モンゴル大草原&銀河鉄道の旅

モンゴル大草原&銀河鉄道の旅

成田からモンゴル航空の直行便で約5時間。モンゴルの首都、ウランバートルまではあっという間のフライトだった。ウランバートルの空港は、「え!?こんな所に飛行機着陸して大丈夫??」と言いたくなるほど小さく、上から見ていると、草原の中にぽつっと浮かんでいるみたいだった。
ウランバートル到着は夜の7時前。もうそろそろ暗くなってもいい時間なのに、外はまだ夕方かと思うぐらい明るい。モンゴルの夏は 10 時ぐらいまで明るいのだそうだ。夕食を済ませてホテルに着いた頃には 10 時を過ぎていたが、外はまだ明るくてなんだか変な気分。


ウランバートル鉄道駅 翌日、ウランバートル市内を観光した後、寝台列車で次の目的地、ザミンウデへ向かうためにウランバートル駅へ。列車を利用して長距離移動する人は多いらしく、駅は大きな荷物を抱えた人たちでごった返して いた。車内は4人1室のコンパートメントになっていて、清潔で快適に過ごせそう。同室の人はモンゴル人親子で、中国へ建築資材を買い付けに行くという。寝台列車は、この親子のように、中国へ物資を買いに行く人たちでいつも満席状態なのだそうだ。
程なく列車は走り出し、走り出してすぐに、窓から外を見ていた私の目に広がってきたものは、辺り一面の草原風景だった。モンゴル“銀河鉄道 ”ウランバートルは都会ではあるが、少し離れるとゲルが建ち、なだらかに続く草原には馬や羊の群れも見られる。車窓からの風景は、見渡す限りどこまで行っても草原地帯で、列車が進んでも進んでも、その風景は変わらない。それなのに、見ていてどうして飽きないのだろう。のんびり草を食べている馬や羊を見ながら列車に揺られていると、時が流れていることすら忘れてしまう。
ウランバートルを出て約 15 時間。列車はようやく次の目的地、ザミンウデに到着した。ザミンウデは中国と国境を接する町。駅から国境線までは車で 10 分ほど。国境線には、モンゴル側と中国側に軍人が 1 人ずつ厳しい表情で立っている。中国側に1歩だけ足を入れてやろうと近づいたそのとき、それまで微動だにせず直立していた中国の軍人が、ものすごい勢いで私に向かって歩いてきて、なにやら怒鳴っている。私はもちろん慌ててその場を離れた。うかつに国境を越えようとするもんじゃないな。(当たり前か・・・)
国境付近には特に何があるというわけでもなく、中国側のその付近にはただ 1 本線路が延びているだけ。モンゴル側は、線路の周りの草がぼうぼう伸びているだけで何もないが、一方中国側は、街灯もあり線路脇の道路もきちんと舗装されている。ここが国境だと言われない限りわからないだろうけど、この違いを見ると、ここで国が分かれているのだなとわかる。
国境線を後にし、ゴビ砂漠へと向かう。車で約 2 時間半、ただでさえぼこぼこの砂漠、道なき道を進んでいくので大変なのに、ドライバーさんはなぜか、ものすごいスピードを出して走ってくれた。そんなに急がなくてもいいよ、と何度言っても、陽気に歌を歌いながらどんどんスピードを上げていく。ものすごいスピードででこぼこ道を進むので、途中何度も、座席からお尻が浮き上がって車の天井に頭をぶつけた。その度にドライバーさんは「 OK ! OK !」と言いながらスピードを落とさない。何が OK だ!?だんだん腹が立ってきた!そのハイスピードのおかげで、ツーリストキャンプへたどり着いたときは、私はもう気力も体力も本当にへとへとで、立っているのもやっとだった・・・。
