽園”。「見てみますか?」とガイドに聞かれ「別に、、」と思ったが、せっかくだから見てみることにした。園の入り口の門をくぐると眼下に盆栽園が広がった。それはそれは本当に盆栽園であった。鉢植えの盆栽がいくつも、、、。想像していた盆栽園とは全く違って面白い。「驚いた。」
寒山寺は除夜の鐘で一躍日本で有名になったらしい。(私は知らなかったが、歌謡曲で歌われたようだ。)鐘楼で鐘を突くことが出来、(別途5元必要)願いがかなうとのことでにぎわっていた。私ももちろん娘と一緒に突いてみた。「無事に旅行を楽しめますように。」
留園は蘇州四大名園の一つであり清代の庭園様式が素晴らしい。楼閣が回廊で結ばれ、その周りでは池で鯉が泳いでいる。なんとも優美である。娘は鯉に大喜びで池の渕にかじりついて見ていた。「また鯉ですか、、。」
蘇州での味の思い出は朝食で食べた麺(ラーメン)とお粥と点心。ホテルでは朝食がついていなかったので、蘇州一の繁華街“観前街”に連れて行ってもらった。中国の人達は皆朝食は外で取るのがほとんど。麺、お粥、点心を食べる。ガイドにメニューを訳してもらい予想でオーダー。何が出てくるかわくわくして待っていると、娘も待ちきれず、お皿をカンカンたたいていた。朝食は出てくるのが早い!そして出てきたものは期待を裏切っていなかった!子どんぶりに並々注いだ麺とお粥。何ともほっと出来る優しい味。朝から中国を満喫出来た気分だった。横では娘がハフハフ、、「あちゅいよ~」
1泊2日の蘇州も早々と過ぎ、上海に戻る。駆け足となったが、上海とは違った昔の中国をほんの少し感じることが出来たようだ。
まだ観光地化されていない西塔に寄る
蘇州から上海に戻るまでの途中にこの町はある。まだあまり観光客も行かないとのことで運転手もガイドもよく知らないという。道の途中で何度も通りすがりの人に聞きながら何とかたどり着いた。
車を降りたところでは「ここが?」という感じで他の町とは代わり映えしない町だと思ったが、一本長く細い道に入り込むと別世界が待っていた。
高い白い石の家の壁に沿って細い道が迷路のように入り組んでいる。多くが明の時代に建てられたもので、そのままの状態で今も尚普通の生活に使われている。なぜかほっとしてしまう趣がそこにあった。
細い道の両側には店兼住宅が並び、名物のちまきをふかして美味しそうな匂い振りまいている。ついその匂いにつれられ購入。1つ1元の安さでこの美味しさとは!娘も「あちゅいよ~」といいながらがぶっとかぶりついている。この地は豚肉と醤油が美味しいと評判でそれを使ったちまきはそれは絶品である。
もちろんここもちょっとした水郷があり、小船が停滞している風情はなんとも、、。
せっかくだからと言って昼食をこの町で取る事にした。店長自ら呼び込みをしていた、“大塘人家”という店に入ってみた。割とにぎわっていて、早速ビールを頼む。蘇州もそうであったが、こちらのビールは大変薄い。さっぱり飲めてランチ向きのようだ。
出てきた料理は潰した大豆の中に煮豚を入れ、葉で包んで蒸したちまきのようなものや、大豆肉、なすと豚肉炒め、など割とヘルシーだった。ここではなすも美味しいのが取れるようで、本当に美味しかった。「自然な美味しさがある町だ。」
ここはまだ観光地化されていない水郷の町。是非ともこのままであってほしいと願わずにはいられない。
ちょっと観光地化した朱家角
西塔から上海に向かう途中にあるのがここ朱家角。ここは西塔と違って、すっかり観光地化した明時代の家が残るちょっとした水郷の町である。大きな駐車場があり、大型バスが止まっている。入り口には大きな門(!?)があり、入場券が必要だ。「観光地だ~」と一言。
町並みはやはり白い石の壁の家が立ち並び、細い道が長く続いている。ここでの唯一面白いと思ったのは、明時代の郵便局跡。完璧な博物館になっているが、ここではプリクラのような絵葉書が作れる。写真を撮ってそれが自分で選んだハガキにプリントされる。(1枚10元)何とも斬新!もちろん娘と共に撮ってもらいハガキを作った。これはいい。
それ以外は西塔とあまり変わらず、ただ観光客が多いだけ。朱家角に方が上海から近いので観光にはいいそうだ。
2つの明時代の町並を観光出来、蘇州と合わせたら本当に水郷の町を満喫出来たようだ。
娘はどちらの町でも犬を追いかけてばかりいたが。
今回蘇州を含め駆け足の4泊5日の旅行だったが、存分に楽しんだ方であろう。ただもう2・3日あればもっと美味しい料理にありつけたのに、とも思う。フライト時間も約3時間と子供にも無理の無い時間で、ビザも不要となり、料理も美味しくて、物価も安い。何とも魅力的な町ではないか。これからも時間を作っては何度も訪れたい町である。
能祖 文子
2003年11・12月