昨年の冬からこの春にかけて弊社ファイブスタークラブでは、就活生と社員の座談会が何度か開かれた。私・中村も3回ほど参加させてもらった。買ったばかりと思われるリクルートスーツに身を包み、将来への期待と不安で瞳をキラキラさせた就活生たち。彼・彼女たちは、座談会の中できまってこう驚く。
「えっ、海外出張って1人で行くんですか!?」と。
ファイブスターにいると、1人旅は当たり前、という感覚に陥りがちだが、一般的には1人旅ってなかなかハードルが高いのかもしれない。
全国の就活生たちがこの旅行記を読んでくれているのか果たして謎だけれど、今回の旅行記は、まだ顔も見ぬ未来の同僚・・・そう、君たち就活生に捧げたい。
1人旅って楽しいよ、しかも出張で旅に行けるって最高よ、という念を込めて込めて込めまくって書いてみた。伝わることを祈る。
今回の出張の舞台はアメリカ、NY(ニューヨーク)。
今回の私のテーマをお伝えしたい。NYの夜遊びに女子1人でチャレンジ!だ。夜遊びプランは、みんなの憧れ「ブロードウェイミュージカル」鑑賞と、音楽好きの聖地・有名ジャズクラブ「ブルーノート」潜入、こちらの二本立てである。
大都会NYの中心地タイムズスクエアが徒歩圏内!マンハッタンの中でもアクセス抜群「ペンシルバニアホテル」から私の夜遊びは幕を開ける。
NYは、簡単に言うと、マンハッタンとブルックリンの2つのエリアに分かれる。ブロードウェイミュージカル・自由の女神・タイムズスクエア・・・主な観光地はマンハッタンに集中している。
マンハッタンは、超が付くほど方向音痴の私でも迷子にならずに街歩きができる、そんな素敵な街だ。というのも、この街は日本の京都のように碁盤目状に道が通っていて、南北に走る道はアベニュー、東西に走る道はストリート、それぞれに番号が付いている。非常に明快だ。行きたい場所があれば、タクシーの運転手に「5アベニュー、54ストリート、クロス!」と大げさなジェスチャー交じりに伝えたらよい。英語の技術はほぼ不要、大体これで伝わる。伝わらなければ地図をみせよう。(まぁ地図を持っているなら最初から地図をみせよう)
街のつくりの説明はこのあたりにして、まずはお目当ての劇のチケットを買うところから始まる。
私が滞在した「ペンシルバニアホテル」は一階にチケットカウンターを構える。
カウンターのお姉さんに「ブロードウェイチケット、プリーズ」と伝えると、日付、人数、観たい劇の名前、座席はどのあたりが良いか等を聞かれる。
劇場によって多少異なるが、座席は主に「オーケストラ席」と「メザニン席」の2種類に分かれる。ステージにより近い方がオーケストラ席だ。当然だがオーケストラ席の方が4~5000円ほど高い。多少高くともオーケストラ席をおすすめしたい。オーケストラ席であれば役者たちの表情はもちろん、汗まで見届けることができるからだ。
ライオンキングを観たかったのだが、残念ながらSOLD OUTであった。「しーんぱい、無いさ~♪」の英語版を聞きたかったが、仕方あるまい。お姉さんと交渉・相談をし、運よく私はアラジンの当日券、なんと残りの1席をを手に入れることができた。(オーケストラ席、199USドル)
当日にも関わらず、なんとかぎりぎりアラジンのチケットが手に入った。「ラッキー♪」と思わずにっこり。
人気の劇は、このように当日購入が難しい。渡航前にブロードウェイの公式サイトから予約しておくことがおすすめだ。その場合は、クレジットカードで決済をおこない、発行されたオンライン予約番号を控えておく。上演当日の数時間前に劇場のチケット売り場に出向き、予約番号を伝えるとチケットと交換してもらえる流れだ。
開演19:00、終わりは21:30。開演前に何かお腹に入れておこう。私は劇場の向かい側にあるハンバーガー屋でチーズバーガーを食した。
ミディアムレアな焼き加減の肉汁溢れるハンバーガーと、アメリカに来たなぁという実感を噛みしめる。じゅわ~。
これまで「ハンバーガーなんて所詮ファーストフード、軽食でしょ」となめてかかっていたが、いやいやこれは全米中のハンバーガーたちに謝罪したい。立派な肉料理なのであった。
