夢だった南極をこの目で見たい
2020年2月、待望の南極へ行ってきた!世界5大大陸のひとつ。そして私にとってまだ足を踏み入れていない最後の大陸だった。
南極ってどんなところですか?何を見るんですか?
行く前に皆に聞かれた。
氷山とか、ペンギンとか。あ、シロクマはいないよ。あれは北極。まあ南極にはペンギンとかはいっぱいいるみたい・・・・などと行く前は、かなり言葉に詰まっていた私。説明もあやふやだし、何が見どころかと言われても断言できるものがなかった。
ずいぶん遠い所へはるばる行くんですねー。そう感心する人もいた。
まあ、そうだけど。長年の夢だったから。
そう。確かにずいぶん前から南極には一度は行ってみたかった。未知なる世界に憧れを抱いていた。
ガイドのアニーさんと
ダンコアイランド/ザトウクジラ
パラダイスハーバー/ジェンツーペンギン
ダンコアイランド/ジェンツーペンギン
ダンコアイランド/ヒョウアザラシ
シエルヴァ・コーヴ/チンストラップペンギン
さて、南極から戻ってきた今。南極の写真を眺めていると、まだ夢心地のふわふわした気分を思い出してしまう。それだけ私にとって南極での体験は強烈で、インパクトが半端ないものだったのだ。アフリカの奥地まで旅してきて、どこもそれなりにインパクトはあったし感動もしてきた。それでも今回のはちょっと今までとは違う。特別な感じだ。
南極のことを一言で表現するならこうだろうか。
シエルヴァ・コーヴ/大自然が生んだアート!
クルーズ船から見た南極の風景
クルーズ船から見た南極の風景
クルーズ船から見た南極の風景
地球の果てにある氷でできた桃源郷。
南極には世界中のどこを探しても存在しない、南極だけにしかない空気感が存在する。
そこにある大自然は本当にダイナミックで荒々しいのに、同時に清らかで爽快感もある。言葉で言い表すには限界があるほどそれは素晴らしい世界だ。訪れる者すべてを幸せな気分にしてくれる。だから桃源郷と呼びたい。クルーズ中、ゾディアック(ゴムボート)ツアーで大自然のまっただ中にいた時、その空気感に誰もがのめりこんで、感動に浸っていたような気がする。私もその中の一人だった。あたり一面煌めくブルーと透明な氷山の造形美に囲まれて、静寂の中で聞こえるのは氷が砕けて溶け落ちる音だけ。そんな時に同じゾディアックに乗っていたアメリカ人女性がぽつりと言った。
「心が洗われるわね・・・」
誰もが無言でうなずいていた。
ダンコアイランドの氷山
シエルヴァ・コーヴのチンストラップペンギン
氷の巨大なビルのよう
南極までの長い道のり
その夢をかなえるために私が動き出したのはちょうど出発の1年前、2019年の2月であった。南極へ行くためのクルーズ船の予約は、1年前からしないといけないというのは常識らしく、本当にギリギリで、私が予約した直後に目指すクルーズ船の予約は満杯となったそうだ。人気の船だったので危ないところだった。しかも南極が一番過ごしやすい、いい気候の2月下旬、2/19就航の船だった。
申し込み手続きは様々な書類の記載が必要だった。日本の環境省に提出するような公的書面もあった。でもクルーズの代理店の担当者が親切に教えてくれたので簡単に済ますことができた。
私の選んだのはチリ最南部の町プンタアレーナスからフライトで南極のキングジョージ島にひとっ飛びして、そこからクルーズ船に5泊して南極半島の島々を周遊する、「フライ&クルーズ」だ。南米と南極の間にはドレーク海峡があって、南極から船で海峡を渡るには2泊かかり、往復100時間がロスになる上に、外海とあって波が荒く45度も船が揺れるという。それは耐えられそうもないので、往復ともフライトの快適なプランにした。片道それでも2時間かかるクルーズ会社のチャーターフライトだ。
そもそも日本からプンタアレーナスまではチリの首都サンチャゴ経由となる。私が乗ったラタム航空は成田からロサンゼルス経由サンチャゴまで9時間と10時間半の計19時間半。
