多くの芸術家を育み、彼らに愛されてきた美しい街コートダジュールとプロヴァンス。
なんてお洒落な響きなのだろう。私には南仏はまだ早い、勝手にそう思っていた。
今回なんとそんな憧れの場所コートダジュールとプロヴァンスの美しい村々を訪れる機会を頂いた。
「ピトレスク(pittoresque)=絵になる」とは、フランス人が風景を讃える際に用いる最上級の形容詞らしい。南仏はそんなピトレスクな村々の宝庫なのだ。
フランスには「フランスで最も美しい村協会」があり、現在160程の村がその美しい村として認定されている。
① 人口が2000人以下で、都市化されていない地域であること
② 歴史的建造物、自然遺産を含む保護地区を最低2箇所以上保有していること
③ 協会が定める基準での歴史的遺産を有すること
④ 歴史的遺産の活用、開発、宣伝、イベント企画などを積極的に行う具体的事案があること
この4点を満たした村だけが、美しい村として認定されるのだ。
○コートダジュール○
日本人にとってコートダジュールとは、ニースやカンヌといった町が代表的。
コートダジュール(紺碧海岸)とビーチ沿いのお洒落な街並みが私たちにとっては一番の魅力だろう。しかし、その美しい地中海に見とれてから、ふと振り向けば背後には険しい山塊が迫っている。海と山の双方の魅力がここにはぎゅっと凝縮されている。
まずはニースの海岸沿い「プロムナード・デザングレ」を散策。
そこにはジョギングしているひと、サイクリングをしているひと、手を繋いでお散歩を楽しむ老夫婦、みんなそれぞれ思い思いの時間をゆっくりと楽しんでいた。
そして、その背後にある険しい山。その山中には中世さながらの美しい村々を残した「鷲の巣村」がある。そこには古城や協会が佇み、まるで中世から時が止まってしまったような感覚に陥る。鷲の巣村は、多くの芸術家たちがアトリエを作り名作を残した。今でも、アーティストたちが暮らし、その作品は生まれ続けている。
たくさんある鷲巣村の中でも代表格となるのが、日本でも有名なエズ村。
ニースから美しい海岸を眺めながら車で走ること約20分。中世の面影を今もまだ残した、石壁の可愛らしいエズ村が現れる。
村全体がきれいに保存されており、海抜429mにあるエズ植物園からはフランス側のリヴィエラを一望でき、晴れた日にはサントロペ(カマラ岬)やコルシカ島まで見渡すことができる。
一歩そこに足を踏み入れると、まるで自分がおとぎの国にいる小人になったよう。
迷路のようにくねくねした細い道が続き、片手に持っている地図なんて最早役立たず。次はどんな景色が現れるのか、わくわくしながら歩く。
ゆったりと流れる時間に身を任せ、道に迷いながら、石畳を赴くままに歩いてみるのがここの楽しみ方だ。
他にも、コートダジュールにはこのような鷲巣村がたくさんある。自分で周るにはかなり困難なので、専用車で効率よく周るツアーがおすすめ。
私も、現地の専用車をお願いし、コートダジュールのいつかの鷲巣村を訪れた。
まずは、ガラスで有名な「ビオット」。ガラス工房を訪れると、気泡のたくさん入ったガラスばかりがずらっと並んでいる。これは決して失敗作などではなく、ここビオットではこの気泡入りのガラスが有名なのだ。グラスなどざっくりとした持ち味がとても使いやすいと、ガイドさんはここのガラスをコレクションしているらしい。
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次に訪れたのが鷲巣村の中でも上級編の村「グルドン」。
グルドンは「フランスの最も美しい村」認定を受けている村の一つだが、ガイドブックにもほとんど載っていないため、日本人にはあまり知られていない。
