満月の夜に照らされたタージマハル<インド>

満月の夜に照らされたタージマハル<インド>


タージマハルの美しさは言葉や写真では表現しきれないほど美しい。
遥か昔、私の生涯初めての一人旅がインドだった。夏の盛りの4月末。インドで最も暑いとされる時期にあたり様々な苦難を経験することとなった。その時もタージマハルを訪れた。次から次に押し寄せる数々の障害を乗り越えヘトヘトになりながらやっとの思いで到着し、タージマハルを見たその瞬間、“えも言われぬ美しさ”でそれまでの苦労が吹き飛んだことを今でもはっきりと覚えている。それほどインパクトの強い建造物である。
今回は雨季が開けた10月下旬。比較的過ごしやすい時期のインドを旅した。数年前から始まっている『Taj Mahal Night View』と名付けられた、28日間でたったの5夜だけ行われる“夜のタージマハル見学ツアー”に参加することが最大の目的だった。



同じ時間同じ場所で夜のタージマハルを撮影
感度や絞りは変えたがこの2枚の写真は何故こうも違うのか?
なんちゃってカメラマンの私にはわからない

『Taj Mahal Night View』“夜のタージマハル見学ツアー”は4週に一度くる満月の夜の前後2日間だけ(つまり5日間)、軍と警察の厳戒態勢の中、20時30分を皮切りに、30分刻みで1日3~4回催行される。30分とは言っても、最初のセキュリティチェックを行う管理センターを出発してから30分で戻ってこなくてはならない。その30分の間にバスで移動。もう1回セキュリティーチェック。入り口からタージマハルまで徒歩でとぼとぼ往復5分。そのため正味時間は10数分。
6月~9月は雨季のため催行率が極端に落ちる。また、イスラム関係の建造物になるため金曜日は休館!!その日しかチャンスがない!なんてことになったら悲劇なのだがこればかりはどうしようもない。乾季で雨は降らなくとも、もちろん曇りの日があるので乾季でもだめな日がある。つまり真っ暗で何も見えないということになる。頼りになる光が全くないため肉眼では何も見えない。超高感度カメラでもまともに写らないそうだ。つまり、年間で恐らく約50日前後位くらいしか催行されない貴重なお奨めツアーである。
ここで、注意していただきたいことがある。
ここに掲載している写真は、超ビギナーの私が、感度や絞りを適当に夜間撮影用に変えているだけで色などは何も加工していない撮ったそのままなのだが、カメラで見たタージマハルと肉眼で見たタージマハルは全く違う。私の肉眼で見えた状態を簡単に説明すると、タージマハルの外郭が黒く、影絵のように浮き出すとてもロマンチックな光景になる。私は、カメラと悪戦苦闘していたのでちらっとしか見れなくて残念だったのだが、とにかく、このナイトツアーで写真に撮ったタージマハルと肉眼で見たタージマハルは全く違うので、これからナイトツアーに参加される方は覚えておいていただきたい。
また、さらに言うと、参加する時間によって月の高さが変わる。その時間によっても見える様子が若干違うと思われる。
一番良いのは、このナイトツアーに参加し、そして、部屋からタージマハルを見ることができるタージマハルビューのホテルに泊まることだ。いろんな状態のタージマハルを見ることができるので強くお奨めする。

“えも言われぬ美しさ”の昼間のタージマハル”

現在のタージマハル周辺は、タージマハルの保護はもちろん、取り巻く自然環境保護の観点からオートリクシャーも含めた自動車の立ち入りが制限されている(リクシャー=人力車は外門を少し歩いたところから乗ることができる)。また、日中でも観光客の持ち物に対する規制が非常に厳しい。これらすべての規制はテロを防止するという意味もかなり大きいようだ。持ち込みできない物は定かではないのだが、引っかかった物は、セキュリティーチェックポイントで預けないといけない。引換証等はないらしいので、財布、パスポートなどの貴重品とカメラ以外はできれば持って行かないほうがよいだろう。入場の際に500ccのペットボトルのミネラルウォーターをもらえるので飲み物の心配は要らない。

この袋の中に水と外国人用の靴カバーが入っている

そして、“夜のタージマハル見学ツアー”は、もっと規制がきびしくなる。管理センターでX線のチェックがあり、ボディチェックされ、バスで移動してまたX線と金属探知機を通りボディチェック。携帯電話さえ持ち込めない厳しさである。ナイトツアー参加者は間違いなく貴重品以外何も持っていかないほうがよいだろう。