満腹になったところで、劇場へ向かう。
開演前は撮影OK。クラシカルな内装が気分を盛り上げる。
劇場は、老若男女・国籍問わず、たくさんの人であふれている。
ここで気になるのがドレスコード。「ブロードウェイって、ジャケット必須?ジーンズNG?スニーカーとかもってのほか?」・・・ノンノン、大丈夫。ブロードウェイは寛大だ。私は非常識にもマウンテンパーカー+ジーンズ+スニーカーという最高にカジュアルな姿でブロードウェイの敷居をまたいでしまったが、特に怒られも拒まれもしなかった。
しかしながら、あまりに小汚い格好はおすすめしない。どカジュアルで臨んだ私が言うのもなんだけれど、全身全霊で私たちを楽しませようと演じてくれる役者さんたちに敬意を払うという意味でもちょっぴり綺麗めな格好が望ましい。
劇が始まると、大迫力のコーラスとダンスに圧倒された。劇の内容については皆さん御自分の目と耳で確かめて頂きたいので割愛する。
劇の最後には観客も思わず立ち上がって拍手と歓声の嵐・・・スタンディングオベーションで幕を閉じた。ステージと観衆の一体感、それもまたブロードウェイの醍醐味である。
劇場をあとにする頃、時計の針は21:30をさしていた。各劇場から劇を見終えた人々が一斉に流れ出てきて、辺り一帯、人・人・人・・・。
NYの街は夜九時半では全然眠らないらしい。私だってまだまだこれから!いざジャズクラブ潜入だ!と意気込む。しかしタクシーを捕まえたくてもなかなか空車が見当たらない。タクシーを捕まえるのに2,30分かかった気がする。
ところでタクシーについて少しお話したい。というのも、女子1人旅は何かと危険や不安が伴うので、自分の身を守る術や知識は旅行前に下調べすることが重要だ。
黄色い車両で「T」のロゴが入っている「イエローキャブ」社が一番メジャーなタクシー会社だ。ニューヨーク市からも公認を受けている。NYでは時々、個人タクシーが高額な料金をふっかけてくることがあるらしいので、乗るなら是非とも安心安全のイエローキャブで。(しかしイエローキャブであっても、料金メーターが壊れているなどと言って高額請求に挑んでくる運転手がいるらしい。乗り込んだら、まずメーターが動いていることを必ず確認しよう)
アラジンの劇場から、タクシーで10分程度、ブルーノートに辿り着いた。
説明しよう。音楽好きなら御存知かもしれないが、「ブルーノート(BLUE NOTE)」とは名門ジャズクラブだ。開業は1981年なのでそこまで老舗ではないが、夜な夜な一流アーティストたちがステージに上がる。収容人数は50人くらいだろうか、狭いからこそアーティストを至近距離に感じられる。会場を広く改装すればもっとお客を動員できて儲けも上がる気がするが、この狭さを貫く姿勢には「自慢の生演奏、すぐそばで聴いてほしい!」という経営者の音楽への情熱が感じられる。
そんな訳で、まあ本当に席数が少ないのだから、多少面倒でも事前に公式HPから希望の日時を予約しておこう。
・・・と偉そうなことを言いつつ、私は予約をしていなかった。なんなら、20:00からの回と22:30からの回があるということも知らなかった。この日出演するアーティストが誰なのかも知らなかった。ただただ、NYでジャズ聴いてみた~い!というミーハーな気持ちだけで、ここブルーノートの入り口まで来てしまったのだ。
入り口にはスーツとハットで、格好よくキメていたお兄さんが立っていた。話しかけると、どうやらそのお兄さんは今日出演するアーティストの弟子で、修行中の身なんだそうだ。「僕と一緒に入場すると、入場料は無料だよ」と甘い言葉を囁かれたので、少し迷ったが、無料という誘惑に負けて、のこのこ彼についていくことにした。
彼は本当にアーティストの弟子だったらしく、顔パスで入店していた。よくわからないまま、彼と私はすんなりステージのすぐ隣のテーブル席に案内された。
そうして、すぐに演奏が始まった。ピアニスト、ギタリスト、そしてずいぶん背の高いウッドベーシスト、計3人がステージに上がる。この背の高いウッドベーシストが超大物ミュージシャンであることを、わたしは帰国後にGoogleで調べて知ることになる。