サンチャゴに1泊して国内線でプンタアレーナスまで約3時間かかる。プンタアレーナスでは念のため2泊した方がいいということで、クルーズ船乗船の前々日に着くように手配した。プンタアレーナスへの国内線はよくオーバーブッキングするそうで、何かあってクルーズ船に乗れなかったら大変だから。
町中にて
前泊はチリ最南端の町プンタアレーナス
クルーズ会社がツアーで手配してくれたプンタアレーナスの街中のホテル「ドリームズホテル、カジノ&スパ」はモダンで大きなホテルだ。クルーズ船の乗客が全員前後泊するので、レセプションは超忙しそうだった。自分で別のホテルを取って1泊していたので、そちらからタクシーでこのホテルに向かった。
昼12:00、まずは荷物をもってホテル内のオリエンテーション会場へ。そこで南極でずっと履くことになる長靴を借りる。事前にサイズは伝えておいたが、念のため履いてみてちょうどいいか確かめるのがベター。ツアーの時はいつもこれを履くので、スキー用の分厚い靴下をはいた状態で痛くないか試した方がいい。
それからクルーズ会社がプレゼントしてくれる黄色のパーカーを受け取る。中にはフリースが付いていて、めちゃくちゃ温かいが、その分かなり重い。これぞ南極仕様なのだろう。受け取ったとき南極に行くことの意味をズン!とその重みに感じた私。
その後はバッグの重さを計量して、埃を取る作業をされるという流れだ。預ける大きなかばんは15㎏まで、手荷物は5㎏までにしないといけない。エクセスバゲージ(超過手荷物)や南極で使わない荷物はこのホテルで預かってくれるので、事前に分けておくこと。
かばんの埃に関してはかなり厳しいようだ。南極は清潔なエリアで、清らかな場所だから、シャバの汚れ?を一切持ち込まないように気を付けているのだろう。なんとスタッフが家庭用掃除機でスーツケースの内部をスポンスポンと掃除していた。私は今回南極用に購入した新しいバッグだったので、その旨言うと免除されたが。
その後一旦ホテルのチェックインをして部屋に落ち着いたら、ランチを食べて休憩のひと時。18:00からオリエンテーションが始まる。いきなりの早口英語で聞き取りにくいが、全体の流れとか一通りの注意事項を聞く。内容は明日の朝のフライトの乗り方とか、荷物のこととかチーム分けのことなど。フライトは2機用意され、チーム1とチーム2に分かれて乗るが、私はチーム2となる。
オリエンテーション終了後、その流れでウェルカムディナー会場へ向かう。そしてその入り口で体温チェックをされた。今回は新型コロナウィルスの影響で、とりわけクルーズ船はナーバスになり始めていたようだが、2月19日とあってまだ皆がそれほど騒いでいない時でよかった。アメリカの経由時も体温測定もなく、誰もマスクもせず騒いでいる人はいなかった。ただし、事前に通達があって、38℃以上ある人は乗船を拒否されると聞いていたので、熱はないはずだがドキドキした。なにしろこれで直前拒否されたら、乗れないどころかクルーズ代も返してくれないと聞いていたので。でも無事36.2℃でセーフ。
無事ディナー会場へと入っていった。ビュッフェスタイルで丸テーブルで食事していると、サンパウロから来たというブラジル人の夫婦と一人旅のスイス人の若い男性が同席になって、いろんな話に花が咲いた。ブラジル人の旦那さんは英語がわからないとかで奥さんが通訳していた。皆が皆英語堪能というわけでもなさそうでホッとした。スイスボーイは長身のイケメンで愛想もいい。一人で来たのかと聞くと、あいにく南極クルーズ船は一人だけどこのクルーズの後、なんと「ボーイフレンド」と合流して南米を旅するそうだ。ふむふむ。
キングジョージ島の空港にて(南極)
キングジョージ島の空港(南極)
いよいよ南極大陸へフライトでひとっ飛び!
