Let’s go to Picnic! ☆カンボジア☆

Let’s go to Picnic! ☆カンボジア☆

お正月、どうする?
民族衣装デパートが通常通り営業し、”お正月ならでは”のお料理や行事が陰をひそめ、特別感が失われつつある今日。それでも、年末年始をどう過ごすか、は大勢の人々の関心事ではないだろうか。どこで。誰と。なにをして。
昨秋、私も少し悩んでいた。ヒマラヤ山脈見ながら清らかな気持ちでお正月、ってなんか憧れるなぁ。あたたかな南インド・ゴアで音楽溢れるシアワセお正月もいいなぁ。アルゼンチンで氷河を見ながら静かにしていようかなぁ…。
温泉卵の黄身のような太陽を見送って出迎えられたら理想的だなぁ。太陽の背景は…遺跡だ!いつか写真で見たアンコールワットの真っ赤な空に昇る太陽を見に行こう!こうして私のカンボジア行きは決まった。


Let’s go to Picnic!
小滝年内最後の太陽はイクラのように真っ赤に熟したキレイな太陽だった。そして、念願の初日の出はすっとした黄色の力強い太陽だった。
気をよくしてのロリュオス遺跡、アンコール遺跡群、”東洋のモナリザ”バンテアスレイ、”密林の巨大寺院”ベンメリアの観光も想像以上によく、クメール遺跡にしっかりはまってしまった。
そんな中、今回の旅で一番”もう1回行きたい!”と思うのはプノンクーレンへのハイキングである。
プノンクーレン。この名前を覚えていただけたなら、2つのクメール語を覚えていただけたことになる。”プノン”は”山”、”クーレン”は果物の”ライチ” のことである。名前の通り、クーレン山一帯にはライチの木が多く見られ、時期になれば果実も見られる、とのことである。アンコール遺跡に使われている砂岩やラテライトはこの山から切り出され、運ばれたものである。
アンコール朝の最初の王は、クーレン山の山頂で王になる宗教儀式を行ったといわれている。802年、ジャヤバルマン2世が独立を宣言した場所でもある。カンボジア人にとっては神聖な場所として崇められている…そうなのだが、今、地元の人の間では、ピクニックで人気の場所となっている。
朝6:30。ドライバーはかごに果物を山ほど入れてやってきた。おやつ?お正月だから子供に配るの?とりあえず手持ちのスーパー袋に入れ、背負う。さながらサンタクロースのよう。
気を取り直して出発。シェムリアップの町中を出た我々を待っているのは、なにもない平原に広がる赤く染まった空、突如として現れる小さな集落とものめずらしげな視線…そして未舗装のカタカタ道。うっかりしゃべっていると舌を噛みそうになる。3回ほど舌を噛んだあと、突然車は停止。ドライバーは「降りて〜」と言いながらくだんの白い袋の中からバナナを一房取り出し、私に渡してきた。降りてみるとそこには子供の背丈ほどまで積み上げた広い石の塔と、ゴルフパラソルの下に鎮座する尼僧さん…傍らには巨大なボール(状のもの)。中には現地通貨がパラパラと入っている。ドライバーの指示でボールの中へバナナを入れる。すると尼僧はびっくりするくらいの大声でなにかを唱え始めた。となりのドライバーは神妙な顔をして手を合わせている。私も慌てて手を合わせる。1分ほどで終了すると、誰も言葉を交わすことなく先に進む準備を始める。なんだったのだ?と問うと、道の神様にお祈りと捧げ物をしたのだ、という。わかったようなわからないような…ただ、祈る時の彼らの自然さが、とってつけたものではなく、日常に溶け込んでいる習慣なのだ、ということだけわかった。
その後5回ほどこの儀式をくりかえすが、ついに最後まで儀式を行う道と行わない道の差がわからなかった…。そして、袋のフルーツは、ピクニックのお供になることなくすべて捧げられてしまった。
その間中、軽トラック何台かと抜きつ抜かれつつした(そういえば、一箇所も祈りポイントが重ならなかった…なぜだろう)。トラックには溢れんばかりの人々が乗っている。いつ見ても誰かがなにかを食べ、飲み、歌い、楽しそうにしているのだが、そのうち、みんなしてこちらにちょっかいを出してきた。現地語でなにかを話し掛けているのだが、申し訳ない、まるでわからない。ドライバーに訳してもらうと、オマエもクーレン山にピクニックか、と一心に叫んでいたらしい。そうだ、と頷くと、オォーッという歓声。やっぱりなーそうだよなークーレン山はいいよなーオマエもこっち乗ってくかーおやつ食べるかーお弁当もってきたかー何回目だー…最初は嫌がらずに通訳してくれていたドライバーも、だんだん質問の雪崩に不機嫌になってきた。
といきなり、トラックに向かってなにごとか叫び始めた。みんながそれに続く。そのうち、うまく言えるようになってきた。”Let’s go to picnic!”勝手に節をつけ歌っている者もいる。これならなに言いたいかわかるぞー。私もいっしょに叫んだ。わけわからないけど、楽しい!
Crazy of the year
プリアアントンそうこうしているうちにプノンクーレン国立公園入口到着。
さらにガタガタになった道を砂岩の岩塊とライチの木を見上げながら進む。勾配はさしてきつくない。1時間ほど進むと駐車場。そこからは歩き。まずは岩山の上にある寺院へ。
ここには巨大な岩を削って造られた涅槃仏”プリア・アントン”が祀られている。…これがまた大きい。全長9.5m。どこからも全身をカメラに収めることができない。