皆さんフレンドリー

ナイトツアーでは内門を入ったすぐのところで柵が設置されるのでそれ以上奥に入ることはできない。タージマハルまで数百メーターの距離である。通常の設定だとタージマハルを撮影することはできない。私は、会社から高性能カメラを渡され、わからないながら設定を変えてかろうじて撮影はできた。当初はカメラスタンドを持ち込んで撮影しようと思っていたのだが、そんなものは持ち込めるはずもなく短時間の中での撮影にはとても苦労した。因みにビデオ撮影機は持ち込み不可となっている。
取り巻く警察や軍人さんがことのほかフレンドリーなので一応許可を取った上で一緒に撮影するのは記念になるだろう。ただ、勝手に撮ったり、突然走り出したりしたら何が起きるかわからない。少々オーバーだが、それほどの物々しさがある厳戒態勢なのだ。

料金メーターの付いたオートリクシャー
今回はガイドさんがいたので何の問題もありません

今回インドを訪れて驚いたことがある。それは、“プリペイドリクシャー”だ。まだ、インド全域に広がっているわけではないらしいが、チケット売り場でチケットを買う際に行き先を告げ代金を支払う。つまり、料金表が存在するのである。私が昔、アグラを訪れた時にはもちろんそんなシステムはなく、アグラ駅からタージマハルまでの代金を交渉するのに30分。出発したはよいが、目的地とは全く関係のないお土産物屋やシルクの織物工場などなどに勝手に連れていかれたりした。果ては、ドライバーの家に遊びに来いという。

客待ちするリクシャーワーラーたち

今から考えると、そんな愛すべきインド人達と、もっとうまくつきあう方法はあっただろうと思ったりもするのだが、当時の私は、そのようなゆとりを持つことはできず、あきれ果て、怒り心頭、約束の代金も支払わず、別のドライバーをみつけ、再び料金交渉からやり直し。私の背後で、代金を払えと激しく文句を言ってくる“前任者”のドライバー。もう無茶苦茶。それでも尚、問題は解決しない。そんな状況をすべて承知の上で私を乗せた新ドライバーも懲りずに目的地とは違う場所へ私を連れて行こうとする。自暴自棄になった私は、気温40度以上の真夏の炎天下、帽子も持たず、水も持たず歩いてタージマハルに向かうことを決意する。そして、代金を払わずリクシャーを降りた。また、もめたのは言うまでもない。今回の旅ではプリペイドリクシャーに乗る機会はなかったが、はてさて、ドライバーはちゃんとすんなりと目的地まで連れていってくれるようになっているのかは定かではない。もう、お金の取りっぱぐれがなくなったので、より一層ひどくなっているのかも?
あれからインドは飛躍的な経済発展を遂げ、つい先日のニュースでは、インドを訪問していたオバマ米大統領が国会演説に臨み、国連安全保障理事会へのインドの常任理事国入りを支持する意向を正式に表明したそうだ。インドは変わった。

乗客で溢れる2等普通車

とは言え、変わってないところももちろんあった。それは、寝台列車に乗るために訪れたアグラ・カント駅の風景だ。駅の外も中もたくさんの人でごった返し、ところ構わず座り込んだり地面に何も敷かずに横たわり列車を待つ人々。甲高く突き抜けるような声でスナック菓子や水を売る駅の販売員。お客のたくさんの荷物を重そうに抱えて駅構内を移動する赤帽さん。風通しが悪いせいか、実際の気温以上に暑さを感じ、ぐったりさせられる駅構内。そんな雰囲気が心地よくすっかり落ち着いてしまった私であった。

全東洋街道風の写真・・・

2等寝台車はゆったり寛げる

乗ったのは、ジェラム・エキスプレス(JHELUM EXPRESS)の2段式の2等寝台。1等は個室なのだが、乗った列車には1等車の設定はなかった。2等でも十分寛げる。私は寝台列車の旅が大好きで自然と心が高揚する。客車はかなり古く、強烈にノスタルジックな気分を味わわせてくれる。そして、列車の旅と言えばビール。インドでは専門の酒屋にしかお酒類は売っていないため、ガイドさんが気を利かせて買ってきてくれていた。感謝、感激。周りのお客さんにわからないようにカーテンを閉めてクピクピ飲る。降車するブザバル駅まで、約14時間の久しぶりの寝台列車の旅は快適な移動の旅となった。
変わるインド、変わらないインド。次回訪れる時にはインドにも新幹線が走っているのだろうなと思いつつ、心地よい揺れの中、深い眠りに落ちた。
2010年10月 森

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