ちょっとユニークなトルコの旅

ちょっとユニークなトルコの旅

彩乃発熱、いきなりの旅程短縮だ
イスタンブールから東トルコへひとっ飛び。そして、陸路でひたすら西へ西へ、エーゲ海まで13日間の旅。2003年9月、我が家の子連れ辺境旅行の計画はまだまだ続いていた。
今回のトルコは、目的が東部トルコであった。おまけがトルコ側のエーゲ海のリゾート。そして、ルート上にあるからカッパドキアやコンヤ、パムッカレにエフェス遺跡とオーソドックスな観光地も再訪する予定だ。
まずは、イスタンブールに2泊して、イランとの国境付近にあるヴァン湖へ、すなわちトルコ最東端に向かう予定であった。…が、久しぶりに彩乃(6歳の娘)の発熱。なんと9ヶ月ぶりに、出発数日前から39℃前後の発熱が5日も続いて、出発を4日遅らせたのだった。13日間の旅を9日間に短縮し、東部の見所のひとつ、ヴァン湖を諦めざるを得なかった。ヴァン湖の西、トルコ南東部の中心都市ディヤルバクルへは、イスタンブールから空路約1時間半。ここを拠点に、ずっと行ってみたかったネムルート山がある。ネムルート山をはずすと、東部トルコへ行く意味がなくなるので、これだけはなんとしてでも死守することにした。よって、イスタンブールは寝るだけの1泊となってしまった。


イブラヒムの池 ウルファディヤルバクルは空港もある大きな町だ。人口100万人。そのほとんどがクルド人である。明日の早朝、ネムルート山に登る拠点となる町キャフタに向かうためのゲートウェイだ。チグリス川の辺に広がる旧市街の城塞に上り、見下ろす風景は、モスクと石橋と城壁。それほど見どころが多いわけではない。
すぐに、車で西へと向かい、一路ウルファへ2時間半。食の故郷という呼び名の高いウルファは、なるほど名物料理が盛り沢山で、ランチも多彩なメニューであった。
焼きナスのブロシェット「パトリジャンリ・ケバブ」はナスと羊のミンチを交互に挟んだ一品。ヨーグルト味の酸味あるクリームスープにご飯の入ったものに、唐辛子の名産地でもあるらしく、ザクロとトマト、唐辛子のスープ風サラダも爽やかな辛さ。デザートはこれまたウルファ名物クレープのピスタチオソースがけ。ユニークな料理だが、どれもがトルコらしいとも言える。仕上げに、忘れてはならないのが、濃くて渋いトルココーヒーだ。これでやっと食事が終る。
キャフタのゼウスホテル。田舎の3つ星だからどんなホテルかと思っていたが、新しくてサービスもいい居心地のいいホテルだった。我々3人家族のために、ベッドが3つの部屋にしてくれていたのも嬉しかった。部屋の冷蔵庫にもいろいろ飲み物が入っていて気が利いていると思ったら、電気が入ってなくて冷えてないのはさすが3つ星であったが。
ディナーは欧米人観光客向けに、ちゃんとスープから始まるコースメニューが用意されていた。スープは豆のクリームスープ、メインはビーフ入りラタトゥイユ風シチュー。トルコ名産の「エフェスビール」も冷えていておいしい。
今回のスルーガイド、セダットさんは「ラク」というお酒を飲んでいた。ギリシャのウゾみたいで、焼酎みたいに透明なのに、水を混ぜて白く濁らせて飲む。ブドウからできるというが、かなり強いお酒だ。
セダットさんは30歳代の独身男性。日本語がほぼ完璧といえるほどうまく、日本のこともよく知っている。ガイドが天職と自ら言い切る彼は、子煩悩で、「アヤノー!!」と旅の間中、娘をとても可愛がってくれた。ガイドさんは子供好きの人に限る。
目指すは朝日に輝く山頂の神々
午前2時半起床。ほとんど熟睡していた彩乃をたたき起こし、自分も眠い目をこすりながら、ありったけの洋服をすべて着込んで、いざ出発。寒がりの私たちが早朝登山なのだ。用心深いパパは6枚も着ていると、彩乃が笑った。