彼の名はロン・カーター。モダンジャズの帝王と呼ばれたトランペット奏者・マイルス・ディヴィスから絶大な信頼を受け、ディヴィスとともに舞台に立ち、さらには日本でも「徹子の部屋」、「第一生命」のCM、「サントリーウイスキー」のCMに出演するなど、ジャズベーシストとして輝かしい経歴を持つ。
日本人が思い描く「ジャズ」のイメージにぴったりだ。ちょっとくたびれた感じというか、頑張ってます感が皆無というか、でも上品で紳士的で知的で・・・。どんな形容詞をもってしても彼のことは表現できない。「ジャズ」な人。それが一番しっくりくる。彼の存在そのものがジャズなのだ。
あいにく演奏中のロン・カーター氏は撮り忘れた。よくわからないステージの写真しか撮れていなかった。
せっかくなので、ここで簡単にジャズの歴史をおさらいしたい。ジャズの歴史を語ることは、アメリカンの歴史を語ることにほぼ等しい。
遡ること19世紀末、アメリカの地で過酷な労働を強いられたアフリカ系移民はその怒りや不満を音楽で表現するようになった。これがブルースの始まりである。その後、20世紀初頭に米西戦争や第一次世界大戦が終わりを迎えると、軍楽隊の古楽器が大量に街に出回り、労働者の手に渡った。こうして、歌が主役のブルースから、楽器を主とするジャズが派生したのである。さらに1920年にアメリカ全土で禁酒法が発令されると、禁じられるほどに欲しくなっちゃうのが人間の性(?)なのか、密造酒をこっそり販売する隠れ酒場には労働者が押し寄せた。
そんなこんなで、ジャズという音楽が普及し、更にはジャズとお酒のナイスな組み合わせも定着。お酒とジャズを楽しめるジャズクラブが誕生した、ってな訳である。
日本の労働者代表として私もカクテルを注文し、ほろよい気分で生演奏を楽しんだ。しかしまぁ、酔いが回っていたのだろうか、なんなんだろうか。ロン・カーター氏がベースの弦をはじくたび、きゅーーーんと私の心臓は打ち抜かれる。これは恋?それとも、ジャズの魔法なの?すっかりジャズの虜である。
お酒とジャズの相性は最高。
演奏が終わると、弟子が「楽屋へ行こう。僕のマエストロに会わせてあげるよ」と言った。(自分の師匠をマエストロと呼ぶなんて。最高にお洒落な敬称!)こうして私は、通常であれば一般人がなかなか立ち入ることのできないブルーノートの楽屋へお邪魔することができたのだった。
マエストロことロン・カーター氏とツーショットまで撮らせてもらった。現在81歳の彼から漂う、この色気。読者の皆様に伝わるだろうか?
こうして私は、夜のNY、大迫力のブロードウェイ、本場のジャズ、そしてロン・カーター氏にメロメロになって、興奮のあまり一睡もしないまま朝を迎えた。そして空港へ向かい、帰国便に乗ったのであった。
今もこの旅行記を書きながら、あの夜のことを思い出すと胸がドキドキする。
一般的に、1人旅は「不安だ」「危ない?」「さみしい」と思われがちだ。
確かに友達や家族と一緒に行く旅行と比べると、そういったマイナス要素は否定できない。
けれども、気づいたらそんなこと忘れてしまうほど、「気楽」「わくわく」「1人で旅をやり遂げたという達成感」「その国の人と仲良くなれる」・・・1人旅は無限の魅力に溢れていると私は思う。
1人だと、皆さん優しく声をかけてくれる。
いつかファイブスタークラブの一員になるかもしれない、就活生のそこの君。
この旅行記を読んで「1人旅って意外と楽しそう!」「こんなに楽しい出張ができる会社って最高じゃん!」と思ってくれたら、私もこの旅行記を頑張って書いた甲斐がある。
~完~
おすすめ度:
<ブロードウェイ ★★★★☆>:人生一度は行きたい。 英語がわかるほうが楽しめる。しかし、英語がわからなくても楽しめる。
<ブルーノート おすすめMAX!★★★★★>:絶対に行ってほしい。全くジャズに興味の無かった私も、今やロン・カーターのCDを買うほどに。
<ブロードウェイの前に食べるハンバーガー ★★★★☆>:アメリカに来たら、一度は食べたいハンバーガー。ファーストフードではない、これは立派なディナーです。
2019年4月 中村未来