社会人となり、初めての研修が憧れの憧れのアンコールワットへ行くことになった。わくわくして前の日に眠れないという体験はいつ以来だろう・・・肌寒くなりつつある10月半ば、スーツケースに夏服と日焼け止めと水着をつめて、一路カンボジアへ。
<10月15日>
成田からホーチミン乗り継ぎで8時間ほどでシェムリアップに到着。飛行機の窓から見えるトンレサップ湖へ沈む夕日がきれいだった。
予想以上にキレイな空港で、「やっと来れた・・・」と飛行機から降りた瞬間に感じた。その日は既にへとへとで、ホテルに着くと写真をとるのもそこそこにぐったり。夕食はカンボジア料理!ビール好きの私としては、もちろんアンコールビールを注文し、疲れた体に染み渡るのどごしにうっとりしていた。赤ら顔で気分もよくなったところで、ホテルへ戻り、明日からの観光に向けて体を休めることにした。
<10月16日>
朝食はビュッフェスタイル。こういうところではしっかり貧乏性が出てしまい、とりあえずちょっとずついろんなものを食べようとして、多く盛りすぎてしまい、いつも朝から苦しい思いをすることになる。ちょっと気取ってコーヒーとクロワッサンだけでなんて、しゃれこもうなんて考えていたところ、同じホテルに泊まっているらしい韓国の団体さんの方から、キムチの匂いがぷんぷんしてきたもんだから、すっかりおかゆに転向。
腹八分目で、しっかり日焼け止めをぬったところで、いよいよ出発。ガイドさんは1つ年上の現地で働く日本人のお姉さんと、アシスタントとして現地の日本語ガイドを目指す、素敵なお兄さんが私の旅程についてくれることとなった。
さて、いよいよ憧れのアンコールワット遺跡群へ!天気は良好!否が応でも気分は高まる。写真を撮る際の光の加減で、逆光にならないように、午前中はアンコールトムへ向かう。道中、持参の写真をガイドさんに渡し、アンコールワット入場券を作ってもらい、アプサラ(アンコール遺跡群を警備している人たち)に入場券を見せ、車で南大門から中に入る。旅行に来て、興奮するポイントが、「ここ写真で、(もしくはテレビで)見たことある!」スポットに自分が立つということ。南大門に来て、この度始まって以来初の興奮ポイントがやってきた。門の前で車を降り、あの独特なとうもろこしの頭みたいな門を歩いてくぐる。ついにやってきた!!!写真をいっぱい撮って、再び車に乗り、アンコールトム遺跡の本堂の入り口へ。午前中は人が多いものの、やはり彫刻がきれいに見え、ベストな時間に行くのがいいのだろう。ガイドさんに彫刻のお話を聞かせてもらいながら、奥へと進んでいく。昔話のレリーフは、当時の人たちの生活が見事に描かれている。何度「へぇ~」と言ったことだろう・・・ 青空をバックに密林の中に浮かぶアンコールトムは、美しい姿を見せてくれた。その後、象のテラスや、タ・プロームといった遺跡を巡り、昼食のレストランへと向かった。カンボジア料理は香辛料や香菜がきつめのタイ料理と、あっさり系のベトナム料理の中間だと聞いていたが、まさにそんな感じである。焼きソバ、酢豚、スープ、揚げ春巻き、カンボジア風カレーといったところが定番メニューで、1人では食べきれないほどでてくる。お腹を押さえながらホテルに向かう。シェムリアップの昼の時間帯は非常に暑くなるため、お昼の後は、一度ホテルに戻り、休憩をとる。午後の観光まで時間があるため、一眠りするも、市街地に出るも、プールで遊ぶも好き好きに過ごせる。2日目ともあって、まだまだ元気がある私は、とりあえず、トゥクトゥクをチャーターし、オールドマーケットへ向かうことにした。お土産を買うにも、ここは全て交渉制。頑張ってねばれば安くお土産をゲットすることができる。一回りして満足すると、ホテルに戻って一休み。
午後はいよいよアンコールワットへ。午後は太陽の加減できれいに見えるため、観光客でいっぱいだった。しかし車で近づく中で、だんだんとアンコールワットの姿が見えてきたときの感動は言葉にしきれない。数多くの冒険家たちが憧れてなかなかたどり着けなかったアンコールワット。密林の中に幻想的にたたずんでいる姿は、見る人をとりこにするのだろう。遺跡の中は細かな彫刻でいっぱいで、未完成の部分もあった。一番高い真ん中の中央塔は傾斜の急な階段を登らなければならず、これがけっこう怖い。この恐怖を乗り越えてみる景色は本当に素晴らしい。2時間ほどかけてすっかりアンコールワットを満喫し、夕日を見るためにプノンバケンという次の遺跡へと向かった。車で30分くらいで山の中腹に着き、そこからは徒歩で山の上の遺跡へ登る。同じように夕日を見ようとしている観光客でいっぱいだった。雲が多い日だったので、きれいな夕日は見れなかったけれど、密林の中のアンコールワットや、西バレイの湖や、郊外の山の方まで眺めることができる。アンコールワット遺跡の観光はかなり歩くので、2日目にしてへとへとでホテルへ戻ってきた。