キャフタからネムルート山までは車で1時間半。麓のカフェに4時半、に着くと、一番乗りだった。訊くと日の出は5時半だとか。ホテルの人が間違えて4時半と言ったのだ。 上、中、下:ネルムート山の日の出チャイを飲みながら待っていると、ツアーの団体さんがたくさんやって来た。日本人団体も来た。
先を越されてはならないと、一足先に出発する。岩や砂利がいっぱいの坂道で、しかも真っ暗。持ってきたミニ懐中電灯が頼りだ。彩乃はセダットさんに手をつないでもらって、鼻歌など歌いつつ元気よく登っていく。私とパパはフーフー言いながら何とかハードな30分の行程を登りきった。 標高2150メートルの山頂には、ピラミッド状の砂山が暗闇に聳えている。これは墓である。その前に神像の首らしきものが3つほどボンヤリと見えた。紀元前1世紀頃、この地を支配していたコンマゲネ王国のアンティオコス1世の墳墓である。
石段に座って日の出を待つ。石も冷え切っていてお尻が冷えて来た。風も冷たい。厚着してきて正解だ。夜空が白んできて、満点の星もいつの間にか1つ2つに減ってきた。限りなく広がる大地と空の眺めを目の前にして、彩乃は、「地球が丸いのがわかるよねえ」などと、いっぱしに哲学的なことを口にする。
そうこうしているうちに、いろいろな国の団体客がやってきて、辺りは賑やかなムードになってきた。日の出のショーを見るための石段の観客席は満席である。そして、地平線に赤味が差したと思うや、山の裾野から真っ赤な太陽が姿を見せた。日の光は一直線に神々の首を照らし出した。6~7世紀に地震で首が落ちてしまい、落ちた首だけが並んでいる。もともとテラスにずらりと並んでいたであろう神像の姿を思い浮かべる。雲ひとつない青空に赤茶色のピラミッドのような砂山が美しい背景をなしていた。
陸路の旅のお楽しみ
トルコは広い。陸路でぐるりと周遊すると、とりわけその雄大さが身に沁みる。ネムルート山で待望の神像を堪能したあとは、500キロのドライブが待っていた。カッパドキアまで約9時間。早起きした1日は本当に長い。道中、カフェやレストランで休憩を取りながら向かう。トルコでは毎日たくさんチャイを飲む。いつもお決まりの、細くて小ぶりなガラスの器(取っ手はない)に渋めの紅茶。角砂糖が添えられているが、ミルクやレモンは入れない。見ているとトルコ人は本当によくチャイを飲む。こちらもつられて、つい休憩ごとにチャイを飲む。小ぶりだから何度も飲めるのだ。日本では絶対コーヒー党のパパでさえ、チャイを頼んでいる。1杯50万リラ位(約50円)。トルコでも黒海沿岸部で紅茶が取れるらしい。セダットさんに奢って上げたり、今度は彼が奢ってくれたりの繰り返しだ。細かいことは言わないのがお決まり。小腹が空くと、甘いお菓子なんかも買ってくれる気の利くガイドさんだ。
とりわけ見所のない道中は、ランチタイムが楽しみとなるものだ。今日のランチは、内陸部にしては珍しい魚料理の「PINARBASI」という店であった。カジュアルムードなのにサービスも愛想も抜群。生けすのあるレストランで、生きのいいマスがたくさん泳いでいて、彩乃は魚すくいをさせてもらい上機嫌だ。新鮮なマスのグリルにレモンをギュッと絞って、シンプルなのが最高。彩乃でさえ、猫のようにきれいに平らげた。
カッパドキアの洞窟ホテル滞在ユナック・エヴレリ
そうこうしながら、目指すカッパドキアの洞窟ホテル「ユナック・エヴレリ」に到着した。洞窟ホテルは、奇岩の名所カッパドキアならではのユニークなホテルだ。とりわけこの「ユナック・エヴレリ」は、聳え立つ岩山の下の方をくり抜いて作られた、最高の洞窟ホテルである。ギョレメの谷から10分あまり、ホテルの多いユルギュップ地区にあって、ロケーションもセンスのよさもサービスもどれをとっても満足がいく。27室中4室あるスイートのひとつに泊まった。本物の洞窟らしい天井や壁の、ムード満点なインテリア。広々とした室内もさることながら、バスルームにはあっと驚かされた。モダンで明るく、最新の設備。シャワーブースは独立している上、特大のバスタブには、自動制御装置付きスイスシャワー(上下四方八方からシャワーが全身をマッサージしてくれる)まで付いている。ただ、操作が難しすぎて、服をカッパドキア着たまま全身、スイスシャワーを浴びてしまったパパであった。
