ギリシャの白は資本家の罠?「二つの白」の秘密をたどる遺跡&リゾート浪漫紀行

ギリシャの白は資本家の罠?「二つの白」の秘密をたどる遺跡&リゾート浪漫紀行


青く澄み切った地中海、リゾート地サントリーニ島のラグジュアリーな白、白亜のパルテノン神殿・・・
ギリシャと言われて思いつくのがそんなイメージなら、貴方は歴史上多く語られない大スキャンダルに騙されている可能性がある。
上で挙げたどちらかの白は後世の資本家によってつくられた「偽りの白」であることを、誰がどう予想できただろう。
●○●サントリーニ島●○●



“GREEK LOVE(ギリシャの愛)” という熟語が「男性同士の同性愛」を意味することはさておき、サントリーニ島はギリシャでNo.1のハネムーンの聖地。
サントリーニ島には二つの大きな町、フィラとイアがある。どちらも白で統一された建物が軒を連ねている。その美しさに引き込まれるように町並みをたどると、入り組んだ路地に迷い込んでしまう。にぎやかなフィラの町並みは、ギリシャのセンスが光るお土産物屋やタベルナ(伝統的なギリシャ料理店)がひしめき合っている。どの店もカラフルでおしゃれ。そのセンスがうらやましい。







断崖へ下るケーブルカーに乗って、クルーズ船の玄関口オールドポートへ向かう。フィラの向かいにある火山島、ネア・カメニやパレア・カメニへ向かうツアーもこの港から出発する。

奥に見えるのが火山島

オールドポート

ここから見上げるフィラの町は、まるで雪山のようだ。帰りは伝統のロバタクシーに乗って崖を登る。のんびりまったり揺られよう、という気でいたのだが、ロバは急に走ったり、急に立ち止まったり・・・ハラハラして意外と楽しい。笑顔でフィラに降り立った後、服から漂う獣の香りで我に返った。



町角にあるささやかな博物館には、サントリーニ島の出土品が展示されていた。土器のひとつひとつ、古代彫刻のひとつひとつが己の見てきた歴史を語りたがっているよう。展示室でじっと耳を澄ませ、ファンタジーの世界のような白い町並みが紀元前に育んだ知恵や文化、その繁栄のひみつを尋ねてみる。


フィラはサントリーニ島の中心となる町のため、主要交通機関のバス路線もこの町が基点。流しのタクシーはほとんどいない。
サントリーニ島もう一つの町、イアはフィラからバスで20分ほど。車窓からはどこか哀愁あるだだっ広い緑地や、きらきらと微笑むエーゲ海、荒々しい断崖や見事な地層を見ることができる。どうしてもリゾートのイメージが強いサントリーニ島だが、火山噴火によって生まれたため島全体が特徴的な地形を持っているらしい。ギリシャ各地の無骨な大地や穏やかな海のどこか神聖なコントラストが、喜怒哀楽にあふれた神々の物語を生み出したのも不思議じゃないように思えた。



夕刻が迫ると、島を訪れた旅人たちは皆イアの展望台を目指す。サンセットを見届けるためだ。ここでは夕陽が、白い町にゆっくりとオレンジの魔法をかけていく。それは世界一の美しさだと言う。この日はあいにく少し曇っていて、その様子は伺えなかった。

船も続々と集まってくる



なぜこの島の建物は白いのかガイドに尋ねると「昔は白いペンキが一番安かったから、みんな家を白で塗ったんだ。」とのこと。狙って白い色にしたわけではなく、何とも偶然に白い建物がそろってしまったらしい。安いのが白でよかったなあと笑いながら、ロマンチックにライトアップされたイアの町を後にした。

この島に滞在するなら、それが特別な旅行なら、断崖沿いのホテル宿泊はマストだろう。お部屋の真っ白なテラスからゆっくり海を眺める時間は、誰もが憧れる人生の贅沢。イアのラグジュアリーな断崖ホテルに宿泊すれば、世界一の夕陽をプレイベートな空間で楽しめるかもしれない。