へとへとの状態で、今度は馬に乗って砂漠の中を進んでいく。砂漠と言うと、草一本も生えない荒涼とした砂丘地帯を思い浮かべるが、このゴビ砂漠は、背の低い草木がまばらに生えていて、枯れ地という感じ。去年行ったサハラ砂漠のように辺り一面が砂、という砂漠とはまったく違って、砂漠と言ってもいろいろあるのだなと思った。それがしばらく進んでいくと、突然目の前にさらさらの砂地地帯が現れた。さっき砂漠にもいろいろあると思ったところだけれど、ゴビ砂漠の中にもいろいろな種類があるのだなぁ。
ゴビ砂漠砂漠に生きる子ども
砂漠の日差しはとても強く、ただ馬に乗っているだけと言っても体力をどんどん奪われていく。「今度はラクダに乗ってみましょう!」とガイドさんは満面の笑みで誘ってくれたけれど、ここにたどり着くまでにすでにへとへとになっていた私は、もうラクダに乗る元気などなく、しばらくゲルで休ませてもらうことにした。外は肌がじりじり焼けるほど暑いのに、ゲルの中はとても涼しい。ツーリスト用のゲルはベッドもあって、清潔にしてある。ゲルの中に入るとすぐにベッドに横になり、ぐっすりと眠ってしまった。
遊牧民の子ども目を覚ますともう出発の時間になっていた。ゴビ砂漠には宿泊することなく、その日の夜行列車でウランバートルへ戻る。列車ではモンゴル人のお母さんと、 6 , 7 歳ぐらいの女の子と同室になった。お母さんはとても気さくで親切な人で、すももやおやつをたくさんくれた。女の子もとてもかわいかった。折り紙で鶴を折ってあげると、お別れするときまでずっと大事そうに持っていてくれた。モンゴルで出会う人たちはみんな素朴で、ステキな人たちばかりだ。特に子どもがかわいくて、かわいくて、そんな子どもたちの笑顔を見ていると、私もすごく幸せな気持ちになる。人が温かい国っていいな、と改めて思う。
ウランバートルへ戻るや否や、休む間もなく次の目的地、ブルドへと向かう。なんと言うハードスケジュール・・・!「ブルドまでは車で 4 時間ぐらいだからすぐ着くよ」と聞いて、よかったと胸をなでおろした私に訪れた悪夢・・・。ブルドまでの道のりは、実に 7 時間に及ぶ長旅だった。道路はほとんど舗装されていたが、途中工事中の場所があって、やむなく遠回りしてでこぼこみちを走ったりした。そんなこともあって時間がかかったのだろうが、「けっこう時間かかったね」とのんびり話すガイドのウルジさん。 4 時間ぐらいって言ったやん! 2 日に渡る寝台列車での移動、砂漠までの悪路に加えてこの移動、私の体力はもう限界に近づいていた。さらに、疲れもピークなら、私の機嫌の悪さもピークに達していた。ブルドのエブツーリストゲルに着くと、辺りをゆっくり見渡すこともなく、「私が泊まるゲルはどこ?」と怒り口調で聞き、ベッドに直行した。迎えてくれたエブツーリストゲルのみなさん、ガイドのウルジさんとドライバーさん、ごめんなさい・・・。でもこの疲労には耐えられず、ベッドに倒れこむと同時にぐっすり眠ってしまった。到着したのは確か 5 時頃だったと思うが、目が覚めたのはもう夕食の時間だった。
エブツーリストゲルの中はこんな感じエブツーリストゲルは草原の中に建つゲルで、当然周りには何もない。もちろん外から聞こえてくる音なんて何もなく、すごく静かだ。ゲルの中は意外と広く、ここで夜一人で寝るのはちょっと寂しいなぁと思っていたが、昼寝したにも関わらず、満点の星空を見上げることもなく眠ってしまった・・・。それが2日目の夜は、ゲルの近くにいた羊の群れが大移動をはじめたらしく、低い声で「めぇ〜、めぇ〜」とうなりながら近づいてくる。その低く、無数の声がなんとも恐ろしくて、この夜はなかなか寝付かれなかった。