表のテラスにはパラソルとテーブル、椅子が置かれ、デッキチェアーもある。天気のいい日は、青空に映えるホテルの岩の外観を見上げながらのんびりするのが最高の気分である。波打つような渓谷が夕陽に赤く染まることから名付けられた赤い谷(ローズバレー)、らくだ岩、ギョレメの奇岩の谷の展望。きのこ岩の間を歩いて入り込んでいくと、しめじのような形の大きな3本のきのこ岩のあるパシャパー地区。ハトの谷ウチヒサール、地下教会などなど・・・あらためて岩の織り成す芸術の素晴らしさを堪能し、やはりカッパドキアはトルコでははずせない観光スポットだと再認識したわけである。
カッパドキア

パムッカレで温泉気分コンヤ メヴラーナ博物館
次に目指したのがパムッカレ。またもや長い道中。カッパドキアから約2時間半のところに、まずはコンヤがある。コンヤで見てみたいのが、かのクルクル舞踊団メヴラーナ教団であった。メヴラーナ教とはイスラム神秘主義の一派で、男たちが長い帽子をかぶりクルクルと旋回舞踊をする。現在は禁止されている教団だが、コンヤに博物館が残っている。ターコイズブルーのユニークな尖塔が目印だ。靴を脱いで中に入ると、教祖メヴラーナの棺があったり、旋回舞踊の様子の写真が飾られていたり、結構面白い。何といっても、トルコの神秘性を垣間見た気分だった。
のび~るアイス(ドンドルマ本店)あと6時間のドライブで、パムッカレまで。しかしよく走る走る。道中で、名物のヨーグルトを食べた。ディナールという町だ。平たい皿に固めのドロッとしたヨーグルトに甘い蜂蜜をかけて、なぜかフォークで食べる。この濃厚な味わい。病みつきになる美味しさなのだ。今流行りのカスピ海ヨーグルトも真っ青である。
「綿の城」の異名を持つ、パムッカレの石灰棚は、9年前くらいまですべての棚に緑色の湯が張っていて、景観は今よりもっときれいだったという。4年前からは世界遺産に指定されたため、泳ぐことも禁止されてしまった。それでも、足をつけるのはOKなので、靴を脱いで決められた順路に沿って歩き、温泉を体験することはできる。細い小川のようにお湯が流れているので、足をつけると藻が生えてぬるぬるして滑りそうになる。でもお湯はあたたかくて、冷たい足に心地よい。石灰が溶けてできた腸のような柄のついた地面を歩いていく。子猫がどこからとも遊びにきて、温泉の湯を飲んでいる。彩乃は喜んで子猫について散歩する。一通りあちこち歩き回り、戻ってくると、けっこうな充足感であった。足を拭いて靴を履くと、なんだか足がホカホカ温かい。これも温泉の効能か。
パムッカレパムッカレで泊まったホテル「コロッサエ・ホテル・テルマル」には温水プールがあった。その名の通りSPAの設備がある5つ星ホテルで、もちろん温泉のお湯を引いていて、泳ぐだけで効果があるプールだ。水着に着替えて、バスローブを着て室内プールへ出かける。ムードのある大きなプールで、しかも水温がプールと思えぬくらい熱め。なかなかに本格的な温泉プールであった。長旅の疲れを癒すのにもってこいなのであった。
エーゲ海、でもここはトルコボドラム
ボドラムのホテル「アダホテル・トゥルクブク」は、限りなく辺鄙なロケーションにあった。旅の最後を飾るのにふさわしいトルコサイドのエーゲ海のリゾート地ボドラム。いつもホテル選びにはかなりこだわるのだが、3泊するリゾートホテルとあって、我々はホテル選びにこだわりすぎたようだ。フランスを中心に古城ホテルなどのチェーンとして知られる「ルレ・エ・シャトー」のメンバーに加盟しているホテルで、12室という小ささが好みだった。
