「ベトナム行った?」これはいまや挨拶代わりにさえなっている。と言うには少々オーバーかもしれないが、しかしながら今のベトナムブームはとどまるところを知らない。
飽きやすい日本人の「今」がベトナムなのか、それとももっと奥深い所に日本人をひきつける何かをベトナムは持っているのか。あまりに大きいテーマを掲げすぎたかもしれない旅は始まった。
■ ホーチミンかハノイか
よく聞かれる質問の1つに「ホーチミンとハノイとどちらがいいですか」がある。
ベトナムの首都ハノイ、経済の中心ホーチミン、とは言うまでもないが、実際それぞれから違いが感じられる。洗練さのハノイ、ダイナミックなホーチミン。地理的にハノイはホアンキエム湖が中心にあり、憩いの場として、またホテルやお店もここを中心にして建っている。歩くにもそれほど広いわけでもなく、分かりやすく、まとまっている。人の性格も南より几帳面でしっかりしていると言う。それは四季がある風土や中国の儒教に影響を受けやすかったからかもしれない。漢字で越南というのだから隣の中国からの影響は大きいに違いない。一方ホーチミンは常夏で陽も強く、メコン川の恩恵を目一杯受け、おおらかに育っているように見える。700万を越える人々が生活力にあふれて暮らしている。ドイモイ政策が停滞気味などとはどう見ても思えない。まだまだ貧しくても人々の顔は明るく元気一杯だ。ハノイでも同じだがよりホーチミンにそれを感じる。
ショピングではやはり量、種類、安さではホーチミンだがハノイがそんなにひけをとる訳ではない。もしハノイでいい物を見つけたら買っておいたほうが後悔しないだろう。
「食」ではハノイに軍配が上がると思う。旧家を改造し中国風ではあるものの、繊細さを加えより洗練された雰囲気をかもし出しているレストランが多い。味そのものはいうまでも無く日本人好みだが、店の雰囲気にはとりこになってしまう人がますます増えるに違いない。極上のレストランに行くことが目的の1つに間違いなくなっていると思う。
オートバイはいまや一家に1台あるといわれるほど多い。自転車でなくオートバイが道路一杯に走っている。ブーブークラクションを鳴らしうるさいかぎりである。ハノイの人に言わせると南の人はもっと乱暴だというが実際の所それは違っていると思えた。自己主張が北の方が強そうである。余談ですがオートバイが急激に増えたのはここ2~3年のことで、中国製の約5万円のものがそれまで12万円以上もした日本車にとって代わったからだ。ただし1~2万円の月給の中で 2年くらい貯金をし、ようやく手にいれたものであることは付け加えておく。ところで道路を一人で横断するのは絶対止めたほうがいい。信号が少ないので地元の人は平気で渡っているが、バイクの洪水の中をわたるのは命がけだ。
ハノイとホーチミン、同じベトナムでもその特徴が違う。どちらがいいというより、異質な街なのだからぜひとも両方行くことをおすすめする。商売抜きで!
■ クルーズ比較
今回 3つのクルーズに参加した。ホーチミンでは人気ナンバーワンの「メコン川デルタクルーズ」と「サイゴン川ディナークルーズ」。ホイアンでは「トゥボン川クルーズ」。メコン川クルーズは一日かけて雄大なメコン川とミトーの果樹園、メコン支流のジャングルクルーズと面白さ抜群。サイゴン川ディナークルーズでは、最近背の高いビルが建設されていて夜景が実にきれいだった。香港の水上レストランでは裏切られているので食事はあまり期待していなかったがおいしかった。デッキには国際色豊かに何カ国もの人が集っていた。掘り出し物は「トゥボン川クルーズ」。世界遺産のホイアンに流れるトゥボン川は豊かな水をたたえながらも波静かであり、周りの風景も実に穏やかである。ゆったりとクルーズに身を任せていると日ごろの喧騒から全てを忘れさせてくれる。途中焼き物の村「タインハー村」に寄ったり、漁師が網を打つところを見たり、心が洗われる気分になる。
■ ホイアン
日本人街のあったホイアンは1999年に世界遺産に登録された。旧市街に入るとまるでタイムスリップしたように古い町並みがそのまま残っている。トゥボン川が南シナ海に流れ出る三角州に出来たこの街に住む人は、ベトナムで一番やさしいと言われている。この自然と環境の中で暮らしていればそうなるだろうと納得してしまう。旧市街だけでなくホイアンの町全体を見てもらいたい。新しい3つのリゾートホテルが建って、いまやホイアンはベトナムの中で注目度ナンバーワン。トゥボン川に沿って建つホイアン・リバーサイド・リゾート、ビーチとトゥボン川の間に建つホイアン・ビーチリゾート、ビーチのまん前にオープンしたヴィクトリア・ホイアン・リゾートの3つは甲乙つけがたい。ダナンにあるフラマーリゾート(ホイアンまで送迎バス運行)を含めるとデラックスホテルが一気に集合してしまったといえる。ハノイの人気レストラン「ブラザーズカフェ」の姉妹店もオープンした。リゾートと世界遺産の町の組み合わせは人気を集めすでにホテルは満杯状態。ますます人気が出ること間違いなし。最後にお得な情報としてこの町はベトナム一の仕立ての安いところ。スーツ、コートまでデザインを注文すればびっくりするほど安くお気に入りの品が出来上がる。一度お試しを!
■ リゾートの王様「アナ・マンダラ・リゾート」
新しいリゾートホテルが建ってきてはいるものの、やはり王様はニャチャンにある「アナ・マンダラ・リゾート」だ。ニャチャンの名前を一躍広めたのはこのホテルによるところが大きい。施設、雰囲気は勿論一流だが、なによりもその温かいおもてなしが王様たる所以だ。スタッフの温かい笑顔、心憎い気配りの数々。お客様を喜ばそうと熱い気持ちが伝わってくる。新情報として近くの島に姉妹ホテルを建設中とのこと。楽しみがまた増えた。
■ DNAは同じ?
なぜかベトナムにひかれるのは、元々のDNAが同じではないかと思ってしまう。同じ極東アジアでも韓国や中国とは日本人は微妙に違う。外人から見て同じに見えても本人同士は違うことが分かってしまう。しかしベトナムではその違いを感じない。古代長江の麓にいた稲作民族が海の方へ降りてきてベトナムに居を構えた。あるものはもっと進んで中国の寧波から船で海流にのって稲作の技術を持って日本の九州にたどり着く。焼き物でも小物でも日本人にぴったりくるのは、元々の感性が同じだからではないだろうか。源は同じ民族の血を共有しているからではないだろうか。勿論日本人は南方から、中国から、韓国からの雑種だろうけれども、物つくりの感性はベトナムと共有する部分が多いのではないだろうか。だからあまり理屈をつけて考える必要がないほど、われわれ日本人は自然にベトナムにひかれるのではないだろうか。フランスの植民地になってもその中からいい物は残していく。中国の影響を受けながら、吸収しつつも独特のものを作り上げていく。まさに日本人がこれまでしてきたことと同じではないか。学問的にどうこうではなく、見て、食べて、触れて、感じた中からそう思う。ますますこれからもベトナムから目を離せなくなってしまった。
本山 泰久
2002年12月