タンザニア・究極ロッジでサファリ体験

タンザニア・究極ロッジでサファリ体験

究極ロッジへの長い道のり
 タンザニアでの滞在中、初日のサファリロッジが湖の畔のマニャラ湖国立公園にある「レイクマニャラ・トゥリーロッジ」であった。正確な位置関係も把握せずにやってきたのも問題だったが。昨夜泊まったアンボセリ国立公園からケニアとタンザニアの国境であるナマンガまで約2時間。国境を越え中継地点のアルーシャまで2時間、ランチを食べて一休みしてからマニャラ湖国立公園まで走ること約2時間。随分走ってたどり着いたゲートでほっとしたのもつかの間、ロッジは国立公園の南端に位置し、なんとゲートからまた延々と2時間もかかったのであった。もう夜の7時半、あたりは真っ暗である。
その代わり、着いたのはナチュラル度満点、究極のサファリロッジと呼べるところであった。そうでなくとも鬱蒼としたジャングルの、漆黒の闇の中に到着すると、バトラーとマサイ族のセキュリティーガイドとなぜかレストランのコックさんの女性が、トーチを持って3人でお出迎えしてくれた。10室しかない小さなロッジには、今夜は2組しかゲストがいなくて、ひたすら静かだ。聞こえるのは鳥や獣の鳴き声ばかり。