カティキエスのテラス

カナヴェスイア&スイート

カナヴェスイア&スイート

カナヴェスイア&スイート

時間が許すのなら、ぜひ郊外の自然を訪ねて欲しい。赤い岩肌に囲まれたレッドビーチはまさに絶景。広いビーチではないが、いつまでものんびりできる。


300年の歴史をもつ家族経営のワイナリー、GAVALAS WINERYを訪れた。火山性の土壌が良質の葡萄を育てるそうで、この島でしか採れない品種もあるらしい。ひとやすみして、テイスティングを楽しむ。品がよくて飲みやすく、まろやかなサントリーニワイン。すっかり虜となってしまった。日本のワインコンテスト受賞歴もあるらしい。



サントリーニ島を訪れるまでは、東京ディズニーランドのような作為的に作られたリゾートのイメージがあった。しかし実際は、どことなく生活感も感じられる優しい自然にあふれた島だった。柄でもなく再訪の日を夢見ている自分がいる。
●○●アテネ●○●

アクロポリスの展望台より

今回の旅では、「ギリシャで最も美しい島」のひとつとも言われるコルフ島を訪れる予定だったのだが、管制塔のストライキを重なってしまい断念。ギリシャの国内線オペレーションはいつも不安定だ。まさか自分が巻き込まれるとは思っていなかったので大変残念だったが、アテネでの滞在時間が増えたのは嬉しい誤算だった。崇高で静謐、単純美であふれたギリシャ文明の世界をゆっくり満喫することができた。

パルテノン神殿

アテネで一番楽しみにしていたのは、やはりアクロポリス遺跡。アテネの中心部にありながら、この荒涼とした聖域だけ天界からひょいっと持ち上げられたような、不思議な場所だった。中でも一番見どころのパルテノン神殿は紀元前447年に建築が始まり、15年の歳月をかけて完成した。(現在は残念ながら補修中)

アクロポリス遺跡 プロピレア(全門)

アクロポリス遺跡 エレクティオン神殿


遺跡のねこ

パルテノン神殿に代表されるギリシャ建築は、白い大理石の円柱と水平に架け渡した梁が特徴。この様式は民主主義の象徴として、アメリカの大統領府や図書館、博物館、オーストリアの国会議事堂などに採用されている。
もうひとつ特徴として挙げられているのが「黄金比」。人体の寸法比を参考に考えられた美しく調和のある比率で、安定感や重厚さを生み、人間を意識的に惹きつける。1:1.618で表され、クフ王のピラミッドやパリの凱旋門などにもそれを見つけることができる。
近代建築の祖ル・コルビュジエもパルテノン神殿の黄金比に魅せられた一人。彼の提唱する現代建築の5要素のひとつ「ピロティ」はここから生まれた。彼の手掛けた建築群が世界遺産に登録されたことは記憶に新しい。

パルテノン神殿上部のレリーフ

エレクティオン神殿の彫刻オリジナル

こうしてみると、この遺跡はギリシャの起源だけではなく人間そのものの起源に近いような気がする。
とはいっても今この場所で眺めているパルテノン神殿は、古代の姿そのままというわけではない。もともと神像を奉納するための神室だったが、中世にはキリスト教の教会として利用されていた。その後イスラム教のモスクを経て、17世紀は爆薬の貯蔵庫となった。「まさかヨーロッパ建築の起源と言っても過言ではないパルテノン神殿を、敵国も爆破はできないだろう・・・」と高を括って爆薬の貯蔵庫にしたそうだが、予想は大きく外れベネチア軍に爆破された。
そしてオスマン帝国の支配下にあった18世紀、スルタンから許可を得たイギリスがパルテノン神殿の調査にかかり、多くの彫刻を切り取りイギリスへ持ち帰った。このコレクションは現在、大英博物館の至宝として長年愛されている。コレクションがイギリスからいつか返還されることを信じ、アクロポリス遺跡のすぐ横にある博物館には持ち去られたレリーフを飾るための、どこか悲しい展示室が用意されている。