プンタアレーナスから南極のキングジョージ島までのフライトは天気に左右されるそうだ。出発の正確な時刻も出発の朝にならないとわからない。なので早めに朝食を済ませて待機していないといけない。私たちグループ2のフライトは9:30発に決定したそうだ。
4:30起床。5:30朝食。エクセスバゲージをホテルの決まったスペースに預けに行く。
6:45荷物をすべて持って下へ降り、チェックアウト。ゴム長靴とパーカーはもらったサブバッグに入れて持って行く。長靴は汚れが付くのでまだ履いてはいけないのだ。必ず機内で履き替えるとの注意事項であった。
シエルヴァ・コーヴ
07:15 ホテル出発。バスにて空港へ。 約30分で空港に到着。
小型機と言っても60人乗りのチャーター機だ。2-3の配列で自由席。しっかりした軽食やジュース、ワイン、水などが出て、なかなかのサービスだ。着陸前になると、皆が持ってきた長靴に履き替え、しっかりと黄色のパーカーを着込む。皆さんお揃いだ。そして一番大切なことがズボンやスパッツの上にゴアテックスなど防水防寒のズボンを履くこと。これを履いていないとクルーズ船に向かうゾディアックに乗船させてもらえないので要注意だ。
無事フライトが着陸したキングジョージ島はすでに南極大陸の一部だ。スタッフが叫ぶ。
ようこそ!南極大陸へ。皆さん5大陸制覇でしょうか?
私を含めたくさんの人が手を挙げた。感慨深い南極大陸制覇。
・・・とはいってもここは南極大陸の端っこ。南極とひとくくりにしても、総面積は1400万平方キロもあり、日本の面積の37倍と言われている。西南極の方が東側より気温は高めで、内陸部にある南極点は大変寒い地点。クルーズで訪れるエリア、南極半島の先端部分の島々のあるエリアは西南極に位置し、夏場(10ー2月)には平均気温が0℃以上となり、最高気温が5℃から10℃近くになる日もあって、観光客には行きやすい時期となっている。またこの時期は白夜に近く遅くまで薄明るい時期で、観光にも便利な時期という話だ。
さっそく皆が一列になって約30分くらいで1.5㎞程の道のりを歩いてクルーズ船の待つ港を目指す。大きな荷物は別途運んでくれるので、手持ちのリュックだけを背負って平坦な道のりだから思ったよりより楽だった。履きなれない長靴で同じ黄色のパーカーを着た乗船客が一列になってよちよち歩く姿は、遠くから見ればちょっとペンギンパレードのようだったかもしれない。
着いたところに赤いライフジャケットが用意されていて、それの装着方法を習って付けたら、順番に10人乗りのゾディアックに乗って、いよいよクルーズ船に乗船である。船まで5分。ニコニコ笑顔のクルーの出迎えを受け、乗り込んだところに長靴をきれいに洗う機械があって、そこを通り抜けて入っていく。するとすぐにある部屋がMUD ROOM。文字通りマッドルーム泥の部屋。ロッカーにキャビンナンバーが書かれていて、自分のライフジャケット長靴、そしてパーカーを片付ける。身軽になったらレセプションでクルーズのチェックインとなるのだ。写真を撮ってIDカードを作ってくれるので、ツアーでも食事でもそれをいつも持参していないといけない。
クルーズ船から見た南極の風景
クルーズ船にて
ウィルヘルミナベイでゾディアッククルーズに出発
ベランダスイートの室内
新しくて豪華な「ワールド・エクスプローラー号」
私が乗ったクルーズ船「ワールド・エクスプローラー号」は2018年末に出来た新型の船。耐氷船としては新しく豪華で、しかも機動力に優れた一押しの船…というのが船会社の宣伝文句のようだった。乗客は176名、乗員は105名、7階建ての快適な作りだ。外観はメタリックでシャープな感じでちょっと軍艦のような色目。
クルーズ船から見た南極の風景
ワールドエクスプローラー号のラウンジ
20平方メートルのベランダスイート502号室が私のキャビンだ。5階の先頭部に位置して、狭いながらバルコニーが付いているので気分も爽快。新しいデラックス船だけあって、設備はしっかりしていてきれいだ。冷蔵庫に巨大スクリーンTV、十分なお湯が出るゆったり広めのシャワールームも美しい。特大レインシャワーやスイスシャワーまで付いているので驚いた。ロクシタンスパがあるのでトイレタリーもロクシタン。ふかふかのバスローブも完備しているという徹底ぶり。
部屋にはミネラルウォーターが毎日ふんだんに置かれ、湯沸かしはないものの、下のフロアーには熱湯やコーヒー、ティーサービスがあって、持参した保温ポットにお湯を汲んできて、部屋で日本茶やコーヒーを飲んだりするのも可能だ。希望ならカップ麺なども食べられる。
ランドリーサービスは安くて早いので要チェック。あまりたくさんの着替えを持参する必要はなかった。軽量を心掛けるためにもランドリーサービスを利用するのが賢いやり方だ。
いろんな国のスタッフがいるが、私の部屋のキャビンスチュアーデスこと部屋係はミラさんというウクライナ人女性だった。最初に握手してあいさつ。とっても優しく親切な人だった。滞在中はいろいろお世話になりました!