ナチュラル度100%、ジャングルのロッジ

案内されたコテージは、自然素材が生かされたインテリアで、ナチュラルながらとてもエレガントであった。蚊帳のある大きなベッド、天井にシーリングファンが回り、板張りの床にはしゃれた籐製カーペット。ゆったりしたバスルームには、白いオーバーサイズのバスタブが素敵だ。シャワーは屋外にあってセンスはいいものの、夜は蛾や虫が多いのでちょっと遠慮しておく。ジャングルの真っ只中にいるのでそれも当然だが、部屋の灯りにおびき寄せられ飛んでくる野鳥が、ドアやガラス窓に時おりぶつかりながらコテージの周りをぐるぐる飛び回っているのにはびっくりした。
マニャラ湖にて このロッジでは、通常はボマディナー(焚き火を炊いての屋外ディナー)なのだが、着いたのが遅く疲れたのでルームサービスにしてもらった。大振りのボールにたっぷりのパンプキン・ポタージュにステーキ、デザートにコーヒーは、どれもが洗練された味わいだ。こんな辺境の地でよくぞここまで!と感心してしまった。だが、ここが知る人ぞ知る高級サファリロッジチェーン「C&Cアフリカ」のホテルだと聞くと、それも納得させられる。
マニャラ湖国立公園は、湖の畔の緑に溢れたジャングルの中の道を走ったり、広々と視界の開ける草原を走ったりする、変化に富んだサファリが楽しめる。ゲートの近くに群生するバブーンをはじめ、象にキリンにカバにハイエナ、サバンナモンキーなどなど、たくさんの動物に出会えるサファリであった。
マニャラ湖にて
またまた予期せぬ長い道のりが・・・
 出発の朝は、スタッフ総出で手を振ってお見送り。なんだかほのぼのと嬉しかった。次なる目的地はセレンゲッティ国立公園。そして目指すロッジまでは、またもや1日ががりの道中であった。マニャラ湖のゲートまで2時間、そこからンゴロンゴロ動物保護区のゲートまで約2時間、 セレンゲッティ国立公園のゲートまでまた2時間。そして滞在先「キラウィラ・キャンプ」までは、ゲートから西へ2時間。ウエスト・セレンゲッティとは聞いていたが、これほど辺鄙なところにあるとは予想もしていなかった。ちょっとホテル選びがこだわり過ぎのせいではあるが。
ケニアのマサイ・マラ動物保護区と国境を接しているセレンゲッティ国立公園は、マサイ・マラと共通した大草原の、スケールの大きいサファリが魅力である。セレンゲッティにて地平線が見えるようなダイナミックな眺めは、やはり見ているだけで幸せな気分になれるのだ。この国境を行き来できるのは動物とマサイ族だけで、一般的にはここの国境は越えることができず、マサイ・マラからセレンゲッティへは、ナイロビへ戻ってぐるっと廻って行かねばならない。近くて遠い、不思議な存在である。
テントロッジの悦楽
「キラウィラ・キャンプ」は、標高1,272メートル、セレンゲッティ国立公園のサバンナを見下ろす丘の上に立つテントロッジである。ケニア・タンザニアでサファリロッジを展開するセレナホテルチェーンであるが、このロッジだけは、他のセレナと一線を画すほどの高級感漂うキャンプである。まるでイギリス貴族がお忍びでやって来るようなイメージとでも言おうか。コロニアル気分満点の天蓋蚊帳つきベッドに、アンティックなライト、マホガニーと大理石のバスルームがラグジュアリーだ。そして特筆すべきは、棚がたくさんついた上質の革製のクローゼット。なかなか重宝である。これがテントなのだから驚きである。
風がそよそよと通り抜け、夜は窓のテントも下ろし、ファスナーを閉めて寝るのが快適だ。朝はエントランスの幕を上げると、十分な光が網戸を通して差し込んでくる。眺めのいい開放的なテントは、昼間はライトなしで本が読めるほどの明るさがすばらしい。居ながらにしてサバンナの緑を楽しみ、鳥のさえずりを聴き、夜にはハイエナの遠吠えなど聞こえる楽しみは、なかなか他では味わえない。
5:45起床。6:00モーニングコーヒーのサービス。(モーニングコールを兼ねる)モーニングコーヒーに紅茶、それにスコーンが付いている。
6:30朝のサファリに出発だ。インパラの大ファミリー、キリン、イボイノシシ、象、ハイエナ、トピ、ヌー、大きなワニのいる川にカバもいた。ハゲコウが群れている。そこにライオンのカップル登場。2頭とも足が1本ずつない。ドライバーガイドいわく、近隣で暮らす人々が家畜の牛を食べられるため、ワナを仕掛け、それにかかってしまったとか。痛ましいことだ。
9:00ホテルに戻り朝食である。早朝からサファリに行くとお腹が空いてヘルシーなことこの上ない。クロワッサンにトースト、ブリオッシュにシリアル。パンケーキにフルーツ。最高の眺めがますます食欲を増進してくれる。いつの間にか、目がまん丸な青い鳥がパンを狙ってテーブルまでやってきた。オレンジ色の鳥も来た。
ボーイさんが近づいてきて言った。「シャンペンはいかがですか?」
可愛い赤ちゃんがいっぱい登場
南北16キロ、東西19キロの巨大なクレーター。ンゴロンゴロ自然保護区は、クレーターの底(火口原)に棲息する野生動物の多さで知られる、自然の世界遺産である。火口縁の標高は2300メートル、クレーターの底との標高差は600メートルもある。クレーターを取り囲む臼状の壁は、ジャングルのように深い山々の緑であり、クレーターの底に広がる大草原には、フラミンゴが群れをなす湖まである。クレーター内で生まれ育ち、一生をここから抜け出すことなく過ごす動物が多い。ライオンに象、ヒョウやバッファロー、カバにシマウマにヌーなど、サファリ愛好家垂涎のダイナミックでスケールの大きいサファリが楽しめるのである。しかし、クレーターにはキリンがいないこと、クレーターの底には象はオスしかいないこと、子供の象はきわめて少ないこと。今回ガイドさんに聞いてはじめて知ったことだ。
年中、霧が発生しやすいため、局地的に天気が悪くなったり、また急に良くなったりとめまぐるしい変化が、ここでは当たり前だ。とりわけ雨季に入った今は雨も多く、代わりに緑の美しさは格別。5月には黄色や白の花々が咲き乱れ、雨季でも眺めのよさは最高だ。6月からは乾季に入り風が強く乾いた夏の到来である。
ここでのサファリの圧巻は、1月に出産を終えたヌーやシマウマの群れに出会ったこと。少し成長して可愛くなった赤ちゃんのヌーやシマウマがお母さんのおっぱいを飲んでいる姿をすぐそばで見るのは楽しいものだった。それにしてもヌーとシマウマは仲がいいのだ。それぞれの大群が混ざり合って、今にもシマウマの赤ちゃんが間違えてヌーのおっぱいを飲みそうな気配。動物の親子の姿は微笑ましいものだが、赤ちゃんを背中におんぶしたバブーンや、大小5匹のイボイノシシの家族がちょこちょこ一列に歩く姿もコミカルで大好きだ。
お庭にバッファローがいるホテル
 「ンゴロンゴロ・クレーターロッジ」は、火口縁に立ち、500メートル下に広がるクレーターのパノラマを一望の下にできるサファリロッジだ。今回、もっとも期待してきた、ずっと泊まりたくて仕方がなかった憧れのロッジである。ここも「CCアフリカ」のチェーンで、なおかつ「スモール・ラグジュアリー・ホテルズ」のメンバーでもある、格式ある高級ホテルだ。
全30室のコテージは、古代アフリカ建築をモチーフにした、ユニークで心ときめく外観は遠い昔の探検隊を思い出すコロニアルなイメージ。室内は外見からは想像もつかないインテリアなのである。室内に足を踏み入れた途端、私はアッと感嘆の声を上げてしまった位だ。「アース&バロック」と謳われるように、土色をベースにしながらアクセントになる絵タイルや彫刻、インテリア小物にリネン類は本物のラグジュアリー。かやぶき天井にかかるヨーロッパの古城ホテルのようなクリスタルの豪華なシャンデリア。ことごとくミスマッチの美学!ゆったりと広いスペースにすべてが不思議なほど溶け合い、極めて魅力的な空間を生み出している。
 24時間体制で至れり尽くせりのバトラーサービスも、ちょっと他では味わえないスノッブな気分になれる。ある日のこと、昼寝が長引いて目が覚めると夕方。いつの間にか部屋の暖炉に火がついていたのだ。寝ている間でもバトラーさんは私の部屋に出入りして暖炉をつけたりの世話をしてくれる。これぞ本物のバトラーサービスだ。
 ガラスの扉を開け放ち、ベランダへ出る。すると目の前にヌッと顔を見せたのは、なんとバッファローであった。ホテルの敷地内で放し飼いになっている十数頭のバッファローたち。最初はびっくりしたが、慣れれば可愛い存在に思えてきた。昔からバッファローが棲みついている場所にホテルを建てたのだからと、彼らを追い出すのでなく共存しているのがすばらしい。ホテルスタッフは皆、とってもおとなしい彼らのことを、愛着を持って「クレーターの牛」と呼んでいるのだった。



井原 三津子
2004年3月(3月25日〜4月4日)

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