ヨルバ族のガイド デイビッド
ナイジェリアの民族の約半数はヨルバ族だそうだ。残り半分の民族の名前はあいにく聞き忘れたが、250もの言語があるそうだから、それだけ多くの民族がいろいろいて、きっと聞いても覚えられなかっただろうから、まあいいか。
ナイジェリア最大の都市ラゴス。フライトが着くのもラゴスだ。私のラゴス滞在中のガイドのデイビッドもドライバーさんもどちらもヨルバ族。だから彼らはいつもヨルバ語で話していた。ラゴスの空港からホテルへの送迎も市内観光も普通の乗用車だった。ラジオから流れてくる番組もヨルバ語とアフリカンアクセントの強い英語の両方だが、どちらも聞き取るのは難しい。少し激しめの、もしかしたら喧嘩しているんじゃないかと思いそうな言葉。穏やかな言葉とは程遠い。
デイビッドの衣装はヨルバ族らしいカラフルな民族衣装。アバダと呼ばれる中東のモスリムの男性が着ているような裾までダボッとしたマキシ丈のワンピースに似ている。いつもこの民族衣装姿でお客さんを案内するらしい。頭にも布の帽子を欠かさない。アフリカンムード満点で被写体として申し分ないデイビッド。
南アフリカを越して国民総生産アフリカ1位のナイジェリア
ラゴスは地元ではレイゴスと発音する。英語の発音自体もレイゴスだ。最初に聞いたときは戸惑った。町の人口は2000万人。ナイジェリアの総人口は?とデイビッドに聞いたら、1億8000万人です。あ、でもこれは10年前の統計だから、きっと今は2億人位になっているかも。10年前には僕も結婚してなかったけど、今は結婚して子供もいる。その人数はまだカウントしてなかったから…というのが彼の推測だ。なかなか大雑把で面白い。
アフリカ大陸の6分の1の人口を誇る国ナイジェリア。後でネットで検索したら、まだ今年の数字は出ていないものの2億人位になっていそうなことが書いてあった、さすがにアフリカだから正確な数字はわからない。でも予想では増え続けるナイジェリアの人口は2050年には中国、インドに次いで、アメリカを抜いて世界3位になるのだそうだ。そして人口が多いため国民総生産もダントツアフリカ一となっている。幸福度ランキングも比較的高めだそうだ。
交通渋滞が生み出した「路上物売り文化」
ヨルバ族を始め多くの民族が住んでいるラゴスの街は実は首都ではない。でも遠く離れて存在する首都アブジャを凌いで間違いなくこの国一番の大都会だ。その分交通渋滞はハンパなく、移動するのにちょっとそこまで5分くらいで行けそうな距離でも30-40分は軽くかかる。町中のメインランドと言われるエリアと橋で繋がったビクトリア島のエリアまでの移動時間は1時間以上かかることもある。埋め立てして作った土地は地下鉄など作りにくいのだろう。皆が車に乗るしかない。だだっ広い街を車で移動。まさにロサンゼルス風の町なのだ。そしてロサンゼルスよりももっともっと渋滞する。
ラゴスに2~3日いるだけで、私などはかなりイライラしてくる。毎日毎日これほど移動に時間をかけて、ここの人々はストレスが溜まらないんだろうか?貴重な人生の多くの時間をロスしているのでは?でもこれも彼らにとっては日常の一部であるようだ。車が止まっているためにできた「路上物売り文化」は確実にここには根付いている。新聞売り(50ナイラ=約15円)から始まって、水にジュースにお菓子にティッシュ。果ては子供の英語ドリルまで売りに来た。何でもかんでも売り付けに来る子供や青年たち。それも一人が1種類のものを売るだけという細かい商売だ。こんなものひとつだけ売って利益が出るのかとも思うが、人々はコンビニにでも立ち寄る感覚で彼らから商品を買っている。だから予想以上に商売も成り立っているみたい。