コートダジュールにたくさんある鷲の巣村の中でも特に険しい山の頂き(標高760m)にあり、そこからはルー渓谷の素晴らしい景色を見渡すことができる。
ここも30分程で周れてしまう程小さい村だが、それこそが「美しい村」の醍醐味。綺麗な町並みの中にはカラフルなお菓子や可愛い帽子、またここで有名なラベンダーや蜂蜜などのお店が並んでいる。
この村にある唯一のレストランでランチ。
ガイドさんおすすめで兎のお肉に挑戦してみた。どきどきしながら食べたが、味はチキンみたいで、癖がなくて美味しい。
青空の下、絶景を眺め、新鮮な空気を吸いながら美味しい料理。この上ない贅沢だ。ずっとここにいたかったが、時間になったので次の目的地へ向かう。
最後に訪れたサンポールドヴァンスは、これまでの村よりも知名度が高く、観光客で賑わっている。雰囲気はエズ村に似ている。
ここは、かつてシャガールが愛し、村のはずれにアトリエ兼住居を構えていた。小路の両側にはギャラリーやアトリエが並び、足元を見れば石畳もアート。上を見上げればお店やレストランの看板もお洒落。歩いているだけで、シャガールが愛したこの村の魅力を感じることができる。まさに「ピトレスク」だ。
村を抜けて城壁から出た見晴らしの良い共同墓地にはシャガールのお墓がある。
村を出ると、ペタンク広場でペタンクをするおじさま達で賑わっていた。日本で言うゲートボールのような遊びで、こっちの人たちは週末になると挙ってペタンクをして遊ぶらしい。
〇ペイヨン村○
鷲巣村の中でも秘境の村「ペイヨン」。今回私はここのオーベルジュに1泊した。
ニースから車で約30分、エズ村に次いでニースから近い距離にある。九十九折の険しい山道をぐんぐん上がって行くと、ペイヨンが現れる。遠くから見たこの村はまるで空に浮かぶ蜃気楼のよう。村の名は、古いラテン語に起源を持ち、「高台、切り立った岩山」の意味からきているそう。
16時半頃オーベルジュに着くと気さくなオーナーが「Boujour!」と出迎えてくれる。フロントなどはなく、そのまま部屋へと案内してもらう。着いたのが早かったのか、お客さんは私一人のよう。ホテルはしーんと静まりかえっている。夕食まで時間があったので、それまでペイヨンの村を見て回ることに。
村は石造りでできた家が並んでいてとてもかわいい。ただ、平坦な道はなく、ひたすら階段が続く。
階段の途中途中に小さな家の入口がある。この村自体、かなりの山道を登らないといけないのに、駐車場から家までも階段を登る。ここに住む人たちは大変。
村のてっぺんには協会があり、時を知らせる鐘が村に鳴り響く。
協会前にあるベンチで一休みしていると、鐘が5回鳴った。この村に着いてまだ30分しか経っていない。
なんだか異世界に取り残されたような感覚に陥る。ニースからわずか20kmしか離れていないとは、考え難いこの静けさ。村を歩いている間、ほとんど人を見かけなかった。
そのゆっくりした時の流れに逆らうことなく、ディナーまでの時間をのんびりと過ごした。
19:30になり、楽しみにしていたディナーの時間!この村にはレストランは全部で二件しかない。そのうちの一件がここ「オーベルジュ・ドゥ・ラ・マドンヌ」で、惜しくも今年に入ってミシュランの1つ星を落としてしまった。
レストランに入ると、さっきTシャツ姿だったオーナーがキリっとしたスーツを着て、私を迎え入れてくれた。
料理は全部で2時間ほどかけてゆっくりと提供される。これぞフランス式。ここで採られた新鮮な食材が上品な味に仕立てられて出てくる。
一組、二組とお客さんが増え、今までこの村に私以外の観光客を見かけなかったのに、気づけば満席になっていた。こんな辺鄙な場所にあるのに、この人気ぶりはすごい。
外にはテラス席もあるので、夏は外で新鮮な空気を吸いながら食べるのも贅沢だろう。