ぼーっと眺めていると、管理人らしきおじさんがあれやこれや話し掛けてくる。涅槃仏がこんなに金色なのはみんなに慕われよく手入れされているからなのだ、涅槃仏にいろんな人の書き込みがされているのはみんなに頼られているからなのだ、キミみたいな外国人もやってきてしまうほどすごいものなのだ、うんぬん。そんな説明してくれなくても充分感じられるよ、と言いかけてやめた。おじさんにとっては本当に誇りに思っている仏様なのだろうから。
ビシュヌ神露店を冷やかしながら次のポイントへ。
「リンガ・ムイポアン(1,000体のリンガ)」やビシュヌ神のレリーフをのぞき見ることが出来るところである。のぞき見る。どこを?川底を。そう、ここは靴を脱ぎ、衣類を膝丈より上にたくしあげていただき、川中を進んでいただきたい。両岸から木々が迫る狭い川の中程で水面に手をかざしていただくと、ビシュヌ神が待っていてくれる。美しい。どのアンコール遺跡の美女より美しい、と私は思っている。水が彼女をはっきりとみせてくれないし撮影を拒むものだから、条件が重なって全容が美しく見えた瞬間をもう一度むかえたいと、ついつい長居してしまった。それでも見飽きることなく、まだまだ見ていたいほど。いつの日かの再訪を勝手に心の中に誓い、後にしたのだった。
大滝日も高くなってきたので、下流の方へいくことにする。ここにもビシュヌ神とブラフマー神のレリーフが彫られている。上流のものより若干非写実的か。
レリーフからすぐのところに短い滝があり、踊場(?)のあと長い滝となる。ここは竹でできた高床式あずまや(?)もあり、この公園の中心地。滝壺で遊んだり民族衣装を借りて写真を撮りあったり、崩れ崩れた遺跡によじ登ったり、思いっきり楽しんでいる。その中にさっきのみんなも…いた!人が大層なカメラを持っているのに、容赦なく川の中から水をかけてくる。参ったなぁ、今日このまま日本への帰国便に乗るのになぁと思いながらも、やはり水掛合戦に参加してしまった…。 ここで爆発力を見せ付けていたのが、トラックの上で大きな声で歌っていたおじさんの息子(推定 6歳)。かけられた水に向かってとにかく走っていく!嬌声をあげながら滝を水と共に滑り降りていってしまう(あぶない!)。ゆらゆらゆれる吊り橋の綱を鉄棒のように使い、背中から川に落ちていく!狂ったような遊びっぷりである。
新年早々だが、私は彼に”Crazy of the year”を勝手に贈ることにした。おめでとう。
今回戦ったみなさん戦ったらオナカすいた!というわけで誰からともなく休戦となりオヒルゴハンタイムへ。
私も近くの屋台から竹ばさみに挟まれいい色に焼けた鳥の丸焼きを購入し、参加させてもらう。カンボジア家庭料理はハーブが多用されており、なかなかのお味。汁気が多いのでゴハンがとてもすすむ。魚や肉にはかならず野菜が合わされており、ほっとする味わいである。
すすめられたお弁当を一巡する間に…あれ?あたしの鳥は?あとかたもなく消え去っていたのだった。カンボジア人は誰も丸焼きが大好きだそう。私は見たくなかった首部分をいただくのみになってしまっていた。
さて、ここまでお読みいただき、クーレン山にご興味もっていただければ嬉しいが、クーレン山のお話をさせていただくことは、正直、あまりない。
アンコール遺跡群、その周辺のポイント共、どれも美しく印象的で、ぜひ見ていただきたい。しかしアンコール遺跡群だけでも膨大な数があり、なかなか見切れないのが本当のところ。ましてや周辺ポイントは道路事情もあり訪問しにくい。ベンメリア・クパルスピアン・トンレサップ湖・クーレン山…。水中にレリーフがある、という点で比べられやすいのはクパルスピアンとクーレン山だろうか。
あくまでも私個人の感覚としてだが、秘境感と神秘性を求めるのであれば、クパルスピアンに軍配。鬱蒼とした木々の中、アップ・ダウンの激しい山道をこなせば、他では見られない立体的なリンガが見られたり、巨大なヨニが見られたりする。あんな山奥にあれだけのものがあるなんて、本当に不思議だ。水量が少なくせっかくの”水中寺院”感が薄れる乾季も、逆に見れば彫刻がよく見える、と言えるだろう。しかし昨今、観光客が増えた上、盗削にあっているレリーフがかなりあり、残念なところもある。
ハンモックとなると、クーレン山、ちょっと勝ち目も出てくるのではないだろうか。なにせ、観光客に荒らされていない。通常、旅人が接せられる現地の人というと、労働している大人かひまな老人・子供くらいであるが、ここにピクニックにくれば、地元の人に遊んでもらえる確率も高そうである。むしろ、かまうなと言っても聞いてくれなさそうな人懐っこさがある。そして、間近まで見に行ける水中レリーフ、ご利益ありそうな涅槃仏。力強さと優美さを持つ2つの滝。なかなか優秀なスポット、と思うのだが?
半日で行く日こともできるが、ここはぜひ1日ゆっくり時間を取って行ってみてほしい。川のせせらぎを聞きながら昼寝し、在りし日のアンコール朝に思いをはせれば、クメール遺跡になお一層の興味が湧くこと、請け合いである。
ま だ安易に訪問することはできないが、伝説の都コーケー、タイとの国境にあるプリア・ヴィヘア、大プリアカンなどもかなり大物らしい。ラオス国境近くにも手つかずの遺跡がごろごろしているとのこと。クーレン山も実はまだまだ奥があり、テントに泊まりがけでのみいけるそうな…見たことないもの好きのみなさん、いっしょに出かけませんか?
鈴木 智香子
2003年12月

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