パルテノン神殿のレリーフの展望室からは神殿が見える

イギリスにある部分はレプリカ

時は流れて21世紀、大英博物館の収蔵品調査により大スキャンダルが発覚した。パルテノン神殿や持ち去られた彫刻は当時の研究チームによって、もとの色がわからないよう金たわしでゴシゴシ削られていたことがわかったのだ。パルテノン神殿だけではなく、ギリシャ各地にあるいくつかの遺跡の色も削ったことがわかっている。
そもそも、古代ギリシャ文明が一気に開花したのは紀元前7世紀のこと。当時先進国だったエジプトへ傭兵として派遣されていたギリシャ人たちが一斉に帰国し、エジプトやアジアの色彩豊かな文化を広めたのがはじまりと言われている。もちろんパルテノン神殿もその影響を受けており、それ本来の姿は「どぎつい極彩色の神殿」だった。
当時の研究チームがパルテノン神殿の極彩色を削り取ったのは「その方が大衆にウケる」という恐ろしい理由。ロマン主義の時代から古代ギリシャ文明へ憧れがあったヨーロッパ人は「古代ギリシャ文明こそが我々の起源」と考えていた。崇高で静謐、単純美、そして白人文明の起源たる古代ギリシャには白がふさわしい、そう考えた大英博物館のパトロンにより計画は催行され、パルテノン神殿は現在私たちの知る姿に変貌を遂げた。なぜ今までこのことを自分は知らなかったのか、歴史の教科書で語られていないのか不思議なほどの大事件だ。
アクロポリスの博物館には本来の色を伝える展示がなかったのが残念だった。資料は全てイギリス側になるのだろうか。興味のある方はインターネット等で検索してみて欲しい。

展望台から見たアクロポリス遺跡

アクロポリス神殿に匹敵するほど興味深い場所があった。国立考古学博物館だ。中心部から少し離れた立地にあるが、アテネ近郊だけでなくギリシャ中から出土された品々が見学者を魅了する。世界史の教科書で見たことのあるようなものも多い。

ケーネ遺跡で出土された黄金のマスク

馬に乗る少年

トロイア戦争の一場面

ヘラクレスがアジプト王ブシリスを殺すシーン


古代ギリシャと一言で言っても、その期間は約2,000年、展示品の変遷は実に興味深い。神々の威厳ある彫刻や指輪、細密な装飾を施された壺など、もちろん全てが紀元前に制作されたもの。どれもデザインがとても洗練されていて、現代のデザインとしても通用するレベルに思う。言語の発達により人間の想像力は退化してしまったのでは・・・と疑いを持ってしまうほどのものだった。ただただ眺めているだけでも楽しい博物館巡りだが、ワンランク上の楽しみを知りたいなら、やはりギリシャ神話への知識を深めることがてっとり早いだろう。喜怒哀楽に溢れ、破天荒な神々の物語を知ることで、展示品にも愛着が湧いてくるはずだ。そして、その神々が愛した地方の遺跡へも足を運びたくなってしまう。気づけばギリシャの虜だ。

ポセイドンのブロンズ像

ディオニソスのテーブル台

アフロディテとパンとエロスの像

先進国の手に渡ることによって研究が進んだり、政治不安による暴動を免れたりしていることは事実だが、美術館が盗品倉庫になってはいけない。ましてや、姿かたちを変えられるようなことはあってはいけないと思う。過去の遺産はあるべき場所にあるのが一番だ。
大英博物館のレリーフがアクロポリス遺跡へ戻れば、古代ギリシャの神々の力でかつての彩色を取り戻すのではないか・・・そんな夢見がちなことを想像してしまうほど、古代浪漫あふれる旅だった。

メテオラの奇岩群にて

【スタッフおすすめ度】
●サントリーニ島 ★★★★★
白い町並みだけじゃない!火山爆発が作った不思議な大自然を満喫しよう。
●アクロポリス遺跡 ★★★★★
荒涼とした大地に建つ美しき神殿。隠された本当の歴史にも触れてみよう。
●国立考古学博物館 ★★★★★
古代の遺産に驚きの連続。ギリシャ神話の知識があればもっと楽しめる。
(2016年10月 仙波佐和子)
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