行ってみると、ガイドのセダットさんもドライバーさんも初めてで、どこにあるのかを探し出すのが一苦労だったのだ。エーゲ海のはずれ、海に面した丘陵にひろがる田園風景。ボドラムのハーバーからはゆうに20キロ以上離れた、これでもかというほどとんでもない辺境の地。ボドラムと呼ぶにはあまりにも郊外にそのホテルは位置していた。
外観はお城のようで、ハマムがある建物はアダホテル白いドーム屋根もあって、蔦が絡まり情緒もある。庭には赤や白の花も咲く楽園ムード。それぞれに異なるインテリアの部屋で、2階建てのメゾネットスイートだったのはいいけれど、シャトーを思わせる薄暗い室内はリゾート感覚とは対極であった。そのかわり2階から続く、海の見える明るいテラスに出ると、広々としたスペースに大きなテーブルやパラソル、寝椅子も置かれ、ここが私たちのお気に入りの空間となった。朝、ルームサービスの朝食を頼むと、テラスのテーブルに用意される。牛の鳴き声が牧歌的で、近くのモスクから流れてくるアザーンの大音響はやはり、ここがトルコだと思い出させてくれるのだ。
こういうホテルでは、レストランの味が滞在の成否を決めるが、残念ながらお味の方はダメだった。こればっかりは試してみないとわからない。よって、われわれはボドラムの町目指して、食事に通うこととなった。タクシーで片道30分、4000万リラ(約400円)は結構大変だ。でも辺鄙なホテルを選んでしまった宿命。
朝食が終ると、さっそくボドラムの町へでかける。どこが中心かわからないので、お城のある所=港=一番賑やかそう…ということで、タクシーを降りてぶらぶら散策をした。ハーバー沿いにイタリアンやシーフード、カフェなど、美味しそうな店が軒を連ねている。ヨットやクルーザーもずらりと並び、なかなかのムードである。
ボドラムボートのおじさんから声が掛かった。「プライベート、ボートチャーター?1時間2時間70US$ OK?!」むむ…けっこう安い。3時間80US$に負けてくれたので、乗ってみることにした。きれいなビーチへいろいろ行ってくれるし、釣りもOKという言葉に惹かれた。飲み物もあるし、トイレもついているという。どうやらおじさんはこのボートで暮らしているみたいだ。
天気も最高。そよ風も心地よく、背後にボドラム城の雄姿と、赤くて大きなトルコの国旗がたなびいているのが見える。沖合いに出ると、海は深い蒼。これもエーゲ海だ。白い家並みが見渡せる。お客さんを楽しませるのが得意なキャプテンのおじさんにプチ・キャプテンと呼ばれ、舵を握らせてもらって大はしゃぎの彩乃。「アクアリウム(水族館)」と呼ばれる透明度の高いエリアでボートを停め、スノーケリングをすることになった。彩乃はさっき街角で買ったばかりのイルカの絵の描いた浮き輪を持って入る。私が一番に入ってみると、水がとても冷たい。えいやっと彩乃も入るがブルブル震えながら少しだけ泳いですぐ上がる。また熱でも出されたら大変だ、というパパのお達しだ。冷えた体に美味しいアップルティーをホッカホカで出してくれ、ひと休みしたあと、今度は釣りの時間。ただの釣り糸にイカの切り身をつけて投げるだけのシンプルな釣りだ。やってみると入れ食い状態。彩乃でさえ3匹の小魚を釣り上げて、キャプテンに「ブラボー!」と誉められ上機嫌だ。
何度も何度もトライして、すっかり病み付きになったようで、海を見ると「釣りは楽しい」「また釣りしたい」が口癖となった彩乃であった。
井原 三津子
2003年9月(9月23日~10月1日)

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