<10月17日>
3日目は車で一時間ちょっとくらいの郊外の遺跡で、彫刻が最も細かくて美しいといわれているバンテアスレイへ向かう。小さな遺跡であるが、本当に彫刻が細かく、見る人を魅了している。発見された当時は相当な壊滅状態で、今も修復が続いているそうである。たとえどのようなストーリーを持っているのか知らなくても、彫刻を見るだけで、当時の技術の高さを肌で感じることができる。しかしながら、メインの「東洋のモナリザ」は、盗掘や遺跡の破損を防ぐため、近づいてみることができず、遠くから眺めるだけになってしまう。遠くからでもその美しさは確認できるが、数年前までは近づくことができたのだと思うと、少し残念でもある。
バンテアスレイの後は、さらに郊外のクバルスピアンという水中寺院へ向かった。バンテアスレイから、遺跡のある山のふもとの観光の拠点となるポイントまで車で30~40分ほどで到着。そこから山道を徒歩で30~40分ほど。ちょっとしたハイキング気分である。ここでシェムリアップから持参したランチボックスで、昼食を済ませ、いよいよ水中寺院へと出発。水とタオルは必需品。森の中をひたすら歩いて歩いて、水の中に掘り込まれた彫刻遺跡を見に行く。ほとんど観光客の姿は見られず、自分だけの遺跡といった感覚が味わえる。前日にスコールも降らなかったので、水の量が少なめで、澄んでいたため、本当によく水中遺跡を見ることができた。どうしてこのような山奥に、彫刻を彫って寺院としていたのか不思議でたまらないが、人々の神への信仰心がそうさせるのだと思うと、日本人には信仰心がないと言われるが、神の存在を感じざるをえない。
この日の夕食は、カンボジアの伝統舞踊アプサラダンスのショーを見ながらのビュッフェディナーである。家族連れや、恋人同士でにぎわったショー会場は、1人で見るのに多少の寂しさを感じつつも、美しい踊りに見惚れてしまった。歩き疲れてのどがからからだったので、もちろんここでもビールを注文。ほろ酔いしながらのダンスショーは大変気持ちのいいものだ。
<10月18日>
そろそろ旅の疲れが出始める頃ではあるが、この日はとにかく早起きをして、アンコールワットの日の出鑑賞へと向かった。暗いうちにホテルを出発し、日の出に間に合うように、自分がここで朝日を眺めたい!というスポットに行く。遺跡の中には入れないため、私はできるだけ近づいて、蓮の花が咲くのを眺めながらの日の出鑑賞を選んだ。この日は雲が多く、残念ながらアンコールワットの背に登る太陽の姿を拝む事はできなかったが、もし晴れてきれいな日の出をみることができれば、かなり幻想的な光景になるだろう。毎年初日の出は多くの観光客で賑わうという。
ここで一度ホテルへ戻り、朝食を食べた後、この日も郊外の遺跡観光へと出発した。日の出鑑賞から帰ってきた辺りから、急なスコールに降られ、この日の観光は先行き不安となった・・・
どしゃ降りの雨の中を郊外へひたすら車を走らせること2時間。途中の道は相当の悪路で、揺られること揺られること。車の揺れに弱い人は多少の覚悟が必要な道のりである。何とか無事クーレン山に到着した。ここは外国人観光客向けの観光地というより、現地の人が余暇に遊びにくる場所である。ここにもクバルスピアンと同じ水中彫刻の寺院がある。しかしながら今回は朝のスコールの影響で水のにごりがひどく、川底の彫刻はほとんど見ることができなかった。ここには大きな滝があり、滝の上は地元の人たちの憩いの場となっており、お正月や休みの日になると、家族連れや若者のグループで賑わうそうだ。もちろん外国人観光客はほとんどいない。この日も若者グループがいくつかと、家族連れの姿も見られた。ここでまたシェムリアップから持参したランチボックスで昼食をとり、一休みした後、次の遺跡へと向かった。山を降りて再び車に揺られること40分くらいでベンメリアという遺跡に到着した。
ここは「天空の城ラピュタ」のモデルとも言われるくらい神秘的な姿を残している。数年前までクメールルージュが占拠し、観光地化されて間もないため、修復はほとんど進んでおらず、ただの瓦礫の山にも見える。ここの観光の方法は、他の遺跡とは少し異なる。手には軍手をはめ、遺跡を瓦礫の山を自力で登る。そして遺跡を上から見る。生きた遺跡をここでは感じることができる。私はこのベンメリアに一瞬にして心を奪われた。ここも観光客はほとんどおらず、自分でじっくりと遺跡を楽しむことができる。カンボジア国内にはこのようにまだまだ修復が入っていない遺跡が無数に点在しているという。それは人々の生活の中にひっそりと息づいていたり、まったく人目に触れないところに隠れていることもある。ガイドのお姉さんが、カンボジアでおもしろいのは、アンコールワットもそうだけれど、名前のついていないような遺跡を巡るのがおもしろいと語っていた。そういった意味でも、ベンメリアは観光で行ける手軽な生きた遺跡であるといえる。