もちろんコンビニなどないし、渋滞中に車をわざわざ停めて買い物に行くなどできる状況ではない。デイビッドもドライバーもミニクラッカーを買ってはポリポリかじっている。
アフリカのニューヨーク ラゴス
国立博物館
ラゴスはアフリカのニューヨークという呼び名も高い。流行の発信基地であり、アートのいろいろ、音楽もいろいろ、この町に集中している。この都市にやって来るまでは、ナイジェリアのイメージはアフリカの奥地の田舎っぽいところというイメージしかなかったので、来てみて実はかなり驚いた。
メインランドとちょっとセレブなビクトリア島からなっているのもマンハッタン島みたいでアフリカ版NYだ。デイビッド曰く、ビクトリア島は高くて住めないから、庶民は皆メインランドに住んでいるという。2つのエリアを結ぶ橋は11.8㎞もある超が付くほど長い橋で、アフリカでも指折りの長さだ。車で橋を渡っていると、彼方にビル群が見えるのもちょっとだけマンハッタンのよう。
ニケ アート ギャラリー(NIKE ART GALLERY)/ニケさん
ニケ アート ギャラリー(NIKE ART GALLERY)
ニケ アート ギャラリー(NIKE ART GALLERY)
ニケ アート ギャラリー(NIKE ART GALLERY)
ニケ アート ギャラリー(NIKE ART GALLERY)にて
観光のテーマはアート、ミュージック、そしてファッション!
まずは楽しにしていたアート鑑賞だ。西アフリカのアートの世界で知らない人はいない存在のナイジェリア女性ニケNIKEさん。彼女が造り上げたアートの殿堂として知られるのがラゴス島にある「ニケ・アートギャラリー」である。アーティストでありデザイナーでもある彼女がナイジェリアの伝統文化とテキスタイルとモダンアートを組み合わせて生み出したオブジェや絵画。それらが4階建てのギャラリーに所狭しと展示されていて圧巻だ。何百点あるだろう、町や人々を描いたものからテキスタイルやバティックの柄に至るまでデザインはどれもが美しい。最初は停電していたので、薄暗い中で必死で見ていたら、突然全館の電気がついてカラフルな絵画が目の前に飛び込んできてびっくりした。どれもが生き生きとして魅力的なのに感動していた。ビルの入り口の前にはたくさんの人の顔のオブジェが飾られている。表情豊かでユニークなものばかり。人の心を魅了する表現力で、決して古い感じはしないし飽きることがないオブジェはモダンアートの傑作である。ひとつひとつ全部の写真を撮りたくなったほどだ。
そこにたまたまニケさんご本人が登場!気さくに一緒に記念写真も撮らせてくれた。心優しくとても聡明な方という印象を受けた。会えてよかったー!!
ニケ アート ギャラリー(NIKE ART GALLERY)
ニケ アート ギャラリー(NIKE ART GALLERY)
ニケ アート ギャラリー(NIKE ART GALLERY)
ニケ アート ギャラリー(NIKE ART GALLERY)
伝説のミュージシャンの「神社」と「博物館」見学
次なる観光のテーマは音楽編。
アフロビートのパイオニア、フェラ・クティをご存じだろうか?アフリカ音楽が好きな人には有名な伝説のミュージシャンである。ラゴスに行くなら是非見てみたかったライブハウスが、噂に聞いていた「ニュー・アフリカ・シュライン」である。フェラ・クティが作ったライブハウスは、シュライン(神社)と呼ばれて聖地となっているのだ。