ブルドモンゴルと言えば、誰もが思い浮かべるのはやはり大草原だろう。そのイメージどおり、市内をちょっと離れただけで辺り一面に広がる大草原。特にこのブルドの草原はとても美しい。 6 月は 1 年中で最も緑が美しい時期らしく、一番いい時期に来て、美しいモンゴルを目にすることができたことを嬉しく思った。
草原だけではなく、忘れてはいけないのが、お乳を飲む仔馬その草原に生きる馬や羊や牛たち。 群れになって草をむしゃむしゃ食べたり、ごろごろ日向ぼっこをしたり、時にはじゃれあったり。子馬が親馬に必死について歩いている姿や、子羊がころころ転がっている姿。そんな光景があちらこちらで見られる。動物を見ているといつも思うことは、一体何を考えているのかなということ。おなか すいたなぁとか、お日様気持ちいいなぁと か、そんなことでも思っているのかな。大草原での馬や羊や牛たち、その光景はとてものどかで、心を和ませてくれる。
馬に乗る遊牧民の子ども 最終日、ウランバートル市内近郊のガルバツーリストゲルへ。このゲルの持ち主、ガルバ一家は、馬やら羊やらの家畜を飼っていて、家畜に合わせてツーリストゲルも移動するため、いつもこの場所にある、というのは決まっていない。観光客用のツーリストゲルは移動しないものとばかり思っていたのに、ガルバ一家の方針は、少しでもモンゴルの人たちの暮らしに触れてほしいということから、ゲルも移動式、ゲルの中もツーリスト用というよりモンゴル式。でもツーリストに対する心配りが素晴らしくて、ガルバ一家のお父さん、お母さんの笑顔がとてもステキだった。
このゲルで私は、スーテイ・ツァイ(モンゴル版ミルクティー)、ボーズ(モンゴル風餃子)、取れ立てのチーズなどをごちそうになった。モンゴルに来て1週間になるのに、なぜか私はモンゴルらしい食事をあまり口にする機会がなかった。そのせいもあって、ここでご馳走になったボーズやチーズは本当においしくておいしくて、「おいしい」の一言しか出てこなかった。
地下からの湧き水が出ている泉が近くにあると聞き、馬に乗ってのろのろその泉を目指した。お昼の一番暑い時間だったが、のんびり、のんびり、あまりにものどかで、時間が止まっているようだった。 15 分ぐらい馬に揺られて、泉が見えてきた。泉といっても小さな水溜りのようなものなのだが、そこから湧き出ている水は冷凍庫で冷やし続けたみたいに冷たかった。靴を脱いで足をつけてみたけれど、あまりの水の冷たさに、心臓がちぢむ感じがして 5 秒も入っていられなかった。空は青く、雲はきれいで、風も気持ちよく、周りの緑も美しい、そしてこの水は澄んでいてとても冷たい。どこまでものどかで、本当に幸せな気分だった。
ここでも馬に乗ったり、遊牧民たちと馬の芸を見せてもらったり、モンゴルの人たちの暖かさに触れ、楽しい時間はあっという間に過ぎていった。日程の都合で少ししか滞在できない私に精一杯のおもてなしをしてくれ、このゲルでこの人たちと 2 、 3 日過ごしたかったなぁと少し残念に思った。
あっという間にモンゴルの旅は終わってしまった。モンゴルの人たちの、素朴で素敵な笑顔にたくさん出会えた 1 週間だった。特に子どもたちは本当にかわいかったなぁ。どんどん開発が進み、近代化していくモンゴル。きっと何年か後に来るときには、街は大きく変わっているのだろうと思う。それでも私が出会った大草原は変わることなく、そして人々の持つ素朴さがこれからも失われることなく、ずっとステキな笑顔で旅人を迎えてくれるといいなと願う。
岡部 聖子
2004年6月

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