〇プロヴァンス〇
ニースからTGVでエクサンプロヴァンスへ向かう。車窓から眺めるビーチにも目が離せない。白い大きな山サン・ヴィクトワールが見えてくるとエクサンプロヴァンスに到着だ。
今回私はエクサンプロヴァンスからアヴィニョンに向けて、リュベロン地方を横断した。なだらかな山地に丘と平野が続き、昔ながらののどかな田園風景が広がっている。こここそがプロヴァンスの真骨頂ともいえるのではないだろうか。
そこにも美しい村がたくさん存在する。
その中でも「フランスで最も美しい村」に認定されている3つの村、ルールマラン、ルシヨン、ゴルドを訪れた。
まず私が訪れたのはルールマラン。
村に入る手前で、かわいいロバが出迎えてくれた。十字架を背に背負ったような模様がこの地方のロバの特徴だそう。
ルールマランは高級住宅地として知られており、リュベロンの他の村にはない洗練された空気が漂っている。お店も、村の人向けというよりも、このあたりに別荘地を持つパリジャンや富裕層向けと思われるものがほとんどで、とても田舎の村とは思えないほどスノッブな空気に満ちている。アンリ・ボスコやジャン・グルニエなどここを舞台にした作品を残した作家も多い。また、アルベール・カミュは晩年に家を買って移り住み、村のはずれの墓地に埋葬されているそう。たくさんの作家たちに愛された理由は、この村に入った瞬間に肌で感じることができるだろう。
次に訪れたのが、赤土でできた家が並ぶルシヨン。
車を走らせていると、いきなり赤茶色に染まった街並みが目に飛び込み、ついあっと声を上げてしまう。今まで見てきた石造りの村とは一味も二味も違った雰囲気を醸し出している。オークルで塗られた家は、それぞれ、ひとつとして同じ赤ではない。
この赤一色の家に、南仏特有の青い窓がまた映える。この日は1日雨で写真があまり綺麗でないのが残念だが、晴れだったらその青空とのコントラストが素晴らしく綺麗だっただろう。
最後はゴルドへ。
赤い村に続き、こちらは「白い村」。今までの見てきた村の石造りとは少し違い、薄い石が器用に積まれており、ついうっとりと眺めてしまった。
標高約600mの岩肌に、石造りの家々がへばりつくように建ち並ぶゴルドの街並み。遠くから見る姿は、まさに「天空の城」そのもの。
村の中は入り組んだ細い石畳の道がどこまでも続いている。
ここは政治家や文化人の別荘も多いらしく、シャガールをはじめ、多くの芸術家を魅了してきた。
村をぐるっと一周していると、建物の間から素敵な景色が垣間見える。
そこには素晴らしい景色が広がっていた。
プロヴァンスブームを引き起こした「南仏プロヴァンスの12ヶ月」。著書ピーター・メイルは、パリの友人に「こんな田舎で、退屈しないか?」と言われた際、こう答えたそうだ。
”私たちはただの一度として退屈を覚えた事がない。退屈している暇はない。フランスの田園生活は毎日が興味ある発見と楽しみの連続である。”
今回の旅を終え、本当にその通りだと、彼に深く共感した。
また数年後に再度訪れてみたい。他の先進国は、数年経つと新しいビルができていたり、交通網が発展していたりとその変貌ぶりに驚くことがある。しかし、今回見てきた村々は昔からのその魅力を変えることなく持ち続けており、今後も変わることがないだろう。数年後、またその変わらない村々を再訪し、また違った発見をしてみたい。
ペイヨン村 ★★★★★
おいしい空気と美味しいご飯で満腹に。
グルドン ★★★★★
秘境の鷲巣村。可愛い村とそこから眺める景色は最高。
エズ村 ★★★★
コートダジュールを訪れるなら是非訪れたい。
2014年5月 池田郁依
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