WIFIは有料で最初に買ってバウチャーをもらう。滞在中無制限に写真も送れるように200$で4GBというのにしたらとても便利だった。南極では間違っても機内モードをはずさないように・・・との注意書きがあちこちに貼ってあった。どこやらの衛星経由で間違ってメールなどしたら数千ドルの請求が来るそうだ。こわいこわい。
レストランはほぼ決まった時間に皆が一斉にレストランに入るシステムだ。朝食とランチはビュッフェで、ディナーはビュッフェだったりセットメニューだったり、屋外バーベキューの日があったり色々趣向が凝らされていた。嬉しいのはその料理の味がいいこと。スープもビュッフェでも熱々で嬉しかった。スタッフはインドネシア人やフィリピン人などアジア系の人も多く、親しみやすいのがよかった。
ワールドエクスプローラー号とゾディアック
グループ別にゾディアックで見学する
ウィルヘルミナベイはあいにくの天候
ゾディアッククルーズ。初日はあいにくの悪天候・・・
アクティビティツアーはチーム分けして行われた。シール(アザラシ)、ホエール(クジラ)、ペンギン、アルバトロス(アホウドリ)の4チームだ。私はアホウドリチームと決まった。できればペンギンチームとかがよかったが、日本語がアホっぽいものの英語でアルバトロスは決して悪くないと思い直す。通常朝と午後に1日2回のアクティビティが行われる。
初日の午後はオリエンテーションで説明を聞いておしまい。あいにくの悪天候で、走り始めたクルーズ船の窓からの眺めも霧がかかって何も見えず、それは夜中続いていた。天気が悪いと、船も少し揺れるためか、寝ていても少しクラクラしている感じだった。そして運悪くその悪天候は翌日も続いた。
ペンギンの通り道
チンズトラップペンギン
翌朝はウィルヘルミナベイという湾に船は止まった。朝9:15船内アナウンスがキャビンに流れた。
皆さんおはようございます。初めてのゾディアッククルーズに出かけましょう。チーム順はアルバトロス、ホエール、ペンギン、シールの順番ですよ!まずはアルバトロスの皆さん下へ降りて来てください。
私のチーム、アルバトロスは一番に呼ばれた。
ワールドエクスプローラー号のキャビンの入口
身支度は済ませていたので、ちょっぴり緊張しながらすぐに階段で3階のマッドルームへ向かう。長靴を履いてパーカーを着込んで慣れないライフジャケットをスタッフに手伝ってもらい準備OK。そうそう。忘れてはいけないのがIDカードをパーカーの袖の透明ポケットに入れること。これで列に並んで順番にゾディアックに乗り込むが、その前に係員がIDのバーコードをピピッと読み込んで、行ってらっしゃいと挨拶してくれる。別のスタッフがライフジャケットの緩みなどもチェックして直してくれる。乗り込むのは2人がかりで手を取ってくれるので安心。
あいにくの天候で曇っている上に雪まで降り出した。寒い。これは氷点下になっている感じだ。ガイドさんが自ら運転してゾディアックは湾をゆっくりと走って行く。白い氷塊がぷかぷか浮かんでいる。行く手には氷山が聳える。そしてその手前にはなんとクジラの姿も。あちこちでザトウクジラたちが体や尻尾を出している。その距離の近さにびっくりだ。
雪で視界がよくないので、1時間半ほどでクルーズは終了。身体も冷えてきたのでちょうどいいかもしれない。
午後のクルーズは14:30頃から始まった。今度は順番がずれてアルバトロスは最後に呼ばれた。ゾディアッククルーズをしてからポータルポイントという場所で上陸観光だ。ゾディアックは岸辺で待機しているので、船に戻りたい人はいつでも連れて帰ってくれる。