ライブハウスというと屋内のお洒落っぽいスペースを想像していたのだが、予想と大きくかけ離れたものだった。屋根だけあって半オープンの体育館のようにだだっ広いライブハウスなのだ。客席スペースには粗末な椅子が無造作に並べてあるだけ。そしてシュラインだけあって。一角にはフェラ・クティの写真を飾る祭壇まである。キリスト教もイスラム教も嫌っていたという彼は独自の宗教を生み出したのだという。まさにカリスマだが、29人もの奥さんとみんな一緒に暮らしていたというから、やっぱりフツーじゃないと思った。夜ともなるとここに来た観客は皆酒を飲んでライブを聴いて踊り狂い、マリファナを吸うのも当たり前という。そんなシーンにも興味はあったが、かなり危なそうなので夜の見学は想像するだけに止めておいた。
カラクタ博物館
カラクタ博物館
カラクタ博物館
ニューアフリカシュライン(NEW AFRICA SHRINE)
ニューアフリカシュライン(NEW AFRICA SHRINE)
ニューアフリカシュライン(NEW AFRICA SHRINE)
ニューアフリカシュライン(NEW AFRICA SHRINE)
ニューアフリカシュライン(NEW AFRICA SHRINE)にて
フェラ・クティの暮らしていた家は、1997年の彼の死後、博物館となって見学ができる。その名も「カラクタ共和国ミュージアム」。彼の写真や肖像画が飾られ、トイレやバスルーム、クローゼットにベッドルーム、靴ばかり並べられた部屋もある。
案内人のひょろっとか細い兄さんは、写真を1枚1枚事細かに説明してくれたが、残念ながらその英語は到底聞き取れないものであった。でも見ているだけでわかる。ここはまさにフェラの王国ならぬ共和国。フェラと29人の妻全員集合の大きな写真は彼のカリスマ性を存分に披露していた。ブティックではCDやTシャツなどが記念品として販売されていた。記念にTシャツを1枚ゲット!
ニューアフリカシュライン(NEW AFRICA SHRINE)
ニューアフリカシュライン(NEW AFRICA SHRINE)にて
ナイジェリア料理 左がフーフー
ヤギの頭の料理もある!!高級カフェレストラン
ランチの時間となったので、デイビッドがビクトリア島のお洒落で高級なカフェレストラン「イエロー・チリ・レストラン」に連れて行ってくれた。雰囲気も悪くないし、サービスもいいモダンな店で、メニューを見ると1品3500~4500ナイラ(1000円~2000円)もするのでいいお値段だ。そしてメニュー内容をよく見てびっくり!ほぼすべてがナイジェリアのローカル色溢れる伝統料理なのだ。GOAT HEAD、ヤギの頭というのを見つけた。4500ナイラだ。こんなきれいな店ですごいミスマッチの料理。さすがに遠慮しておいたが、知らずに出てきたらぎょっとしたことだろう。デイビッドは大好きな料理だという。ヤギの肉は赤身の肉ではナンバー1.ビーフよりコレステロールも低くてヘルシーだから。でも一番高い肉だそうだ。
私はデイビッドのお薦めの2番目SEAFOOD OCROにした。OCROはオクラのことだ。エビや魚がふんだんに入ったシーフードシチューにオクラが入っていてトロトロのねばねば。結構ピリ辛で意外に美味しい。ローカルフードはスパイシーなのが多いのだとか。ご飯の代わりに一緒に食べるのが「フーフー」。白い円錐形の塊で、ヤム芋などを蒸してあるそうだ。ちょっと中途半端なお餅かはんぺん風のねっとり食感。オクラもトロトロ、フーフーもねばねば。ナイジェリア人はこうした食感が好きと見た。
他にもキングプロウンがドカンと上に載ったフライドライスも頼んでみた。ご飯の中にもミニシュリンプがどっさり入っている。どれだけエビ食べたら気が済むねん!でもそれほどスパイシーでなくて食べやすい一品であった。
ファッションの殿堂・アララ・ラゴス
ナオミ・キャンベル御用達、ファッションビルはおしゃれすぎた!
