ベレンティ自然保護区はキツネザルの楽園〜マダガスカル

ベレンティ自然保護区はキツネザルの楽園〜マダガスカル

「キツネザルとボク」(黄色い服を着ている方がボクです)
ペリネ自然保護区で

マダガスカルの首都アンタナナリボから飛行機で南東端の町タウランニャロ(フォートドーファン)に飛ぶと、高地にあるアンタナナリボは気温が低く、朝早くホテルを出たときは、長袖の上着を着ても肌寒いぐらいだったのに、飛行機の扉からタラップに出たとたんに、南洋の暑い空気がボクを包みました。


☆タウランニャロ(フォートドーファン)からベレンティへの道
空港の出口では、ベレンティ自然保護区から来た車とガイドがボクを待っていてくれました。
空港を出発した車は、所々、路面が陥没してボコボコ穴があいた道を走っていきます。いったん舗装されたものの、かなり長い間、補修される事なく荒れるがままに放置されていたようで、マダガスカルという国の経済状況が如実に感じられます。そのため車は、ちょっと走ってはブレーキをかけて最徐行、を繰り返し、のろのろとしか進めません。

「タウランニャロ(フォートドーファン)
からベレンティへの道」

タウランニャロ(フォートドーファン)の市域を出たあとは、ボクを乗せた車は、ひたすら田園風景の中を進んでいきました。
マダガスカルと言えば何と言っても、バオバブの木とキツネザルが有名ですが、この国を最も特徴づけているのは、実は稲作の田園風景であると思います。日本の田舎とそっくりな景色に出会うこともしばしばです。マダガスカル人の主食はお米なのです。
最初にこの国にやって来たのは、東南アジアの、今のマレーシアやインドネシアあたりから船に乗ってインド洋を越えて来た人たち、と考えられているそうで、マダガスカルは「アフリカに最も近いアジア」と呼ばれることもあります。田んぼの稲作の風景は、そのアジアらしい面の最たるものでしょう。
ボクがここを通ったとき、田んぼでは田植えが行われていました。アンタナナリボの周辺では稲刈りが見られました。おそらく、二期作をしているためでしょうが、田植えと稲刈りが同じ時季に見られるという、ちょっと不思議な国です。

「田園風景 田植え
(マダガスカル最南部・フォートドーファン付近)」

2時間近く走ると、車はだんだん高度を上げていきます。「ゼブー」と呼ばれる、インドから連れてこられたコブ牛の群れが山の斜面で放牧されているのが見えました。
峠を越えると、ガイドは車を停め、そこが「三角ヤシ」の群生地であることを告げました。「三角ヤシ」とは幹の断面が三角なのでその名が付いた、マダガスカルのその一帯にしか自生しない珍しい木です。道から見上げると、山のそこここに「三角ヤシ」が立って、3方向に広がる葉を茂らせていました。

「世界中でここにしか自生していない三角ヤシ」

もう少し走ると、またガイドは車を停め、今度は、そこが「トゲトゲの森(Spiny Forest)」であることを告げました。そのあたり一帯は、「アルオウディア・プロケア」という幹や枝にとげのある木やウチワサボテン、サイザルなど、トゲトゲの植物ばかりが茂っているので「トゲトゲの森(Spiny Forest)」と呼ばれているのです。実に奇妙な景色で、日本ではもちろん、これまで、世界のどこへ行っても見られなかった植生です。

「トゲトゲの森(Spiny Forest)」

「アルオウディア・プロケア」はトゲトゲよりも、木の幹からいきなり直接葉っぱが生えている事の方が特徴的な、本当に珍妙な木です。ウチワサボテンはちょうどこの時期、黄色く丸い実をつけていました。ジャムなんかにもできる実だという事です。

「黄色い実のウチワサボテンとミキの先が細い
アルオウディア・プロケア」

さらに少し進むと、次は、見渡す限り、視界の届く限り広がる、サイザルの畑が車を迎えてくれました。壮観です。サイザルはロープや、バッグやサンダルなどの日用品に加工される麻ヒモの原料となる、メキシコのテキーラの原料である「竜舌蘭」と同じ種類の植物です。
実は、ベレンティ保護区というのは、この広大なサイザル畑の農園主であるフランス人が、個人的に経営する保護区だそうで、そのサイザル畑の真ん中を突っ切って進んだ果てに、やっと目指すべきベレンティ自然保護区に到着できました。タウランニャロ(フォートドーファン)を出てから3時間経っていました。

「サイザル畑とゼブ牛を連れ歩く子供たち」

☆アカビタイチャイロキツネザルとワオキツネザルのお出迎え
アンタナナリボのホテルを出てから7時間。ようやく辿り着いたベレンティ自然保護区でしたが、しかし、旅の疲れはキツネザルたちが吹っ飛ばしてくれました。まず、宿泊するロッジの目の前にも出没するワオキツネザルと周りの木々を飛び回るアカビタイチャイロキツネザルが訪れた人を出迎えてくれます。

「ベレンティのワオキツネザル一家」

「ベレンティのアカビタイチャイロキツネザル」

アンタナナリボの動物園で、既にキツネザルたちには会ってきたボクでしたが、この、あまりにも近い距離での彼らのお出迎えに、ボクは驚くやら嬉しいやらで、頬がゆるみっぱなしでした。
荷物をロッジに置いたボクを、ガイドは早速、周りの森の散策に連れ出しました。ワオキツネザルとアカビタイチャイロキツネザルは、保護区の中では至る所で見られます。
ワオキツネザルは「輪尾狐猿」。英語名「Ring Tail Lemur」その名の通り、しっぽが輪っかを重ねたような縞シマのガラなのです。四つんばいで歩くときは、その派手なしっぽをピンと立てているので、子連れで一家そろって歩いているときなど、とってもかわいい姿です。