ここはダンゴ海峡のシャーロット湾の入り口にあたり、丘に登れば山々と氷河の織り成す風景が楽しめる場所と言われている。それでもあいにくの天候で景色は感動的なものとは言えなかった。
パラダイスハーバー/氷河の氷を手にするアニーさん
パラダイスハーバーにて
パラダイスハーバー
パラダイスハーバー
ベテランで優しいガイドのアニーさんと行ったパラダイスハーバー
翌朝は一転して最高の天気になった。天気次第でこれほど風景が変化するとは。午前のアクティビティは上陸なしのゾディアッククルーズだった。ガイドさんはこの道19年のベテランでとっても親切なオーストラリア人のアニーさん。はっきりゆっくり話してくれるので英語も聞き取りやすくて助かった。同じくオーストラリア人でガイドのリーダーであるデイビッドさんの奥さんだそうで、二人はいつも同じクルーズ船に乗船するらしい。素敵だ。
ゾディアックはいつも同じグループで乗るやり方ではなく、毎回違うのでなかなか友達ができにくいが、総勢130人ほどなので顔馴染みはできて、食事の時にレストランで挨拶するような人も増えてくる。後でアニーさんのグループになったと言うと、他のガイドさんにもそれはラッキーでしたね、と言われた。それだけ人気があるのだ。
アニーさんは日本が大好きと言ってくれるし、思いやりにあふれ、一緒にいるだけで安心感があって、ゲストは皆一体感ができて楽しいのだ。いろんなジョークも飛ばし、今まであった笑えるエピソードを聞かせてくれた。ゲスト同志が知り合えるようにどこから来たとか順番に言い合ったり、ベストスポットでは交替で写真を撮ったりしてくれる配慮も嬉しかった。
パラダイスハーバーはかつて嵐の時に捕鯨船が一時避難した湾として知られている。晴天のもと、あたり一面を取り囲むブルーと白の氷の世界。うっすらと中腹に白い綿雲がなびき、紺色の水面にくっきりと写し出す風景は絶景と呼ばずして何だろう?少しずつ崩れ落ちる氷塊がプカプカ漂っている。大きめの氷塊の上に寝そべる大きなアザラシの姿も見える。ひたすらのどかで平和な風景だ。この地の名前の通り、ここはパラダイスだ。静寂の中で氷河の一部が崩れ落ちるドカーンという音が響く。世界でもまれにみる氷の桃源郷。
アルゼンチンのブラウン観測基地があり、その建物もある。その基地の周りにペンギンの群れがいる。ジェンツーペンギンだとか。鳥の群れも見える。ここは近付けないので遠目に見るだけであった。
パラダイスハーバー
ダンコアイランド
ダンコアイランド/ジェンツーペンギンの親子
うしろにいますよ
ダンコアイランド
南極観光のハイライト!!ペンギン、アザラシ、ザトウクジラも登場
その日の午後はダンコアイランド上陸観光だ。午後の出発が遅めで16:00出発となった。
この日のツアーが滞在中で最高の体験ができた、まさにハイライトとなったのだ。
ダンコアイランドは全長1.6㎞ほどの島で、目の前に氷河や氷山が聳え、氷塊が浮かぶ絶景スポットでもある。クルーズ船からゾディアックで5分、島にはすぐ上陸できた。上陸してみると、丘の上の方までたくさんのペンギンが群れている。
ペンギンの楽園と呼べるほどペンギンが多く生息する南極。外敵から身を守るためにルッカリーと呼ばれる集団を作って共に暮らすペンギンたち。陸地では2本足でよちよち歩く姿が愛らしいのに、いったん海に入れば飛ぶように早くかっこよく泳ぐので驚く。