<10月19日>
カンボジア最終日、アンコールワット入場三日券を使い切っているため、本日の観光はトンレサップ湖のみである。乾季と雨季の間になるため、トンレサップ湖がちょうど一番大きくなっている時であった。シェムリアップから車で観光の拠点まで行く。そこからさっそくパワーボートに乗って、湖を軽くまわる。岸の近くでは今なお水上生活をしている人たちが住んでおり、民家はもちろん、学校や雑貨屋さん、ガソリンスタンドもあった。しばらく湖を走っていると、何やら湖の上にぷかぷか浮いてるものが見えてくる。近づいてみると、それが子供たちであることがわかった。小さな器に子供たちが入って何をしているのかと思ったら、物乞いをしているのだということをガイドさんが教えてくれた。さながら一寸法師のようで、日本人観光客が喜んだところから、このような形で物乞いをするようになったようだ。オールドマーケット周辺でも、そういった子供たちの姿は見られる。
昼食はシェムリアップ市内の中華料理屋さんに行って、やっぱり1人でランチとなる。日本人の女の子が1人で食事しているのはやはり不自然で興味を持つらしく、お店の人たちが代わる代わる話しかけてきた。「どこから来たの?」とか、「料理はおいしい?」とか、簡単な日本語か英語で質問してきて、食べるのと話すので忙しい時間となったが、これも旅の魅力というものである。
お仕事を済ませ、夕食を食べた後には空港へ向かい、ホーチミンへと出発した。
<10月20日>
旅の終盤には来ているものの、ホーチミン最初の朝ということもあって、朝から起きてホーチミンの公園を散歩することにした。天気も良く、公園には沢山の人が、バトミントンをしたり、ジョギングしたりしていた。私もその中に混じって軽く走って朝から汗を流してみた。こういう健康的な生活を旅の中でしてみるのもなかなかいいもんである。
この日の観光のメインは、メコン川のジャングルクルーズである。車で2時間ほどかけてバンサートへ向かい、そこからパワーボートでメコン川を巡る。マングローブの茂る広大な川をパワーボートで走っていると、ここでも冒険気分を味わえる。途中、巨大こうもりのいる森に入ったり、かに釣りをしたり、わに釣りをしたりしてたっぷり自然と触れ合うことができる。
この日もへとへとになってミトーのホテルへと戻った。ついに最後の夜となり、旅を振り返りながら眠りへとおちた。
<10月21日>
朝早くホテルを出発し、ミトーからホーチミンへと戻った。朝起きてから体の異変を感じつつ、ホーチミンへの車中は申し訳ないながら曝睡した。どうやら疲れが溜まっていたらしく、微熱があった。そんな中でアオザイを着ての撮影、本来ならノリノリで撮影に応じるところだが、大変おとなしかったらしく、あっさりと撮影会は終わった。午後はまたホーチミンでのお仕事に身を入れ、市内観光をこなしていたところ、体に無理がたたって、ついにホーチミンのラウンジで休ませてもらうことになった。ラウンジは市内のにぎやかな通りに位置していて、もちろん日本語の上手なスタッフがいるため、安心して利用できる。1時間ほど休ませてもらい、スタッフの方々には大変心配と迷惑をおかけしてしまった。
今回の旅は、憧れのアンコールワットにどっぷり漬かり、心底アンコールワットに魅了されるものとなった。何度行っても飽きないという先輩や友人の言葉は本当にその通りであると思う。一度目はアンコールワットとアンコールトム、あと近郊の遺跡を巡る。二度目はそれより郊外にある遺跡を巡る。それから先は各個人好き好きに巡る。行く度に違う顔を見せてくれるアンコールワットと、急速に観光地化を遂げるシェムリアップを見るために、またいつか行きたいと思う。決して一度行ったからいいやと思わせない魅力がここにはある。ベトナムの滞在時間は短かったものの、現地のスタッフと接する時間が多く、人の魅力にあふれた国であった。
私の旅の楽しみは、観光地に行くこと、その土地のものを食べること、その土地の人と触れ合うこと、この三つが主である。今回の旅ではこの三つとも多いに満喫することができた。こうして海外に出ることがやみつきになっていくのである。
2006年10月 倉田佑子