「アルオウディア・プロケアの幼木とワオキツネザル」

「電線をアカビタイチャイロキツネザル」

アカビタイチャイロキツネザルは「赤額茶色狐猿」。英語名は本当は「Red-fronted Brown Lemur」なのですが、ここでは単に「ブラウン」と呼ばれていてチャイロキツネザルだと思われがちです。木の上でガサガサと音がすると、たいていはこのアカビタイチャイロキツネザルがエサの木の実などを探しているところです。屋根の上や、電線の上なんかも器用に歩いていて、神出鬼没なキツネザルです。(このあと訪れたペリネでは、いっそう慣れていて、ボクの肩に飛び乗ってきました→冒頭の写真)
☆横っ飛びベローシファカ
森の中に入っていくと、ジカッコウやカンムリカッコウ、木の上に作られた蟻塚、大きなトカゲ、ヘビなど、さまざまな生き物が見られ、ガイドはよほど目が良いのか、音を聞き逃さないのか、うまく見つけてはボクに見せてくれました。
もうあたりが暗くなってきて、今日の観察はおしまいかな、と思い始めたとき、ガイドが足を止め、前方の木の上を指差して「シファカ。」と言いました。
何年も前に、テレビのCMで横っ飛びする映像が使われて話題になった、あの「ベローシファカ」です。

「木の上のベローシファカ(2匹)」

「木の上のベローシファカ(1匹)」

ボクはアンタナナリボの公園でも、放し飼いされているシファカを見ましたが、木の上に居るばかりで、まだ横っ飛びする姿は見ていませんでした。
ガイドが指し示す方を見ると、薄暗い中、何匹ものシファカが木の上で飛んでいます。ボクはカメラを構え、佇んで待ちました。そのうち、1匹が、木から木へ渡るために、2〜3歩ですが、地面の上をピョンピョンと横っ飛びしました。「やった、ついに見た!」 でも、それは木々の間で横っ飛びしたものでしたから、手前の木がじゃまで、カメラには撮せていませんでした。
さらに待っていると、また一匹が道端の木まで出てきて木の上に止まりました。そして次の瞬間、ピョンピョンピョン。横っ飛びしたのです。ボクの目の前の道を横切って。

決定的瞬間!!横っ飛びするベローシファカ
「へっへっへっへ。やったやった、撮せたでぇ。」その瞬間をうまくカメラに納めることが出来たので、思わずほくそ笑んだボクでした。
残念ながらその後、雨が本格的に降ってきてナイトサファリには行けませんでした。森には夜行性のキツネザルたちがいっぱい居るのに、です。でも、もうけっこうおなかいっぱいなぐらいに満足できたので、ロッジのドアの前でボクを待っていたかのようなワオキツネザルに迎えられ、ボクは、雨音を聞きながらゆっくりと眠ったのでした。

「ベレンティ・ロッジの部屋」

☆朝食を狙うワオキツネザル
翌朝、朝食を食べにカフェテリアを訪れると、そこにもワオキツネザルがいました。ボクに朝食を出してくれた人が、カタコトの日本語で「ドロボウです」と言いました。果たして、ボクが食事を始めると、次々とワオキツネザルたちが集まってきて、食べ物を狙っています。カフェテリアの人が、何度追い立てても、庭から、屋根の上から、ぴょんぴょん跳ねて、あきらめずにやってきては、じわじわとボクのテーブルににじり寄ってくるのです。
ついに1匹がかいくぐって、ボクの目の前に顔を出しました。思わずこぶしを握って殴りつけるフリをしたら、逃げていきましたが、ホントに楽しい所です。

「カフェテリアのワオキツネザル」

☆仙人のようなイタチキツネザル
朝食後、ガイドはボクを保護区の近くのトゲトゲの森に案内してくれました。また、ここでも、たくさんのワオキツネザルとアカビタイチャイロキツネザルがボクを楽しませてくれましたが、その他にも亀(ホウシャガメ)や木から逆さにぶら下がっているコウモリ(フルーツバット)、地面を歩く郭公(オニジカッコウ)など、次から次へと珍しい生き物が現れました。

「ホウシャガメ」

「コウモリ(フルーツバット)」

「オニジカッコウ」

ところが、そこで、ガイドの足がハタと止まり、あたりの木の上をキョロキョロと見回してから3~4m先の木の上(地上3mぐらい)を指さします。そこにはアルオウディア・プロケアの大きな木が5本ほど密生していたのですが、その木と木の間のすきまに小さな、でも目は大きな、灰色のキツネザルがじっとこちらを見つめているのを、最初はなかなか分からなかったのですが、やっと見つけました。

「シロアシイタチキツネザル」

夜行性のシロアシイタチキツネザルでした。夜行性なので、ほんとはナイトサファリで見られるものだそうです。ガイドは、こいつを朝見られて、おまえはラッキーだ、と言いました。じっとこちらを見つめています。臆病だそうで、ボクたちへの注意はそらしません。まるで、仙人のような雰囲気です。夜行性なので活発ではありませんが、それでも時々動いて、きょろきょろ違った方向も見ていました。
夕方から次の日の午前中までの短い滞在でしたが、キツネザルの楽園・ベレンティ保護区の時間は、とてもそんな短い時とは思えない、ボクには忘れがたい最高に楽しいものでした。
2012年3月 小澤

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