ここ南極で最もたくさん出会うのが、体長60~70cmの両目を白い模様で結ばれくちばしがオレンジ色のジェンツーペンギン。好奇心旺盛で、上陸して観察していると足元まで近付いてくることも。自分の通り道に人が立っていても、平気でやってきて、きょとんとした顔で見上げてどうしようか悩んでいる姿もめちゃくちゃ可愛い。くちばしを上にあげてガーガーと鳴いたり、ふわふわの毛が生えた赤ちゃんペンギンに口移しに餌をやるお母さんペンギンもいる。ペンギンに近付けること自体貴重な体験なのに、予想もしなかった様々なシーンに出会えた。
ダンコアイランドを後に、ゾディアックは氷河と氷塊を縫うようにして走り、1時間ほどのクルーズが続いた。エメラルドグリーンの氷塊の上に一頭の巨大なアザラシが寝そべっていた。頭がつるっとして丸いスネークヘッドの豹アザラシだ。身体の柄が豹っぽい柄になっていて、300㎏もの迫力ある身体。でも顔は笑っているように見えて愛嬌のある表情なのだ。前ヒレを持ち上げた格好はとっても面白い絵になる。
ジェンツーペンギン
ダンコアイランド/ヒョウアザラシ
ダンコアイランド
ダンコアイランド/ザトウクジラ
ダンコアイランド/ザトウクジラ
ダンコアイランド/ヒョウアザラシ
ところが実際は獰猛なことがわかった。この辺りの海に多くいるペンギンが彼らの主食なのだ。目の前で飛ぶように機敏に泳ぎ回っていたペンギンが一頭の豹アザラシの餌食になった。海面で繰り広げられるすごい光景に皆が凍り付いた。がりがり・・・真っ赤な血が水面に広がって、あっという間にペンギンの骨が見える。
こんなに清らかな海で繰り広げられる凄惨なシーン。可哀想なペンギン。でもこれこそがホンモノの大自然と言えるのだろう。
その時、後ろの方でバシャっとすごい音がした。振り返ると、すぐ近くでザトウクジラがジャンプしているではないか。静かだった水面にプハーっとクジラが3頭現れた。身体を露出して大きく持ち上げたかと思うとクルっと潜って大きな尻尾を見せてくれた。すごい迫力だ。巨大な蝶の羽みたいな形で、色は白っぽいのと黄色っぽい色に染まったシッポ。これぞザ・クジラ!!と言えるリアルなシッポだ。シャッターチャンスもばっちりで、生まれて初めて至近距離のクジラのシッポの写真撮影に成功した。そして、クジラのすぐ横をピョンピョンジャンプして泳ぎ去っていくペンギンの群れ。
まるで自然が生んだ芸術品とでも呼びたい素晴らしいアーチ状の氷塊にも目を奪われる。ところが写真を撮った次の瞬間にガラガラと崩れ落ちてしまうではないか。この地には永遠なんていうものは存在しないのだ。
この氷塊が次の瞬間下のように・・・
アーチ型氷塊が崩れ落ちた
あまりにも見る者を釘付けにする光景が多すぎて、カメラをどこに向ければいいのかわからなくなってしまう私であった。ペンギンとクジラが両方同時に登場するショーなんて、未だかつてない贅沢なものだ。それに豹アザラシまで登場したのだ。
しかもその回りは100%天然の氷の世界、世界の果ての南極の氷河に一面囲まれているのだ。静寂の中で心が洗われて、清らかになってくる。地球上でここにしかない風景に見惚れている。
地球の果てにある氷でできた桃源郷
クルーズ船にて南極の旗を広げる
ずっと、この中にいたい。そしてまた戻ってきたい。それが南極であった。
あたり一面高くそびえる氷山に囲まれるようにしてメタリックなクルーズ船がぽつんと浮かんでいる姿が見える。ほかの船などはいない。頼りになる私たちの船だ。こんな極地まではるばる私たちを運んできてくれたクルーズ船が頼もしく、とてもかっこよく見えた。
<写真/文 井原三津子 2020年2月>