ビクトリア島にあるセレブ御用達、超がつくお洒落なファッションビルを見学してみた。その名は「アララ・ラゴス」とにかく斬新な設計の建物で、入り口でカメラを持っているとセキュリティガードに写真は一切禁止ですと言われ、すごすご片付けて中へ足を踏み入れた。館内はなんと広々とした一軒だけの店であった。内部は階段状になっていて、超ゆったりのディスプレイ。ショッピングモールを想像してきたのに、品数が少ない上に、どれもがユニークでオシャレすぎる!!まさに黒人モデル用みたいなドレスばかりだ。階段を上っていくと、右手に唯一私でも似合いそうな少し民族調のデザインのワンピースを発見。カッコいいお店のお兄さんがどうぞ試着してくださいというので、値札も見ずに調子に乗って試着開始。するとどう見ても胸のところがブッカブカ。おしり回りもダブダブ。日本だとLサイズの私でも、この国のサイズは大きすぎる。ボリュームが違うのだ。私はこの国では細い人なのだ。ちょっと嬉しかったりして。
お兄さんは「このドレスはナオミ・キャンベルさんも買ったんですよ。ミラノ製だから素敵でしょう」とのこと。ここで値札を見ると710$。うーむ。これは却下したのであった。もともとサイズも合わないし。アフリカだからもっとお安くてお得なドレスを探したい。はっきり言って場違いなビルに来てしまった。でもナイジェリアにもこんなトップファッションの店があるのを垣間見れて楽しい体験ではあった。
自分で事前に調べて店名を言って連れてきてもらったのだったが、デイビッドにもっと安くてお得な民族調ドレスを売ってる店に連れて行ってほしい旨いうと、それならいい所があるよとのこと。連れていかれたのは「カンテサンス」。少々お洒落ながらお手頃価格のお土産やドレスが見つかるという店だった。見てまわると、たまたまピンときたコットンワンピース。濃いめのピンクにグリーンの小さな柄入りで、まさにエスニックなアフリカのムード満点。カンテサンスオリジナルのメイド・イン・ナイジェリアなのも気に入った。その値段が16500ナイラ(約5000円)なのも、ナオミ・キャンベルのとお値段が全然違って大変気に入ったもうひとつの理由であった。日本の夏にも活躍しそうで楽しみだ!
ガイドさんと
レッキマーケット
レッキマーケットにて
レッキマーケットにて
レッキマーケットは民芸品の宝庫!
10月頭にやってきた西アフリカは実は雨季であった。滞在中、空はずっとどんよりしていたし、急に土砂降りに遭ったことも。レッキマーケットは地元の露天商みたいな店が並んでいるので、雨上がりに行くと悲惨だった。大雨の後で水浸し。水たまりにぬかるみができて歩きにくいところを進む。
でもナイジェリアの民芸品のいいものがたくさん見つかるのでお薦めだ。木とビーズでできた民族の細長い像。黒い木彫りに緑のカラフルなビーズの腰巻と帽子をビーズで付けた男性像。赤い腰巻と頭に同じ赤いビーズの瓶を載せている女性像。カップルで購入する。
5000ナイラ(約1650円)はかなりお得だ。これはお気に入りで、大切に抱きかかえて日本に持ち帰ってからはずっと会社のデスクにいつも飾っているほどだ。あとはピアスやブレスレットなどのアクセサリーやカラフルなヘアバンドもお土産にゲット。カバンにポーチ、ジャンベ(太鼓)まで売られている。ナイジェリアのお土産は大体ここで揃えることができた。
ラゴスだけの滞在であったが、ナイジェリアには予想以上の満足感を覚えていた私。
ナイジェリアの人口はアフリカ全体の人口の6分の1もある。だから日本で出会うアフリカ人の約半分がナイジェリア人らしい。私たちもどこかで出会っていたはずだ。彼らはこの国でパワフルに、そして幸福に急成長を遂げていることがわかった。
ナイジェリアという国は、自然や遺跡や動物、民族といったアフリカの辺境を巡る旅とはまた一味違う、アートや音楽やファッションという別のアングルでアフリカを知る旅ができる場所に他ならないのだ。
だからナイジェリアを見ずしてアフリカは語れない。これが私の結論だ。
レッキマーケット
ホテルジョージのスタッフ
ホテルジョージにて
巨大ショッピングモールにて ガイドのデイビッドと
写真・文 井原三津子